15話 デート①
七宮と学校で再開した月曜日からあっという間に週末がやってきた。
今日は色々あって彼女と出掛ける事になっている。
という訳で俺は彼女と最寄り駅で待ち合わせをしていた。
それにしてもまさか前に藤原先輩がコーディネートしてくれた服たちが活躍する日が来るとは思わなかった……。
彼女のお陰で俺の見てくれは多少マシになっているはずだ。
なんて俺が思いながら腕時計に視線を落とすと、丁度待ち合わせの時間であった。
「御免、遅くなったし!」
俺の視界に七宮が現れた。
平日の学校だと制服姿であった故に彼女の私服姿は新鮮である。
まぁ控えめに言って似合っていると思う。こいつ本当に見てくれ良いよなぁ……。
白いフリフリの上に黒いワンピース、割とシンプルであるが彼女が着るだけでこんなに可愛く見えるとは驚いた。それに頭の上に乗っているベレー帽も萌え度が高い。
ちっ、幼馴染のくせにやるじゃねーか……。
「いや俺もさっき来たところだ」
「そっか、なら良かったし」
「じゃあ取り敢えず目的地に行こうぜ。何処に行くか知らんけど」
そういえば七宮に行く場所を事前に聞いてみたのだが、それは着いてからのお楽しみだの言ってはぐらかされてしまったのだ。
取り敢えず駅集合という事から電車で遠出をするのは間違いない。
「ふっふ~、じゃあハル君あたしに付いてきて!」
そう言いながら七宮が俺の手首をつかんで引っ張ってくる。
全く、本当にこいつはテンションが高いな……。
ひとまず俺は言われるがままに彼女に付いていく事にした。
※※※※
電車に揺られて約一時間、それから少し歩いたところで目的地に到着した。
「ここは……動物園か?」
入り口付近には多くの人がチケット売り場で並んでいた。家族連れとか俺達のような男女一人ずつのカップルなど様々である。
にしても動物園とか小学生だな……。
「ハル君見立てが甘いよ、ここは動物園だけじゃなくて遊園地もあるから」
なるほど……看板にハイブリッドレジャーランドと銘打っているのはそういうことだったのか。確かにこれなら一回訪れただけで二度楽しめる、正に一石二鳥という奴だ。
「お前よくこんな所知ってるな……」
どうやら世界は俺が思っている以上に広いらしい。休日は家に引きこもっている俺を背後からハンマーで殴られたような衝撃だ。まさかこんな事で俺が如何に普段狭い世界で生きているのか思い知らされることになるとはな……。
「まぁ色々リサーチしたし……取り敢えずハル君、チケット買いに行こっ!」
「そうだな……」
チケットを買った俺達はまず動物園を回ることにした。
「あたし動物園とか久しぶりだなぁー」
「そうなのか? にしてもお前、カメラ持参するとかガチ勢かよ!」
隣を歩いている七宮に対してずっと気になっていたことがあった。それは首にかけている高級そうなカメラである。一眼レフだのカメラは詳しくないから分からないけど、見た目からして数万は下らない代物なのは素人の俺でも分かる。
最大の謎はわざわざそんなものを持ってきた理由である。昔から写真を撮るのが趣味だったとかそういう訳でもないだろうし、最近のスマホならそれなりの画質で保存できるだろうに……。
「ふっふー、これには色々事情があるのです。ハル君も後で撮ってあげるし!」
「いや、俺のは要らねぇだろ。つーかサッサと行こうぜ」
どういうつもりで俺を動物園に誘ったのかは知らんが、来てしまった以上は楽しまねば損である。そんな事を思いながら俺は七宮と動物園をぐるりと一周することにした。
最初に視界に入ったのはネコ目動物だった。
「わぁこの子! メッチャ可愛いし!」
隣の七宮がぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいた。おいおい周りの目とか少しは気にしろよ……。隣のガキとお母さんが滅茶苦茶見てるぞ。
