第11話 レモンの過去
みかんがペンを取る。
誓約書の内容を確認しようとしたが、それは象形文字に似た字で書かれていて読むことができなかった。
サインしてしまったら、一体何が起きるのだろう?
怖い…… 怖い……。
ペンを持つ手が震えていた。
『みかんさん、早くサインをして下さい。この人、もうすぐ死んじゃいますよ』
見ると、アスパラが気を失っている。呼吸が弱い。慌ててサインをしようとした時、レモンが叫んだ。
「やめろー、みかん! お前がサインしたところで、このクソみてぇな状況は変わらねぇぞ」
レモンが立ち上がろうとすると、顔の中心に張り付いていたガマガエル動く。そして、レモンの口を塞いだ。気を失いかけたその瞬間、レモンの忌まわしい記憶が蘇る。
それは、遠い遠い記憶。
太陽系外の銀河にあるオオクニ星で暮らしていた宇宙世の記憶だった。レモンはメリルという少女で、二歳上の兄と両親と四人で生活している。この頃の宇宙は侵略時代で、常に好戦的な星の住民に侵略される危険があった。しかし、メリルの星は文明が遅れていたため、侵略者たちにとっては魅力のない星だった。それが幸いしていて、平和な暮らしが続いていた。だが、その生活は突然終わりを告げた。
銀河でも一番野蛮な種族。ガラバン星人がやって来たのだ。その姿は、地球のガマガエルとよく似ていた。川遊びをしていたメリルと兄の前にガラバン星人が現れる。
メリルは突然口を塞がれ体を拘束された。そして、目の前で兄を食い殺されたのだ。ガラバン星人にとって、侵略される者たちの恐怖と悲しみと苦しみと痛みと絶叫が、何よりのご馳走だった。だから、決して一気には殺さない。いたぶって、いたぶって心が壊れるのを待つ。そして、絶望の底に沈み心を失った若い女性に自分の子を産ませるのだ。メリルもその犠牲者だった。
封印されていた過去が開放され、レモンに力が戻った。口を塞いでいたガマガエルを引き離し、地面に叩きつけた。そしてみかんの手から、ペンを取り上げる。
「もう、大丈夫だ」
そう一言声をかけると、レモンはガマ人間のお腹に鋭い蹴りを入れた。
よろめいたガマ人間は、アスパラから舌を離す。
「みかん、アスパラを頼む!」
「はい!」
レモンはガマ人間の頭を掴み、どすの利いた声で問う。
「お前、ガラバン星人か?」
『ち、ちがう! 俺は、この学園の泉に住んでいるガマガエルだ。三日前、赤く燃える物体が泉に落ちてきて、それに乗っていた奴に言われたんだ』
「なんて?」
『この星を自分たちの物にしたくないかって』
「それで?」
『俺たちは、もちろんと答えて協力することにしたさ。そいつは一匹のガマガエルに寄生して、仲間に指示を出している』
「そいつは何処にいる?」
『わからない。指示命令は頭に直接響くから、そいつがどこにいるかは知らないんだ』
レモンは、ガマ人間にもう一発蹴りを入れた。お腹をおさえ、地面に倒れ込むガマ人間。
「みかん! アスパラの容体は?」
「大丈夫です! 意識を取り戻しました」
「そうか。二人ともこの世界から出て、黒幕を探すぞ」
「レモンお姉さま、どうやって、ここから出るのですか?」
「目覚ましをセットしてきた。もうすぐ、鳴る時間だ。まずは、私とアスパラがこの世界を出る。そうしたら、お前を起こしに行ってやるから安心しろ」
「レモン様、何もかもあっぱれです。私は、何もできませんでした……」
そう言って、落ち込むアスパラ。
「おい、ガマ人間。私とアスパラが居なくなってから、みかんに何かしてみろ。命のの保証はないぞ!」
『はっ、はい!!!』
目覚ましが鳴ったのか、レモンとアスパラが消えた。
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