12話 転校生は幼馴染でした
あっという間に土日が過ぎて俺の嫌いな登校日がやってきた。
今日も今日とてクラスメイト達がホームルームの始まる前に意味のない会話を繰り広げていた。あのさぁ君達なんでそんな元気なわけ? まぁ良い、そんな余裕ぶれるのも今の内だけだ。
社会人になって月曜日を迎えてもその表情を浮かべられるだろうか……。いやまぁ俺もクソガキだから社会の厳しさとか知らないんですけど。
とはいえ学校自体が社畜養成施設みたいなものなので、彼等は将来まともな社会人になるのだろう。一方で俺は既に社会不適合者の烙印を押されつつある。ありていに言えば環境に対応できてない。俺はこんな小さい箱庭ですらまともな人間関係を築く事が出来ていないのだ。よって将来的に詰むのは確定的に明らか。こりゃあ今のうちに将来養ってくれそうな女の子でも探すしかないなぁ……なんて意味のない思考を永遠と繰り返してしまう。ぼっち……じゃなくて孤高な俺は基本的に話し相手が居ない故に常に脳内で自身と会話をする。それ故に無駄に思考力だけが高くなりがちだ……。
そういえば藤原先輩、二年生という事は一個下の階の教室に居るのだろうか?
やっぱり朝から友達に囲まれて楽しく談笑してんのかな……。
にしても彼女の事を考えると、嫌でも土曜日の夜について思い出してしまう。
今振り返ってみてもあの一連の行動は謎である。その割に昨日はかなり大人しかった。そもそも昼間から友達と遊びに行くとか言って帰ってきたのは夜だ。夕食を食べたら彼女は速攻寝てしまったし、ますます彼女の行動理念が理解できない。
まぁいい、俺があれこれと考えても無駄だ。取り敢えず彼女と同居していることがバレないように努めなければならない。なんて俺が考えていると、チャイムが教室に鳴り響いた。それと同時に周りに立っていたクラスメイト達が自分の席に戻り、廊下から直ぐに担任の教室が教室に入ってきた。
「おーし、今日も全員居るなぁ。さてと憂鬱な月曜だがお前らに一つビックニュースを持ってきた」
塚センが死んだ魚のような目をしながらそう呟いた。もうちょっと声のトーン上げようよ。お陰で全然ビックな感じがしないんだけど……。なんて俺が脳内で思っていると、クラスメイトが彼に内容を尋ねた。
「それって何ですか?」
「あー実は、この時期にしちゃあ珍しいが、転校生がこのクラスに来ることになった」
……なるほどそう来たか、そりゃあ確かに驚いた。
そう感じたのは俺だけでは無かったらしく、一斉にクラスメイトが騒ぎ始めた。
「マジっすか! 可愛い子だったらいいなぁ、ついでに巨乳だとベスト」
「えー、石田君最低ー」
はしゃぐ石田に対して、黒崎が苦笑いしながらツッコミ入れる。
「冗談だよ、でもイケメンは嫌だべ。女の子を寝取られそうだし」
「でも石田君フリーでしょ? そもそも寝取られる彼女が居ないじゃん」
「あ、そうだった」
傍に居たリア充グループの会話が聞こえてきた。彼ら以外にも浮足だっている様子。
け、くだらねぇ。どうせアレだろ、時期が時期だし親の事情とかで転校することになったんだろう。まぁ俺とは関わりもないだろうし、どうでもいいな。逆に関わる可能性がある連中だけで騒いでいればいいだろう。
なんて俺が考えていると、廊下の扉をガラガラと音を立ててから転校生が教室に入ってきた。
その瞬間クラスメイト達が途端に静かになる。
同時に俺は暫く思考がフリーズした。
それもそのはず、教室に入ってきた転校生が俺の幼馴染であったからだ。
何でお前がここに居るんだよ……。
「初めまして、イギリスから日本に来た七宮咲良と言います。小学生の頃は日本に居たので言葉とか文化は精通しています。どうぞ宜しくお願いします」
七宮は丁寧な言葉遣いで屈託のない笑顔を浮かべていた。
おいおい、幾ら何でも猫被り過ぎだろ……。
あ、目が合った。ようやく俺に気が付いたか?
