35話 孤高という名の信念
俺が告白の返事をした後、暫くの間沈黙が訪れた。
その場で泣きじゃくる七宮に対して、俺はどうすることも出来ずにただその場に立ち尽くしていた。傍から見れば俺が彼女を虐めて泣かせたみたいに映るかもしれない。まぁ俺が泣かせたというのは事実だけど。
彼女のように泣くというまではいかないが、俺だってそれなりにダメージを負っている。振られるより振る方が辛いだなんて昔読んだ少女漫画に出てくるイケメンが言っていた気がするが、ここに来て初めてその意味が理解できた。
七宮が今日初めて会ったような赤の他人であったなら俺も罪悪感なんて抱かずに済んだのだろうが、幼馴染という間柄である以上責任を感じずには居られない。
さて、どうしたものか……。なんて俺が思っていると彼女がポツリとこう漏らした。
「ハル君はやっぱり、千春先輩の事が好きなの?」
「……まぁ好きと聞かれれば頷くけど、エリーが思っているような感情は抱いてないな」
「じゃあ、どうしてあたしじゃダメなの?」
「それは……」
一瞬言葉に詰まった。俺はこの事を言うべきなのだろうか?
だがこの場に置いて、説明しないと納得されられる気がしない。
噓をついてもいいが、それは七宮の気持ちに対して失礼な気がする。
……結局俺は悩んだ末に本当のことを言うことにした。
「七宮に悪い所はねぇよ。本音を言えばすげぇ嬉しい……。でも駄目なんだ。ここでお前と付き合うと俺は自分の信念を曲げることになるから」
「ど、どういう事だし……。 信念って何? ハル君が言ってること全然分かんないよ」
「……まぁ、いきなりこんな事言われても分かんないよな。ざっくりいうと俺は昔あった出来事から孤高に生きるって決めたんだ。だから恋人も友人も俺には要らない」
「何それ、意味わかんないし! そんなの……ずっと一人なんて悲しすぎるよ」
ひとちぼっちは悲しい、敗北者、社会不適合者、協調性ゼロ。
まぁ正直なところ否定はできない。
こんな俺の下らないプライドのせいで七宮を傷つけた。
やっぱり俺は———最低な奴だ。
最初からもっと彼女のことを拒否しておくべきだった。
俺が中途半端に彼女との接触を許したせいでこういう事態になったのだ。
そう俺が過去の行いを反省していると、彼女が再び口を開いた。
「ハル君はどうしてそうなっちゃったの? 昔はそんな感じじゃなかったし……」
「それはまぁお前と離れ離れになってから色々あったんだよ」
「じゃあそれを話して欲しいし」
「黙秘権を行使する」
「じゃあハル君が話すって言うまで離さないし」
そう言いながら七宮が俺の腕をガシッと掴んできた。
かなり力を込めていることから彼女の本気度が伝わってきた。
「……はぁ、分かったよ。でも話すと長くなりそうだから場所を移動しようぜ」
結局、俺は妥協することにした。経験上、七宮はかなり頑固な奴だ。
だから俺は彼女の強引な行為を許容した。
まぁ一番の理由は先程、彼女を泣かせてしまった罪滅ぼしだけど……。
※※※※
近くにあった小さな公園に移動した俺達はブランコに座る事にした。
夜ということもあり、辺りに人はおらず落ち着いた雰囲気だ。
「んじゃあ、少し長くなるけど話していいか?」
「う、うん……」
七宮は少し戸惑い気味に返答をした。
恐らく俺が勿体ぶった態度をとるから身構えているのだろう。
まぁそこまで大した話じゃないからリラックスして欲しい。
これは俺がまだ生き方を変える前のお話、何処にでもあるような、ありふれたエピソードに過ぎないのだから。
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