第19話 護摩堂

「レモンお姉さま。どうしても、この格好じゃなきゃダメですか?」

 黒い法衣を着せられたみかんは、不満を爆発させている。

「今日は、しょうがないだろ! 私だって不本意ではあるが、この格好してるんだ。頭を坊主にされていないだけ感謝しろ!!」

「だってぇ」

 文句を言っているみかんの目の前を、巫女姿の女性が横切る。

「あぁ~、林檎さん!! 巫女装束似合ってますね。いいなぁ」

 声をかけられた少女は、頭を下げた。

 東北出身らしい彼女の肌は透き通るほど白く、赤い長袴がよく映えた。

 腰まで流れる黒髪は、光を反射し少女の美しさを増している。

「お二方は、仏式なんですね」

「そうなの。私、神式が良かったかも……」

「みか~ん、衣装で決めるな!! さっさと護摩堂へ行くぞ。アスパラが待ってる」

 ポカリと一発頭を叩かれるみかん。

 仏頂面を前面に出し、レモンの後に続く。


 二人の後ろ姿を見つめる少女。その瞳に宿る意味深で、微かに強い光。走っていく二人の背に踵を返して、祭壇のある部屋へと向かった。


 護摩堂では、アスパラが汗だくで護摩木の準備などをしていた。

「もう、何していたんですか! 時間がありませんよ」

 珍しく声を荒げるアスパラ。

「きゃー(≧∇≦) アスパラさんの法衣姿。なんか、なんか萌えます♡」

「……えっ?」

 この状況で、この反応?

 もうここで、みかんに突っ込むのはやめようと思うレモン。

「準備を整えたら、護摩壇の前に座って真言を唱える。不動明王の結界の中にいれば安全だ。いいか、絶対にここから出るなよ」

「はい!」

 相変わらず、返事だけはいいみかん。

 アスパラは慣れない仏式の修法に緊張気味だ。


「ノウマクサンマンダー ○×△*#%~」

 護摩壇に火がくべられ、不動明王の真言に包まれる護摩堂。

 炎が高く伸びたとき、バキッという嫌な音が響いた。

 同時に、三人の背後に靄が拡がり部屋の中の温度が下がる。

「どうして『呪い』が結界の中に……?」

 焦るレモン。

「アスパラ、みかん。私は護摩を焚き続けるため、後ろを見ることができない。敵の正体は掴めるか?」

「靄でよく見えません。人型というのはわかるのですが……。みかんさんは、わかりますか?」

 みかんは、胸に下げたドリーム・クリスタルを握り締め、靄の奥に揺らめく人の影を見つめた。

「女性だと思います。嫉妬・憎しみの感情が伝わってきますが、それ以上の事は……」

「おい、ちょっと待て! 龍や蛇や狐を使った呪詛じゃないのか?」

「違います! それだけは、わかります」

 みかんの答えに大きく頷くアスパラ。

「まさか、生霊か? だとしたら、『呪詛返し』をしたら相手は確実に死ぬぞ」

「ど、どうしましょ。私の徐魔法では対抗できません」

 レモンは「火界呪かかいじゅ」を発動することを躊躇った。

 「火界呪」で人型を燃やせば、「呪い」は消えるが相手も死んでしまう。

 それだけは、避けたかった。


 光明真言こうみょうしんごんで、この靄は消えるのだろうか?


 レモンが次の一手を考えた時、靄の向こうの人型がはっきりと浮かんだ。

 その顔は真っ黒に塗りつぶされている。

 人型の口から、呪文のような文字が現れ三人に巻き付いた。

「うっ」

 三人は倒れ込み、意識が過去へと引っ張られた。


 護摩壇の炎が、小さく弱くなっていく。





  

 

   

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