第2話 マントの下 

「ん? 様子が変だな……」

 後ろを振り返り、山の空気を確かめるレモン。

「アスパラ、何か感じるか?」

 目を瞑り、全神経を集中させるアスパラが首を横に振る。

「わかりません……。犬たちにコンタクトを取ってみますか?」

「あぁ、そうしてくれ」

 アスパラは、胸のロザリオを両手で握りしめると小さく呪文を唱えた。

「伝わってくるイメージは、警戒と怯え。空を流れる燃える火」

「犬たちは、流星に怯えたのか?」

「そうかもしれません」

「——」

 どこか腑に落ちない様子のレモンだったが、城の外も中も変わった様子はない。

「結界が破られた様子はないし、まぁ大丈夫だろう。」

「そうですね。私は部屋に戻って、祈りを捧げてから休みます」

「あぁ、おやすみ。じゃ、明日の朝は、いつものようにみかんの部屋の前で」

「はい」


 翌朝、学園の制服であるフード付き黒マントを羽織り、部屋の扉に鍵をかけようとするみかんをレモンとアスパラが呼び止めた。

「み~か~ん! 派手なドレスがマントからはみ出してるじゃねぇか。着替えろ!」

「えぇ――。マントの下は私服でいいって決まりじゃないですかぁ」

「くじらの骨の入ったそのドレスで、ほうきに乗れるわけないだろうが!!」

「みかん様、今日はほうきに乗る授業ですよ。そのドレスでは無理です」

 アスパラが耳元で囁く。

「う~ん。じゃあ、着替えてきまーす」

 しぶしぶ着替えに戻るみかん。レモンは、壁にもたれイライラしていた。

「毎朝、これだ。あいつ、天然なのか? わざとなのか? 全然読めねぇ」

「悪気はないと……思います」

 ドアが勢いよく開いた。

「着替えました!!」

 元気に部屋から出て来たみかん。黒いマントのしたからはみ出している服はない。

ただ、派手なソックスが気になった。

「マントの中を見せてみろ」

「はぁーい♡」

 マントの中から現れたのは、トラ柄のビキニ。絶句する二人に

「ラムちゃんだっちゃ!」

とウィンクするみかん。

「もう一度、着替えろ!!」

 握りこぶしで壁をゴンっと叩くレモン。その眼光は、先ほどより強くなっている。

「ふっ、ふわい!」

 みかんは慌てて部屋に戻った。

「あれでも本当に、悪気がないと思うか?」

「……」

 アスパラは何も言えなかった……

 バン!

 今度も勢いよくドアが開いた。

 着替えが終わったみかんに

「みかん様、今度は大丈夫ですよね? 念の為にマントを脱いで下さい」

と、アスパラが声をかけた。

「またぁ? 今度は大丈夫よ。強い恰好してきたから。ほら、殺生丸の衣装だよ! 凄いでしょ」

 レモンの細く長い脚が蹴りだされ、みかんの顔の前でピタリと止まった。

「私に蹴り倒される前に、さっさと着替えろ!!」

「落ち着いて下さい、レモン様。次は、大丈夫ですから! みかん様、時間がありませんよ、早く着替えて下さい」

「……うっ、うん」

 これから授業だというのに、レモンとアスパラは疲れ切っていた。

 今度は、静かにドアが開いた。恐る恐る部屋から出て来たみかんに、レモンが低い声で一言。

「……見せろ」

 ピリピリした空気を感じ、すっかり大人しくなったみかん。マントの下に着ていたのは、進撃の巨人・調査兵団の衣装だった。

「……駄目ですか?」

 上目遣いで尋ねるみかん。

「アスパラ、どう思う?」

「動きやすそうですし、時間もありませんし、これでよろしいかと」

 レモンが大きくため息を吐く。

「そうか……。 行くぞ!」

「はい!!」

 調査兵団の衣装でご機嫌なみかん。それと対照的に、疲れた様子のレモンとアスパラ。三人は、教室へと向かって行った。




 


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