11話 同居生活②
風呂に入った後、俺と藤原先輩は洋室にある丸テーブルを囲って夕食を摂っていた。
「はぁー美味しかった。ピザを食べたのは久しぶりだわ」
「そうっすね。チョット癖になりそう」
照り焼きチキンとじゃがバターのハーフ&ハーフを完食した俺達は幸福感に満ちていた。加えて俺はそれとは別に藤原先輩のパジャマ姿があまりのも可愛かったので見ることが出来て良かったと、心の底から思った。
彼女のピンク色をベースとした水玉模様のモコモコのパジャマ姿は幾ら何でも俺の性癖を刺激し過ぎである。
「よっこらせっと」
夕食を終えたので、俺は休憩がてらにテレビとゲームの電源を入れる。
「立花君何してるの?」
「ゲームっすよ。先輩もやりますか?」
「うん! やりたいかも!」
意外にも藤原先輩は乗ってきた。
彼女はこういうゲームとか好きなのだろうか?
「じゃあ普通にやってもつまんないので賭けしませんか?」
「えー、立花君私にエッチなお願いする気でしょ?」
「さぁーどうっすかね。俺的には賭けの内容は勝った方が一つ、相手に言う事を聞かせられるって奴が良いんですけど、どうですかね」
「ふふっ、面白そうね……あーでも私、そのゲーム多分やったことないしなぁ」
「そこら辺はハンデ付けるんで安心して下さい」
「そうなの? ならやってもいいわ」
藤原先輩から許可が出たので、早速俺達は超格闘スマッシュボーイズの対戦ゲームを始める。
ルールは簡単、一対一でそれぞれキャラを選んで相手の残機を先にゼロにした方が勝ちである。先輩の残機は3つ。俺の残機はハンデとして最初から1つである。
ステージはどれでも良かったが、あんまり複雑だと有利不利が出そうなので平坦なところでいいか。
つーわけでセレクトが完了したので、間もなくゲームが始まる。
「立花君、こんなにハンデくれるなんて私を見くびっているわね?」
「そりゃあ初心者には優しくしますよ。つっても俺もやり込んで無い上にブランクもあるので丁度いいと思いますよ」
とはいっても勝負事であるが故に、多少は熱が入るというものだ。
なんて俺が考えていると、ゲームが始まったので俺は的確にコントローラーを操作する。
「先輩、割とやりますね……」
何とか藤原先輩の残機を1つ削ったものの、俺の方も結構ダメージを受けていた。
先輩の残機が俺の三倍なので、単純にダメージを三倍すると結構危ない。
「こう見えてもゲームとか得意なんだからっ!」
そう言って藤原先輩が操作しているキャラクターが勢い良く攻撃をしてくる。
っと危ねぇ! やばいな……もう既に操作に慣れてきている。
やっぱり生徒会長だけあって頭も良いし、吸収力が段違いだ。
だが俺も負けん……。最初は最悪負けてもいいと思っていたが、心の中の負けず嫌いがそれを許してくれない。俺は上手くコントローラーを操作して彼女が使うキャラにダメージを蓄積させていく。
結果的に俺が辛勝した。
「あーあ、負けちゃったわ……」
「危なかった……先輩、ゲーム上手いっすね」
ハンデをあげたとはいえどもここまで追いつめられるとは思わなかった。
もしかしたら藤原先輩は意外と普段からゲームを嗜んだりしていたのかもしれない。
「もう、勝者が慰めても嫌味にしかならないんだからっ! それで立花君は私にどんなお願いをする訳?」
「じゃあ先輩のメイド服姿が見たいっす」
「なっ、さっきエッチなお願いは駄目って言ったよね?」
「先輩何言ってんすか? メイド服はそこまで肌の露出度高くないっすよ。何なら学校の制服と変わらないっすから」
「立花君、意外と悪い子ね」
「まぁ先輩が嫌というなら仕方ないですけど」
「分かったわ、仕方ないから着てあげる。確かクローゼットに入ってたいたわよね? 着替えてくるから待ってて」
どうやら藤原先輩は覚悟を決めたようだ。ぶっちゃけ冗談半分で言ってみただけであるのだが、どうやら彼女は本気にしてしまったらしい。
全く世の中何があるか分からない。なんて思いながら俺が正座で待機していると、向こう側から声が聞こえてきくる。
「お待たせ立花君、どう? 似合ってる?」
俺の前に姿を現した藤原先輩が恥ずかしそうにスカートを手で押さえていた。
