16話 デート②


 動物園を一通り回った俺達は時間的にも頃合いだったので、一度昼食を取ることにした。

 喫茶店には時間的にも多くの人が居たが、何とか席を取ることに成功したので早速料理を注文することにした。


 七宮はチュロスとオレンジジュースと小食であったが、俺はパスタのランチセットを頼んだ。それから二人して昼食を済ませ、暫くその場で休憩を取っていた。

 そんな中、テーブルの正面に座っている七宮が口を開く。


「そういえば沢山動物の写真撮れたけど見てみる?」


 七宮は何やかんやで動物園を回りながらカメラを度々使用していた。

 どの程度のクオリティで写真が撮れているの多少の興味がある。


「じゃあ見せてくれ」


 という訳で俺は七宮からカメラを受け取って、画像フォルダから写真を順番に見ていく。

 先ほど見たばかりの動物達であるが、カメラワークといい良く取れている。

 そういえば俺の親父も写真家だけど、コイツ意外とセンスあるんじゃないか?


「ねぇーねぇー、上手く取れてる?」


「あぁ、かなりいい感じだと思うぜ……っておい何だこの写真」


 俺は先程からカメラのボタンを用いて撮った写真をスライドさせて順番に見ていたのだが、あろうことかとんでもない写真が一枚混じっていた。

 その画像には動物ではなく、人間の横顔が映っていた。


「お前いつの間にか俺の事を盗撮してたんだよ……」


 俺が言及すると、七宮があからさまに動揺するようにしながら視線を逸らしてこう返事をした。


「あー何というか、魔が差したみたいな感じで……あ、でも後で削除するから気にしないで欲しいし!」


「本当かよ……いやまぁ俺の写真なんて価値のないものだし、何なら持っているだけで呪われる可能性すらあるから気を付けろよ」


「そんな物騒なものだったの! だったらハル君、悪い霊とか憑いてそうだし直ぐに除霊した方が良いと思うし!」


「まぁ今のは冗談だよ、それにしても何でカメラにデータに残す事にこだわってんだ? こいうのは肉眼で見て心の中に閉じ込めておくのが良いもんだろ?」


「まぁー記憶力が抜群に優れているならそれもありなんだけど、あたしの場合はそうでもないからさ……だから今後使う資料としてデータを残しておきたかったというか……」


 資料……データ、一体さっきから七宮は何を言っているのであろうか?

 たかが動物園に来ただけなのに随分と気合の入った単語を使うものだ。


「お前、今日俺を誘ったのは単なるデートごっこってわけでもなさそうだな」


「うん、まぁーハル君と二人きりで出掛けたかったのは本当だよ? それに加えてあたしはここに取材に来たんだ」


 取材? 一体何の為に……。小学生の頃なら軽い観察記でも書かされていた事もあったが、俺達の場合、遊びにここまで来たのではないのか?


「御免、さっきから話がこんがらがって何の見当もつかない。だから分かりやすく説明してくれると助かる」


 これ以上何を考えても正解にたどり付きそうも無かったので俺は事実上の降参をした。すると七宮もあっさりとそれを受けて入れたのか、直後にこう口を開いた。


「うん、実はね……あたし少女漫画家として今度デビューするんだ。近いうちに読み切りを発表するんだけど、その為に今日はシチュエーションに欠かせない資料を集めに来たの」


 まさかの事実に流石の俺も驚かざるを得なかった。

 目の前の幼馴染が俺の知らないところで少女漫画家になっていたなんて……。


 それに読み切りを発表するということは結果次第では連載を持つ事になるはずだ。

 既に新人の中でも編集部に期待されているのではないだろうか? しかもまだ俺と同い年で十五歳のはずだ。


「いつの間にかそんなことになってたんだ……正直驚いたっつーか、あんまり飲み込めてないんだけど」


「そんなに驚くことかな? ハル君だってイラストレーターなんでしょ?」


「まぁそうだけど……って何でお前が知ってんだよ」


 俺がイラストレーターであるのは親と担任の塚センと同居している藤原先輩だけである。幼馴染である七宮にはまだ言ってない故に知らないはずなのだが、何処から情報が漏れたのだろうか……。


「学校で千春先輩に会った時に連絡先交換したんだ。その後ハル君の事色々聞いちゃった」


 いつの間にか藤原先輩とそんな仲になっていたんだ……。

 やり取りを見ている限りでは相性最悪、犬猿の仲であると思っていたのに。


「いずれは話す……ってかバレると思っていたからいいけどさ。でも学校のやつには言うなよ?」


「ハル君がそういうなら言わないけど……。でもあたしが思うにもっとオープンにすればいいのに。それがキッカケで友達とか出来るかもしれないよ?」


「馬鹿言うなよ、そもそも俺に友達なんてもんは要らねーっつの。まぁ強キャラリア充に囲まれているお前には分らんだろうがな」


 七宮が転校して来てから一週間が経過したが、相変わらず彼女は声を掛けられたトップカースト達と行動を共にしているようだった。彼女とて今のところは何とか上手くやっているように俺の目には映る。まぁ幼馴染としてこいつが平穏な学校生活を送れているのであれば何よりだ。だが俺の事に対してとやかく言われる筋合いはない。


「その言い方酷いし! あたしだって関係維持するために色々苦労しているんだから」


「一人になればそういう煩わしい事は一切無くなるけどな」


「……むぅーまたハル君は屁理屈ばっかり言うんだから」


「屁理屈じゃなくて事実だろ、俺には分らんな。そんな大変な思いしてまで他人と関わろうとするなんて」


「そりゃあ色々面倒事だってあるけど一緒に居たら楽しいし! 今だってあたしはハル君とここに来れて良かったって思ってるよ」


……。コイツよくもそんな台詞を恥ずかしげなく言えるものだ。

 まぁそう言われたら悪い気はしないけど……。


「はぁ……全くお前って奴は、ここでグダっていてもしょうがないし、次の場所行こうぜ」


「うん! 次は遊園地にGO!だよハル君」

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