第15話 みかんの能力
レモンの怒りが開放されると、みかんのドリームクリスタルの輝きが消えた。
「あれ? 私、なにか言ってました?」
首を傾げながら、ぼぉーとしているみかん。
「レモン様、みかん様に何が起きたのか分かりますか?」
「あぁ、みかんの中の『眠れる力』が呼び起されたのだろう。眠れる預言者・エドガーケイシーと一緒のタイプだよ。アカシックレコードに繋がり、個人のデーターを読み込む。ただしリーディング中は、自分の顕在意識は沈んでしまうんだろうな。だから、自分の話したことは覚えていない。それから……」
「それから……?」
「あっ、いや。まぁ、あそこまで詳細にリーディングできる人間は、そういないだろうな」
「そうですね」
「あっ、あのう、おらのアリスちゃん。この箱から出してもいいだか?」
ゴブリンは、アリスを手のひらに載せると頭を優しく撫でた。
「あのぉ、一体何があったのですか? 誰か、私に教えて下さい!」
記憶のないみかんは、途方に暮れて叫んだ。
「アスパラ、かいつまんで説明してやってくれ。私は、まだアリスと話すことがある」
「はい。みかん様、気分はいかがですか?」
「なんか、ぼぉ~としてます」
「では、こちらの椅子に腰かけて、私の話を聞いて下さい」
二人の様子を見やりながら、レモンがアリスに詰め寄る。
「おい。お前の先祖がかつての私にやったことは、水に流してやる。しかしな、今回のことは別だ!」
「レモン様、許してやって下さい。これから先は、悪さしねぇようにおらがちゃんと見ますので……」
「お前の母ちゃんがこう言っているが、お前はどうするんだ? これからも人の夢を操作して、仲間を増やすつもりか?」
「いいや。そんなことをして、種の存続を計っても過去の過ちを繰り返すだけだろう。母親の愛を知らずに育つ。そんな負の連鎖は、俺で断ち切った方がいい。そんな気がしてきた」
「ほぉ。では、今回の件は大目にみてやろう。操っていたガマガエルたちも元に戻しておけ。あと、一つ質問がある」
「なんだ?」
「私とアスパラにだけ、夢にイケメンが現れなかったのは何故だ?」
レモン、アスパラ、みかんの視線が、アリスに集まる。
「あぁ。アスパラさんの場合、好みの男性がイエス様だったので、流石にあの神々しさを表す男性を作ることができなかった。レモンさんの場合は……」
アリスが、くっと笑いを堪える。
「なんだ。ハッキリ言ってみろ!」
「レモンさんは、年齢・性別関係なく感覚で人を愛せるタイプだったので、好みの男性を絞ることができなかっただけです」
「はぁ?」
レモンとアスパラは、夢にイケメンが現れなかった理由を知り(聞かなきゃ良かった)と、後悔していた。
みかんだけがお腹を抱えて大笑いしている。
事件が無事に解決し、三人にどっと疲れが押し寄せてきた。
「明日も授業があるから、とっとと休むぞ」
足元がふらついているみかんを部屋に送り届けたあと、アスパラがレモンに訊ねた。
「レモン様、ガラバン星人に対する怒りは消えたのですか? それとも、無理に……」
「無理やり怒りを抑え込んだりはしていない、安心しろ。オオクニ星での出来事は、大きな傷として私の潜在意識に沈んでいたのは確かだ。だがな、私以上に苦しんだ母が、敵を赦せとそう言ったんだ」
「えっ? メリルさんだった時の母って、まさか……?」
「あ~ぁ、みかんが過去生で私の母親だったなんてなぁ。神託をするみかんを見て、ようやく気付いたよ」
「みかん様は、そのことを?」
「いいや、気づいてもいないだろう。だからなぁ、アスパラ、絶対に言うなよ!」
「はい! 絶対に、いいません!!」
「だいたい、メリルの母は、もっと美人で聡明な人だったんだ。今の、みかんとは似ても似つかん!! なんで、こうなる?」
「私に言われましても―― 全く、全然、面影がないのですか?」
「普段のみかんには、全くない!! だが、神託をしているときは別だ。あれは、オオクニ星で大巫女だった母そのものだった」
「ということは、みかん様の能力は……」
「巫女系魔女だろうな。占い・神託・預言それらを得意とすると思うが、顕在意識が沈んでいる時しか力を発揮できないとなると、厄介だな」
「そうですね」
二人は、みかんの部屋の扉を見つめると、小さなため息をついた。
計り知れない力を秘めたみかん。でも、その力を使いこなせなければ意味はない。
疲れ切った足取りで、部屋に戻る二人の後ろ姿をパプリカ校長が物陰からじっと見ていた。
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