……やべぇメッチャ可愛い。後、普段クールビューティーな彼女が若干照れくさそうにしている所が萌え度を更に上げている。
何というか、イケない事をしているみたいだ……。
「先輩、マジで似合ってます」
「そう? なら良かったけど……」
俺が満足げに感想を告げると、藤原先輩はメイド服姿のままその場に座り込んだ。
「……立花君ばっかりズルいわ。次は私の言う事を聞いてもらえるかしら?」
「俺っすか? んなこと言われても困るんすけど……」
そもそも俺が藤原先輩にゲームで勝った故に命令権を得たのだ。
再戦して俺が彼女に負けたら話を聞いてもいいのだが……。
「命令じゃないわ。単純に立花君の事を一つ教えて欲しいの」
「はぁ……それぐらいならいいっすけど」
俺がそう答えると、藤原先輩が直ぐにこう質問をしてきた。
「立花君って、プロのイラストレーター何だよね?」
「藤原先輩、何でその事を……」
「えっと、ママから聞いたんだ」
親父の野郎……俺の事を嫁さんに話しやがったな。
まぁ隠すつもりなんて無かったからいいけどさ。
「立花君って普通のように見えて結構変わってるよね。その様子だと学校の人も君が凄い人って誰も知らないでしょ」
変わっているというのは否定しない。だが凄くはないだろ別に……。
まぁ一般的に考えればデビューは早いと思うけれど、俺より優れている人なんてこの世の中には沢山いる。デビューの時期ですら最近だと中学生が漫画家になったとか聞いたことある。上を見れば俺なんて大したことはない。
「学校の奴らとは話が合わないんで避けてるんですよ」
「なるほど……つまり自ら進んでボッチの道を選んだんだね」
「ボッチじゃなくて孤高っすよ」
「それ意味違うの? どっちも同じような気がするけど……」
「大違いっすよ。まぁ俺の信念みたいなもんなんで、他人からどう思われようが別にいいんすけどね」
今のは意味のない訂正だったからもしれない。俺がそう考えていても他者からそういう風に見えていたのならそれが全てであるからだ。だがそもそも俺は他人が俺をどう解釈しようが関係ない。なんて逡巡していると藤原先輩が破顔する。
「ぷっ、やっぱり立花君は面白いのね」
「してないよ、寧ろ尊敬してる。私はそんな割り切った生き方は出来ないから」
「藤原先輩はわざわざそんなアウトローな道を辿る必要ないっすよ。まぁ先輩の場合、どっちにしろ周りがほっとかないと思いますけど」
「うーん……立花君って褒め上手だけど、自己肯定感低いと思う。もっと自分に自信持ったらいいのに。そんなんじゃ彼女出来ないわよ」
藤原先輩の言うように自信というのは大事な要素だと思う。そういう奴って大体表情がイキイキしてる故に周りを惹きつけるんだよな。俺とはまるで正反対だ。
「余計なお世話っすよ。つか居ない前提とか酷くないっすか?」
「やっぱり居ないんだ。まぁーカマ掛けただけなんだけどね」
この人メッチャ悪人だ……。誘導尋問が巧み過ぎる。
「そういう先輩こそ俺より一個上なのに処女はないっすよ」
「立花君サイテー、今の流れで私がボロを出すわけないじゃない。まぁ処女だけど」
「そうっすよね……ってバリバリ言っちゃってません?」
「冷蔵庫から飲み物取ってこよーっと」
そう言いながら藤原先輩が立ち上がってその場を離れていった。
誤魔化す気満々かよ……。まぁ確かに昨日の屋上でのやり取りを見る限り、藤原先輩はかなりガード堅そうだもんな。まぁこれ以上無駄な詮索をするのは止めよう。いくら姉弟といっても結局血は繋がってないわけだし……。
※※※※
……。
ガチで寝れねぇ……。時刻は十二時過ぎ。
俺達は洋室のど真ん中にあったテーブルを退けて、そこに布団を二つ敷いた。
本当は別の部屋にするべきなのだろうが、そもそも部屋が一つしかないのでどうする事も出来なかった。せめて仕切りでも用意した方が良かったのでは? なんて俺は思ったけど、向こうからもそういった提案はされなかったし、今日はこのままでいいか……。
つーか普段の休日は夜更かしてイラスト書いているけど、先輩が寝るっていったから流れで布団に入ってしまった。
このままだと当分寝付けそうにないし、起きてクリスタ起動するか?