「ねぇハル君! この子何て名前の動物?」
「えーと、ミーアキャットって言うらしいぞ」
俺は近くの看板に載っていた名前を読み上げる。
「へぇ~そうなんだ! にしても何でずっと上を見つめてるんだろ」
「あー、何か外敵の鳥を警戒して上を向いてるらしいぜ」
「ほうほう……ハル君意外と物知りだね」
いや、さっきから近くにあった看板の説明文読み上げているだけなんだけど……。
まぁいいや、次に行こう。
その後俺達は、ラクダ、リスザル、カピパラ、ペリカン、マントヒヒ、レッサーパンダ、孔雀、ゾウ、ホワイトタイガー、ライオン、フラミンゴなどの動物を見た。
そして動物園の奥の方に行くと、人だかりが出来ている場所があった。
早速二人でそこに行ってみると、笹を食べているパンダが居た。
なるほど……通りで人が多い訳だ。流石は人気者である。
「わぁーパンダさんだ! メッチャ可愛い上に何かハル君に似てるし!」
ふっと笑いながら七宮がそんな事を口にする。
パンダは胡坐をかくように座って笹を口にくわえていた。
おいおいアレのどこが俺と似てるんだよ。あんなだらけた態度でみんなの見世物になる経験なんて俺の人生で一度もない。むしろ、空間に存在しないゴミの様に誰からも認知されずに教室の隅っこで、周りの人達に怯えながらヒッソリ息をひそめて生きているのが俺なのだが……。
「どこにも共通点が見当たらないだろうが。それにしても良いよなぁパンダさんは……。座っているだけで人気者な上に、飯も出て身の回りのお世話も飼育員さんにしてもらえるんだろ? マジで羨ましい限りだぜ……」
「何ダメ人間みたいなこと言ってるのハル君……」
「俺は将来専業主夫になりたいんだよ。何なら年上の胸でかくて包容力のあるエッチなお姉さんに養われたい」
「やけに具体的な女性像……ハル君は年上が好きなの?」
「や、どうだろな……まぁさっきのは例え話みたいなものだ」
ぶっちゃけ養ってくれるなら何でもいいが、創作物でも年上の金持ちのお姉さんに保護されるみたいなシチュエーションのラブコメは結構ある。つまり需要が多いって事だ。
まぁ結局は将来働きたくないって所に帰結するわけだが……。
「ふーん、じゃあハル君は同居している千春先輩が好みなんだ」
「ちげぇつの! 確かにあの人は年上の美少女だけど、家族だから対象外っつーか……」
「でも血は繋がってないんでしょ?」
「まぁそうだが」
「ふーん……怪しいなあ」
ジトーと七宮が俺の顔をガン見してくる。いやそんなに見つめられると照れるんだけど……。幾ら幼馴染だからといって、ずっと目を合わせ続けるのは流石の俺も厳しい。
何故なら俺はいつも人と話すとき目を合わせないからな! なんて俺が余計なことを考えていると、近くにいた子供が俺達の方に向かって指をさしてくる。
「ママ、あのカップルずっと見つめ合ってラブラブしてる!」
「こーら! 他の人に向かって指ささないの!」
子供が親から頭にチョップをくらっていた。
全く誰が馬鹿っプルだっつーの。まぁ男女で出掛けていたらそう捉えられても仕方ないか……。なんて俺が思っていると、隣の七宮の様子がおかしいことに気づいた。
「お前さっきから固まってるけど、どうしたんだ?」
何故か子供がこちらに向かってラブラブだの勘違いして指摘してきた辺りから七宮が顔を俯かせていたのだ。
「な、何でもないし……」
顔をあげた七宮が動揺したように声を上ずらせていた。
一体どうしたんだよ。こいつ途端に顔を真っ赤に染めてやがるし。
「何お前、あの程度で照れちまったのか?」
「う、うるさいし! 馬鹿!」
「痛っ!」
小腹をつつかれた。油断していたので結構なダメージである。
ったく容赦ねぇな……。
七宮はスタスタとその場を離れていったので俺は仕方なく後を追うことにした。
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