27話 体育祭⑤

 昼休みが終わり、体育祭も後半戦が始まっていた。前半はクラス種目である大縄跳びに出場したが、今度は個人種目である男女混合二人三脚に出場しなければならない。そういう訳で俺は集合場所に出向いており、いよいよ自分達の番が回ってくる直前であった。隣には一緒に走る七宮の姿がある。


「そういえばハル君、お昼ご飯食べる場所見つかったの?」


「あー、色々あって生徒会室で食べた」


「生徒会室……まさか千春先輩に誘われたの?」


「まぁーそんなとこだな」


「ふーん、そうなんだ。仲いいんだね二人共」


「あんまり大きい声では言えないが義理の姉弟だからな……そういえば今って紅組白組のどっちが勝ってんの?」


「……そんな事ハル君が気にするなんて、もしかしてやる気出てきたの?」


「ちげぇよ、何となく聞いてみただけだ」


「なんだ違うのか……今は僅差で白組が勝ってるよ。因みに一年生のクラス別ではあたし達が全十クラスの内七位だってさ」


 俺達は紅組だから負けているのか、それに加えて、学年の中でも下から数えた方が早い順位……。何だか悲しい結果である。


「しょっぱい順位だな、誰かさんが大縄跳びでやらかさなければもっと順位も良かっただろうに」


 恐らくクラス種目は個人種目などに比べても割り振られているポイントが高いのだろう。そういった意味で、あのミスは結構痛かったのかもしれない。


「あ、あれを蒸し返すとかハル君酷いし!」


「まぁ事実は事実だろ。今更あーだこーだ言ってもしゃーない。なら他の形で取り返すしかないだろ」


「どういう事?」


「クラスメイトからの信頼を取り戻したいんだろ? なら俺が手を貸してやる」


「ほ、本当に? それは普通に助かるし……あー、でも丁重に扱ってよね」


「安心しろ、最悪お前の身体を引きずってでもゴールしてやる」


「流石に鬼すぎるし!」


 七宮が勢い良くツッコミを入れてきた。どうやら俺が思ったよりもこいつは元気が有り余っているらしい。にしても幾ら可愛いといっても幼馴染を丁重に扱うとか俺には無理な相談だ。レディーファーストだの女優遇だのそんなものに俺は興味がない。真の男女平等主義である俺は相手が男だろうが女だろうが同じ様に扱う。


 最近は女性の社会進出とかが進んでおり、大いに結構なことだと思う。それはつまり女性が職に就くことで、幾らか男が家庭を守るという逆転現象も起こるだろう。つまり結果的に専業主夫が増加する可能性があるのだ。それは将来専業主夫を希望する俺にとって明るい未来に他ならない。

 何て意味不明な事を俺が考えていたら、気が付かぬうちに順番がやってきた。


「ほら、準備しろよ。俺達の出番が回ってきたぞ」


「わ、分かってるし……ハル君こそ、あたしの足を引っ張らなでよね!」


「そりゃあこっちの台詞だ」


 そんなやり取りをしながら七宮の左足首、俺の右足首に紐を結ぶ。

 やれやれ、ある意味相手が彼女でよかった。他の女子だったら今の時点で滅茶苦茶拒否反応を示された挙句、俺のメンタルが崩壊していたに違いない。


 そもそも俺がこの場に来ないでバックレていただろうけど……。

 なんて俺が考えていると、どうやら前の人達が走り終わったらしい。

 そういう訳で俺達は立ち上がってスタートの準備をする。


「それでは位置に付いてください」


 スタート地点に居る人が合図を出したので、俺は七宮の肩に腕を回して体制を整える。

 ちっ……触れるのは思ったよりもキツイな。分かっていても意識してしまう。


「よーい……ドン!」


 パン! と銃音が鳴り響いたので、俺と七宮は一斉にスタートを切る。

 どうやら初動は悪くないようだ。このまま一気に後続と差を付けたいところだ。


 先ずは直線ラインを彼女と共に駆け抜ける。視界には俺たち以外のペアは映らなか

った。


 今のところ俺達が一位であるらしい。


「エリー大丈夫か?」


「あたしは平気……それよりハル君の体力が心配だし」


 何故か七宮が俺の方に気を遣ってきた……。その余裕があるなら大丈夫そうだ。

 それにしても独走状態かと思えば油断はできないようだ。


 チラリと背後を見ると、俺達以外のペアが後ろにぴったりと張り付いてきていた。


「ほざけ馬鹿、それより後ろのやつらが迫ってきている。ペースを上げるぞ」


「うん、分かったし!」


 俺達は阿吽の呼吸といった感じで、更にスピードを加速させた。

 思ったよりも上手く行ったので俺は内心驚いてしまった。

 そして、ゴール前最後のコーナーを曲がるところで、俺達を応援する声が耳に入った。


「行けー! 七宮!」


「このままいけば一位だべ!」


「咲良ちゃん、フォイト!」


 九組の観客席からそんな声が挙がっていた。流石は七宮、人気者だな……。

……ねぇ待って、俺の応援は? 俺の応援何処? 俺に対する応援は一ミリも無いの?


 酷いぜ皆……。俺達、仲間じゃなかったのかよ……! ワンフォーオールだのオールフォーインワンとか言ってたじゃん! あの言葉は嘘だったのか! もういい、俺拗ねちゃったし! そういう態度取るなら今から手抜くからな……。


「ハル君、あと少しでゴールだよ」


 途端に七宮がそう口にした。若干息を切らせているようだ。

 あーあ、全く困ったもんだ。こいつが俺のペアの相手じゃなかったら良かったのに。


 そんな事を思いながら俺はラストスパートを掛ける事にした。



 ———そして結果的に、俺達は一番にゴールテープを切ることに成功した。

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