一応洋室の隅っこに普段使っている作業スペースがある。軽い照明をつけるぐらいなら彼女の眠りの妨げにならないはずだ。なんて俺が考えていると、背中からごそっと音がする。その直後だった。
「立花君起きてる?」
「どうしたんすか? 先輩も寝られないクチなんすね」
「うん。ちょっとね」
もしかして俺が襲うんじゃないかって警戒しているのだろうか? そりゃあそうだよな。年下とはいえども俺の方が多分力強いし。ま、俺は絶対そういう倫理に欠けた行動はしないけど。つか度胸がねぇ。
「……」
少しの間再び沈黙が続く。流石にもう寝たのだろうか? それならば俺も藤原先輩に話し掛けるのは止めて自分の睡眠に集中しよう。そう決意した瞬間である。
「ねぇ立花君、もし私が君を後ろから抱きしめたいって言ったらどうする?」
……。今とんでもない事が聞こえたような気がするんだけど。
流石の俺の耳を疑った。だって藤原先輩が普段絶対に口にしないような事を言ったから。
「聞いてるの?」
藤原先輩がそう追及してくる。……マジでどうなってるんだよ。
取り敢えず冷静になろう。まず彼女があのような事を言った理由を考えろ。
まぁ恐らくこれは確実に罠である。自惚れるな俺。相手は策士である。きっと俺の事をからかって楽しんでいるだけに過ぎない。本気にしないのは前提として、相手の思惑を探る必要性がありそうだ。
「急にどうしたんですか? 先輩らしくないっすね」
「責任を取って貰おうかなーって思って」
「責任?」
「立花君のせいで冷水シャワーを浴びることになったじゃない? だから風邪ひくのを避けるために、君に私の身体を温めてもらおうと思って」
そういえば藤原先輩と俺は結局ガスが止まったから寒い思いをしたんだよな。いやでも今更身体温めた所で大して変わらない気がする……。つーか問題の論点はそこではない。冗談にしても彼女が俺の事を抱擁するとか倫理的にアウトである。
「まぁやれるものならやってみて下さいよ」
これ以上藤原先輩にからかわれるのは御免だ。ならばここは敢えて強気に挑発をする。彼女だって本気で言ってるわけじゃないだろうし。
「ふーん、そういう態度を取るんだ」
藤原先輩が不満そうに呟いた。
そして直後にドサッと音がする。
何なんだろうか……と俺が思っていると、背中の方から人の気配を感じた。
いや待て落ち着け。俺と彼女はいくら同じ部屋で寝ているといっても、ある程度の距離はある。俺達は三メートルぐらい離して布団を二枚敷いているのだ。流石にこちらへと移動してくるはずがない。
そう考えていた次の瞬間、俺の布団が何者かによって不意に動かされた。
「……!」
藤原先輩が元居たはずの布団から移動して、俺の布団に侵入したのが確定した。
おいおい嘘だろ。彼女がもう既に俺の背後まで迫っているという事になる。
今はまだ彼女に対して背中を向けているけど、振り返れば恐らく彼女と目が合うだろう。
クソっ、まじで実行するとは思わなかったぜ。
「立花君、私が近くに居るの気づいているでしょ?」
背中から藤原先輩の声が聞こえてくる。
声源からして俺との距離が僅か一メートルもないのは振り返らなくても分かる。
「そろそろ限界でしょ、一線超える前に引き返して下さいよ」
からかうにしても限度ってもんがある。藤原先輩はそれをとうに越している。
このままじゃあ俺の理性がいつ崩壊してもおかしくない。彼女はそれを分かっているのだろうか? なんて俺の心中も知らない彼女が俺の肩に手を回してくる。
「立花君……私は本気だよ」
「……」
いやヤバいって。何がやばいって全部ヤバい。藤原先輩が何故か俺に対して発情しているという事実と、このままじゃあ仮にも家族なのに乱れた関係になってしまう。
あの高嶺の花である彼女がモブキャラの俺にどうしてここまでするのか理解が出来ない。
「た、立花君……」
耳元から藤原先輩の艶っぽい声が聞こえてくる。
俺と彼女は気が付けば密着する寸前、ほぼゼロ距離といって差し支えない。
あー終わった俺の人生。ははっ、俺はこうして大人の階段って奴を登るんだろうな……。
思考停止して現実を受け入れた直後だった。
「フゥー」
直後に俺の首筋辺りから、ぞわっとした感覚が襲ってきた。
「~~! 何するんすか!」
俺のうなじに藤原先輩が息を吹きかけてきたので、思わずそう叫んでしまった。
「ぷっくくく……。本当に立花君は私の期待を裏切らないなぁ」
「最初からそのつもりだったんすね……」
ふと振り返りながら俺はそう口にした。同時にとんでもない光景が広がる。
俺のすぐ隣に同じ布団で寝そべっている藤原先輩が居るのだ。
実質的に添い寝しているようなものだ……。
いくら暗闇とはいえどもこの距離だと割と表情がはっきりと見えてしまう。それに首筋の鎖骨とか服が緩くなっているせいで見えるし、いざ彼女の顔を直視するとその大きな瞳に目を奪われてしまう。
やっぱりこの人滅茶苦茶可愛いよなぁ……。
「どうしたの? 立花君」
やべっ、流石にガン見し過ぎた。しかもこの距離で……。
「何でもないっすよ。てか、いい加減離れてくださいよ。これ以上近づいたら流石に藤原先輩が襲われても文句言えないっすよ」
「私はそれでも構わないけど?」
このやろ……。藤原先輩は本気でそんな事言ってるのかよ。
いや流石に不味い、ここは強制退場を願うしかない。
「冗談はやめてくださいよ。俺はもう寝ますから」
もう一度俺は身体を反転させて、俺は藤原先輩に背中を向けるように寝る事にした。
これならば向こうも大人しくなるだろ……。
「つれないなぁー。まぁいいけど……おやすみなさい立花君」
直後に背中から藤原先輩の気配が消えた。
どうやら彼女は自分が使っていた布団に戻ったようだった。
ふぅ~何とか俺の貞操を守ることが出来た。これで一安心。
……にしても心臓の鼓動が収まらねぇ……。
この後俺がしばらくの間寝られなかったことは言うまでも無い。
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いつもより長めの更新でした。これにて第一章終了です。
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