「……!」
あからさまに動揺してるな。まぁ無理もないか。
「んじゃあ七宮ぁ、お前の席は一番後ろの窓際から二個目な」
「はい、分かりました」
俺の隣じゃねーかよ。マジで気まずいな……。
七宮が席に座るためにこちらに歩いてくる。それから彼女と視線が交錯した。
「……」
何でここに居るの? とでも言いたげな様子だった。
取り敢えず俺は窓に視線をやり、関わる気が無いという意志表示をする。
まぁ安心しろ。俺は七宮の高校生活を邪魔するつもりはない。だからまぁせいぜい学校生活を楽しんでくれ。と、俺がそんな事を考えている内にホームルームが終わった。
同時に彼女の席の周りにクラスメイト達が押し寄せてくる。
「七宮さんちょっとお話ししようぜ!」
「う、うん……」
何人かの生徒が七宮の周りに集まってくる。おいおい人気者かよ。
つかあいつの近くの席になるとかとんだ貧乏くじを引かされたものだ。
お陰で周りがうるさいし俺の平穏な中休みを返して欲しい。
「七宮さんってイギリスから来たんだよね? もしかしてハーフ?」
いきなりそこ聞いちゃうのか。まぁ今時珍しい碧眼だし気になるのは当然か。
「えっとクォーターかな、パパがハーフなんだ。ママは日本人だけど」
「おぉ~マジかぁ、帰国子女とかテンションバリ上がるわ~」
石田が頷きながらそう口にしていた。
お前は可愛くて巨乳だったら何でもいいんだろうが。と俺が内心ツッコミを入れると、後ろから新たに人がやってくる。それも驚いた事に先程からやかましい石田以外のリア充メンバーだった。
「やぁ七宮さん、僕は水沢洋介って言うんだ宜しくね。んで隣の彼が大岩司」
「うっす、宜しくな」
バスケ部レギュラー兼クラス委員を務める水沢洋介。ルックスはかなりイケてるいけ好かない奴。俺クラスメイトとは男女問わず誰とも仲良くなれる社交性があり、女にモテているらしい。端的に言うと腐れリア充、早々にくたばれ。
続いて隣の大岩司は丸刈りの野球部のエース候補。授業中は俺と同じように寝ていることが多い故に親近感はそれなりにある。でもリア充、地獄に堕ちろ。
「うん、二人共宜しくね」
満面の笑みで七宮が返事をする。すげぇ猫被ってんなー。まぁいいけどさぁ……。
「俺は石田勇二、マジ宜しくだべ」
石田勇二、やかましいクラスのムードメイカー。軽音楽部に所属しているらしい。
授業中の発言も多くて教師には割と好かれているっぽい。顔もそれなりにイケてるのでモテるんじゃねーの? 知らんけど。まぁ好みとしては賛否両論なタイプ。ちなみに俺はあいつが苦手。マジで苦手。てか怖い。でも人生楽しそうで羨ましい。
「もーう石田君最初からグイグイ行き過ぎだよー。ごめんね咲良~。この馬鹿、天然たらしだから近づかない方が良いよー」
「え、あーうん。てか咲良?」
「ごめんごめん、いきなり呼び捨てにしちゃった。私、貴女の事気に入ったから友達になって欲しいな。因みに私の事はまゆしぃって呼んでくれていいよー」
彼女がそう言った瞬間、クラスメイトがざわつく。てか俺も正直驚いた。
黒崎真由……黒髪ショートボブの美少女、その類まれな容姿と明るい雰囲気からクラスの男子に天使と揶揄されている。そして、彼女自身はその圧倒的な存在感からクラス委員を務めており、水沢と共にクラスを牛耳っている。彼女は他の女子グループにも所属して居ながら、水沢、大岩、石田の三人とも頻繫につるんでおり、彼等が実質的に俺たちのクラスのカーストトップだった。そんな男三人に囲まれた彼女が直々に七宮をグループに率いれようとしている。つまり彼女を認めたという事だ。
「ありがと……まゆしぃ、これからよろしくね!」
七宮が満面の笑みで返事をする。この瞬間、彼女のカーストトップ入りが確定した。
幼馴染としては寂しいものだ。これで益々彼女とは距離を置かねばならない。まぁ元からそうするつもりだったからいいんだけど。
「つか黒崎から声を掛けるとか意外だべ」
石田が怪訝そうに口にすると、大岩や水沢もそれに対して言及する。
「まぁいいんじゃねぇの、今まで男女比バランス悪かったし」
「そうだね、僕的にも真由と七宮さんが仲良くしてくれたら嬉しいな」
「まぁ、洋ちゃんの言う通りだべ。今まで黒崎の逆ハーレム状態だったし」
「誤解異を招くような言い方しないでよー、てか石田君じゃあ役不足だし。ついでにグループに一人増えたから代わりに石田君解雇かな」
黒崎が顎に人差し指をやりながらそんな事を口にした。
おいおい、いきなりメンバーに戦力外通告するとかリア充半端ねぇわ。
「いい案だな、石田が居なくなったら男女比半々だし丁度いい」
大岩も黒崎の案に乗っかるようにそう言い始めた。
「お前ら酷くね? 洋ちゃん助けてくれよ~コイツが虐めてくるんだけど」
「さよなら勇二、今まで楽しかったよ」
憐みの表情を浮かべながら水沢が石田の肩をポンっと手を添える。
どうやらお役御免であるらしい。
「やっぱり洋ちゃんは優し……っておい。お前まで裏切るとか聞いてないべ!」
石田がそう突っ込むと場に笑いが巻き起こる。……くだらねぇ。
俺は内心そう思いながら窓の外を見上げた。
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