29話 体育祭⑦

 借り物競争が無事終了し、次はいよいよ騎馬戦の時間である。

 クラス種目という事もあり、注目度も高いようだった。相変わらず俺は後ろの方の席でぼうっと競技の様子を眺めるつもりだが、先程まで隣にいた七宮の姿はない。


 彼女は観客席の一番前で立って応援するらしい。それもそうはず。次の種目、女子は黒崎に男子は水沢、石田、大岩のトリオが出場するのだから。

 まずは女子達が先に闘いを始めるらしい。


 ルールは簡単、一組~五組の白組と六組~十組の紅組がより多くの騎馬から帽子を奪取した方が勝ちである。それぞれのクラスから一組ずつ騎馬が出陣する故にかなりの混戦が予想されるだろう。


 まぁ一応、俺はクラスの連中を応援しておくか。つっても俺程度がそれをした所で特に意味はないだろうけど……。


 なんて思いながら俺は内心で頑張れーだのファイトーだの呟いていた。

 その甲斐があったのか、制限時間内に黒崎を支えていた騎馬が白組から多くの帽子を奪取して自陣に戻って行く姿が見えた。


 どうやら残っている騎も紅組が多いようだ。ついでに撃破した数も俺たちのクラスが一番多いという結果だった。おいおい、美少女は何でもかんでも持っていくのかよ。本当スゲーな。なんて俺が思っていると、騎馬が前後に入れ替わって、次は男子の番らしい。


 俺達のクラスからは一組出陣しているが、注目は何と言っても水沢達の騎馬であろう。

 上に立ってハチマキを取る役目を担っているのが石田であり、彼を支えているのが水沢と大岩、それから陸上部の田邉である。これは最後に行われるリレーのメンバーと全く同じメンツである。つまり正真正銘のガチメンバー、勝ちを狙っている。


 支えている三人の判断力や機動力は申し分ないだろう。

後は何処まで石田が善戦出来るかどうか……。

歓声が響き渡る中、遂に笛が鳴らされて勝負が始まった。


「行けー! 石田―!」


「石田君フォイトー!」


 クラスメイト達が必死に応援をする。相変わらずの人気者である。それにしても妙な雰囲気がグラウンドを包み込んでいた。石田達は敵陣営である白組に突っ込むが、他のやつらは様子見である。やる気あんのか? あいつら……。


 まぁ俺達のクラスみたいに突撃するよりは出方を見た方が良い場合もあるか。

 と逡巡している間に、早速石田が早くも敵から帽子を奪取していた。


「ナイス石田ー!」


「その調子でイケイケ、ゴーゴー!」


 これで5対4、紅組の優勢である。このまま制限時間をやり過ごすか、敵を全滅させれば勝利である。恐らく彼等は後者を選択するだろう。ポイントも多く撃破した方が入るだろうしな。


「おっしゃ、この調子で行くべ」


 石田達が更に深く敵陣営に切り込んでいく。すると、白組の相手は瞬く間に散らばり、四方から彼等の騎馬を取り囲んだ。まるで事前に打ち合わせをしていたかのような機敏な動きである。


「やっべー、囲まれたし」


「これは不味いな……。どうする?」


 焦った様子で水沢がチラリと後方を向いた。恐らく味方の援護を期待したのだろう。だがそれは無駄に終わった。何故なら他の紅組の騎馬は未だに後方でピクリとも動いていないのだ。石田達に敵が惹きつけている、今が敵を倒す好機であるにも関わらずだ。


「はっ、残念だったな石田、これで終わりだ!」


 白組の騎馬が荒々しい攻撃を仕掛ける。茶髪短髪の喧嘩が強そうな大柄なガタイ。

如何にも争いごとが好きそうな見た目。俺の嫌いなタイプである。


「城之内、テメー嵌めやがったな」


「何の事か分からんな……おいお前ら、やっちまえ」


 白組の男が合図すると、周りを囲んでいた他の騎馬が一斉に距離を詰める。

逃げ場を失った石田達はそれに対して迎え撃つしか方法がない。

 それからの展開は言うまでもなく、見るに堪えないものだった。


 最初は四方からの攻撃に何とか対応していたものの、次第に体力を奪われた石田は防戦一方であった。白組はいつでも彼等から帽子を奪取出来る状況であったが、俺には敢えてそれをしないように映った。狙っているのは帽子ではなく、石田本人かのように。


 まさか体育祭でもこんなのもを見させられるとは思わなかったな……。

 俺が内心でそう思った瞬間である、石田がバランスを崩しかけた瞬間、白組の城之内という奴が本気で彼の肩を殴りつける、そして、そのまま彼は地面に落ちていった。


 かなりの威力だったせいか、下の三人も支えきれなかったらしい。

 俺が見た限りだと、落ち方的にも結構ヤバかった気がする……。

 地面に落ちた石田はそのままピクリとも動かずに倒れたままであった。


「石田君大丈夫!?」


「あれヤバいんじゃあ……」


 クラスメイト達からも心配する声が上がる。体育祭の運営の方も異変に気付いたらしく、直ぐに担架が駆けつけていた。


 結局その後の騎馬戦に大きな動きはなく、白組紅組の共に4対4の引き分けで終わった。

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