第18話 予言
「あぁ~!お前、私の大事なお宝に顔をうずめるんじゃねぇ」
アスパラの胸に顔をうずめるみかんを、力づくではがそうとするレモン。
「あのぉ、職員室に行かなくていいんですかぁ?」
困ったアスパラが、大きな声をあげた。
「あっ、やべ。来いって、ばばぁに言われてたなぁ」
「パプリカ校長を、ばばぁって……」
レモンの口の悪さに辟易するアスパラだったが、今更たしなめたところで何も変わらないだろうと通常モードに気持ちを切り替える。
「レモン様、みかん様。急ぎましょう」
みかんは職員室に向かう途中、アスパラのことを考えた。
いつも優しいアスパラ。
大好きなアスパラ。
いじめられていた辛い過去があったなんて、思いもしなかった。
強い人だなぁ。
ううん、強くなったのかもしれない。
私も、そうなりたい。
みかんは、廊下を小走りで急ぐアスパラの背中を追いかけた。
職員室の扉の前で、真っ黒なフードをすっぽりかぶった小柄な女性が杖をつき待っていた。
「遅かったですね」
「も、申し訳ございません。パプリカ校長」
深々と頭を下げるアスパラ。
「よいよい。どうせ、レモンがくだらない話でもしていたんじゃろ」
ニヤリと笑い、レモンを見上げる。
「はぁ? くだらねぇ話なんか、これっぽっちもしてねぇ。大事な話だ!」
「ほぉ、夕べの話でもしていたのかい?」
「夕べの話って――。まさか、ばばぁ……じゃねぇ、パプリカ校長、今回の一件を?」
「私が、知らぬとでも思ったか?」
茫然とするレモン・アスパラ・みかん。
「まさかと思うのですが……抜き打ちテストだったとか?」
みかんが尋ねる。
「抜き打ちではなかったのだが、生徒の中で二人だけ夢に惑わされずいたから、ちょっと様子を見ておった。そうしたらほれ、解決しよるからのう」
「……まんまと、泳がされたか。まぁ、いいや。それで、私たちにご用件は?」
レモンが背筋をただす。
「それについては、マカロニ先生から話がある。談話室に行きなさい」
なぜ?
三人は少し違和感を覚えたが、パプリカ校長に言われた通り談話室へ向かった。
談話室にはマカロニ先生が一人。相変わらず、気難しい顔をしている。
「三人とも、時間がないので手短に話します。明日『呪詛返し』の実践のために学園の結界が一時的に外されることは知っていますね」
「はい」
三人が口を揃える。
「結界が外されると、この学園を良く思っていない者たちの、ハッキリ言えば魔者たちからの呪いがやって来ます」
「それを、私たち生徒が『呪詛返し』するんだろ? 結構、ハードな授業だと聞いた」
「その通りです。実は……今回の『呪詛返し』の実践では、予言がありました」
「予言?」
人払いをするあたり、あまり良い話ではなさそうだなとレモンは思った。
「マカロニ先生、どんな予言があったのですか?」
みかんだけは、予言という言葉に興奮している。
「三つの光が『呪い』に飲み込まれ、道が二つに分かれるであろうと」
顔を見合わせる三人。
「その予言、私たちとどういう関係が?」
「レモンさん、この学園で三人行動しているのは、あなた方を置いて他にいないのですよ。自分の能力を隠しておきたい者たちの中で、全てをオープンにして学園生活を送る者は非常に珍しいのです。ですから予言の三つの光とは、あなた方の事を差していると思われます。そして、三人は『呪い』に飲み込まれると……。今回の実践ですが、辞退してもいいのですよ」
マカロニ先生が、人差し指で眼鏡を上げる。目元は、厳しいままだ。
「はぁ? そんな予言信じて辞退するわけないじゃないですか。道が二つってことは、未来はまだ確定してないってことですからね。私は、やりますよ!」
レモンに続いて、二人も大きな声で宣言する。
「やらせて下さい!」
「……わかりました。この予言は、私と校長しか知りません。他の先生方に話せば、三人の参加はあり得ないでしょうから。とりあえず心して準備をし、明日に備えて下さい。わかりましたね!」
「はい!!!」
部屋に向かいながら、明日の段取りをする三人。
「呪いに飲み込まれるとは、穏やかじゃないなぁ。アスパラ、みかん、お前ら不動明王とご縁は貰っているか?」
「はい、私は真言を授かっております」
「みかんは?」
「私も、バッチリですよ~。お不動様、大好きです。強面なのに優しい仏様ですよね」
「あぁ。しかし、あの予言を聞く限り不動明王だけでは対応できないかもしれないな。アスパラ、他には?」
「孔雀明王様にもご縁を頂いておりますが……」
「へぇ~。なら、徐魔法を使えるわけだ」
「はい」
「みかんは?」
「私は、弁財天様ですよ」
「弁財天様には、確か琵琶を持った姿と武器を持った姿、それから宇賀神を乗せた姿と三つに分かれるが、お前が縁を頂いたというのは?」
「琵琶を持った美しい弁財天様です」
「ということは、金運と芸事に強い仏様だな……」
「はい♡」
武器を持った弁財天であって欲しいと願ったレモンだったが、仕方がない。
「……まぁ、あれだ。明日は、気合を入れていこう」
一抹の不安を抱えながら、レモンは部屋に戻った。
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