34話 告白
「あれお前、何でこんなところにいるんだよ」
七宮の事だから大岩達と居るのかと思っていたが、どうやら抜けてきたらしい。
「今日は早めに帰ることにしたんだ。どうせハル君、あたしと同じ駅なんだし一緒に帰らない?」
「まぁいいけど……」
そんな訳で俺達は同じ電車で揺らされる事になった。その間は特に会話をすることもなく、俺は適当にスマホを弄って彼女は小窓越しに外を眺めていた。
……何というか微妙に居心地が悪い。一応幼馴染であるというのに何だろうか、この違和感は。というのも俺達の精神的な距離が遠くなったという訳ではなくて、先ほどから妙に七宮の様子が変なのである。
こちらをチラチラと見ては視線を外すという行為を既に数回も繰り返している。
とはいえ俺の方も深入りをしない故に、状況は平行線を辿り続けている。
※※※※
家の最寄り駅で電車を降りて、俺達は横並びになって住宅街を歩いていた。
時折設置されている仄かに輝く白い街灯が静寂に包まれる路を照らしている。
もう直ぐ七宮との別れ道である。結局彼女の物質な態度の真意は分からなかったけど、まぁ別に気にする必要はないだろう。過去の経験により人の事情に突っ込んで良かった試しが無い。多分俺はこれからもこうやって何も気付かないフリをしてい生きていくのだろう。と、益体のない事を考えていたら途端に隣の彼女が足を止めた。
「ねぇハル君、もう直ぐあたし達お別れだね」
「ん、まぁそうだな……」
「あたし、ハル君に大事な話があるの……」
どうやら七宮の様子が変であった理由はそれであったらしい。
「何だよ、藪から棒に……」
「あたしさ、打ち上げでカラオケに行ったときに大岩君にデート誘われたんだよね」
そういえば、そんな事があった気がする。最も俺はあの会話を盗み聞きしてしまったので、知らないフリをしないといけないけど。
「そうなのか」
「うん、こんな事自分で言うのはどうかと思うんだけど、多分あたしは大岩君に好意を持たれているんだと思う」
大岩が七宮に好意を持っているのは本人がそう感じるなら確定的であろう。今日の体育祭の時も大縄跳びの時に彼女を庇っていたし、リレーの開始前も俺に探るような会話をしてきたことがあった。
「そっか、それは良かったな」
「むぅ、その興味なさそうな反応凄く傷つくし……ハル君はあたしが誰かと付き合う事になっても、やっぱり何とも思わない?」
「さぁ、どうだろうな……」
俺は何も悟られないように有耶無耶な返答をした。七宮の方が真意を確かめるような聞き方をしてきたので、その意表返しのつもりだった。
「そうなんだ。あたしはね、もしハル君が誰かと付き合う事になったら凄く……嫌だよ」
唐突に、七宮がそんな事を言い出した。
「お前それ……どういう意味だよ」
「言葉の意味のまんまだし。あたしはハル君と再開してからずっとそんな事ばかり考えてた。何かいつの間にか美人な先輩と同居してるし、意外と仲良さそうだからずっと気になって嫉妬してた……家の中でも悶々としながらハル君の事をずーっと考えてたんだよ、知らなかった?」
唐突に語り出された言葉に俺は言葉を失っていた。
それもそのはず、俺は先ほどの言葉を冗談だと思っていたのだ。だから笑って誤魔化すことを期待して、意味を尋ねた。
それなのに七宮は予想していた真逆のことを口にしたのだ。
そして、彼女はこう続けた。
「本当はこんなに早く言うつもりじゃなかったんだけど、もう抑えられないから言うね。あたし、ハル君の事が好き。だからあたしと付き合って下さい———」
生まれて初めて俺は異性の女の子に告白をされた。体育祭の終わった夜空の星の下。再会した幼馴染に好きだと言われた。俺は多分、とても幸せな奴なのだろう。
だけど俺は直ぐにこう口にした。
「……悪い、俺はお前と付き合うことは出来ない」
まるで答えは決まっていたかのようにそう返事をする。
それを聞いてショックを受ける七宮の表情は暫く忘れられそうにない。
俺は目の前の女の子を不幸にした。
本当に俺は最低な奴だと、初めて自分の事を嫌いになりそうだった。
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