第3話 コスプレから卒業?

「アスパラ、今日のみかんは凄かったなぁ」

「はい。ほうきに乗って、活き活きしていましたね。難易度の高い技も沢山決めていましたし――」

「やっぱり、あれか。調査兵団のコスプレ効果か?」

「おそらくは……」

 ふぅーっと、大きく息を吐くレモン。

「明日の授業は、『アカシックレコードに繋がる』だよな?」

「はい、レモン様。みかん様は、どんな衣装を着られるのでしょうか?」

 二人は、少し後ろをご機嫌に歩くみかんに聞こえないように、小さな声で会話していた。

「レモンお姉さま、アスパラ様。内緒話は駄目ですよ!」

 突然、レモンの目の前に超硬質スチールの刃が向けられた。

「なっ! みかん、危ないじゃないか!」

「大丈夫ですよ~。作り物ですから」

「みかん様、作り物とはいえ、やりすぎです!」

 アスパラが語気を強めた。

「はぁーい。レモンお姉さま、ごめんなさいです」

「……。お前、反省してないだろ。今日の授業では、ナンバー1の成績だったし」

「そう、初めてのナンバー1です! ミカサになりきったら、高速移動も空中回転も怖くなかったんです!!」

 レモンとアスパラが、ひきつった顔でお互いを見つめ合う。

「みかん、明日は座学だ。普通の格好で頼む」

 力なく声をかけるレモン。みかんにお願いしても無駄だと思っている。無駄だとわかっていても、先輩としては一言いっておきたかったのだ。

「はい♡」

 レモンと対照的に元気な声のみかんだった。

 みかんが部屋に戻ると、レモンとアスパラは疲れた心を慰めあうようにアイコンタクトをして別れた。


 翌朝、みかんの部屋の前に立つレモンとアスパラは、どんよりとした顔をしていた。ドアが開き、みかんが現れた。

「おはようございます!」

「おはよ! みかん、まずマントを脱げ」

「はい!」

 なんと、マントの中はセーラー服だ。

 レモンとアスパラは、真っ当な格好に驚いた。

「今日は完璧ですよ! 私たち、学生ですからね!! レモンお姉さまのチャイナドレスと、アスパラ様の修道服はおかしいですよ。二人とも、セーラー服に着替えて下さい」

 そう言うと、みかんは二人の前を颯爽と歩いて行った。

 残されたレモンとアスパラ。

「……信じられん」

呆然とするレモン。

「みかん様、熱でもあるのでしょうか?」

「……みかんが真っ当な格好すると、私たちが浮いてしまうな」

「そうですね。でもわたくし、セーラー服は無理です」

「あぁ、私もだ――」

 レモンとアスパラは重い足取りで、教室へと向かった。今まで、二人が目立たなくてすんだのは、みかんのお陰だったと改めて気づく。こうなると、今日も調査兵団の衣装に着替えて欲しいと思う二人だった。沈んだ気持ちのまま教室に入ってすぐ、レモンは微かな違和感を覚えた。

 部屋の中を用心深く見てみるが、いつもと変わった雰囲気はない。みんなそれぞれに、いつものメンバーで談笑している。見慣れた光景だった。 それなのに、胸の奥がざわざわする。

「レモン様。クラスがなにか……」

「あぁ、変だよな?」

「でも、何が変なのかわかりません。とりあえず席に」

「そうしよう」

 違和感を感じながら、その正体が掴めないまま授業は滞りなく終わった。しかし、レモンとアスパラは落ち着かなかった。






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