10話 同居生活①
自宅に帰った俺と藤原先輩は新しく購入したカーテンを変え替えたり、インテリア雑貨を置いたりと大胆な部屋の模様替えをした。そんな事をしているうちに、気が付けばすっかり外は暗くなって、あっという間に夜を迎えていた。
「そういえば立花君って料理とか出来るかしら?」
「まぁそれなりっすね。面倒な時以外は自炊してますよ。節約になりますし」
面倒というかイラストの仕事などで忙殺されている時はコンビニ弁当である。だが父親が家を出て行ってからは料理するようになったので、料理スキルはそれなりにあると思う。
「へぇ~偉いねぇ。じゃあ私も作れるけど分担制にしない?」
「良いっすけど割り振りはどうするんすか?」
一週間は七日間ある。つまりどちらかが一日多くやらなければならない。
「立花君は月水金日ね。私はそれ以外を担当するから」
「サラッと一日多く押し付けたっすね」
「その代わり掃除は私がやるよ」
「なら良いっすけど、じゃあ洗濯とかは俺がやった方が良いっすか?」
「絶対ダメ! それも私が担当するから」
途端に大きな声で藤原先輩が叫ぶ。一体何を必死になっているのだろうか……あ。
如何やら馬鹿なのは俺らしい。俺が洗濯を担当したら彼女のブラジャーとかパンツを触ることになってしまう。流石にそれは不味いな……いやでもどっちが異性の下着を洗わなければならない事実に変わりはない。
「立花君、今エッチなこと考えたでしょ」
見透かされていた。いや別に藤原先輩の下着の色とか興味ないし!
先輩のパンツ盗んで、クンカクンカしようとか考えてないんだからねっ!
「そんな事ないっすよ。つか先輩は抵抗とか無いんすか? いくら家族といえども血の繋がってない異性のパンツとか触りたくないでしょ」
「いいの我慢するから! 立花君に触られるよりはマシだし!」
俺のパンツは汚物扱いだった。
「分かりましたよ。じゃあ洗濯は先輩にお願いしますね」
「はい、任されました。というか今日土曜日だよね? って事は今日の料理担当は私じゃない。すっかり食材とか買い忘れちゃったけど冷蔵庫に何かあるかしら?」
「どうっすかね……」
ぶっちゃけほぼ何も入ってないような気がする。最近はイラスト関連の仕事で忙しかったし、夜食はカップ麵とか冷凍食品で済ませていた。
「冷蔵庫もすっからかんだわ。うーん、これじゃあどうしようもないなー」
中身を見た藤原先輩の嘆き声が聞こえてくる。
仕方ない、今日は諦めて彼女には俺のおすすめカップ麵、UFOを差し上げるか。
……。ここで重大な事に気が付いた。カップ麵すら昨日全て食べてしまった。
なら残る選択肢は二つ、微妙に遠い位置にあるコンビニに行くか、ちょっと割高であるが、配達で何か頼むか……。
「折角ですし、今日はピザでも頼みませんか?」
「え? いいの? じゃあお言葉に甘えようかな……」
「決まりっすね」
という訳で結局俺達はピザを頼むことになった。偏る食生活……。
その辺も明日からは改善しないとな。
※※※※
……。
「なんつーことだ」
俺は現在、洋室の中央に設置されているテーブルに項垂れていた。
本格的に始まった共同生活、なんやかんやで上手く適応出来ていると思っていたが今日一番、俺は動揺していた。
何故なら藤原先輩が昨日まで俺が使っていた風呂に入っているからである。
二分前ぐらいに風呂場に行ったので、既に服を脱いで裸であろう。
先輩の艶めかしい白い肌が露わになっている。
今後の二人の関係にヒビが入るので、覗いたりは流石にしないが妄想はする。
まず初めにシャワーをうなじ辺りに当てて……いや止めよう。これ以上は良くない気がするし……。なんて俺が考えていると、タッタッタと足音が聞こえてくる。
「ねぇ立花君! シャワーから水しか出なくて冷たいんだけど!」
バスローブを羽織った藤原先輩が俺の目の前に現れた。
おいおい何て格好してるんだよ……。
腕と膝より下は完全に肌が露出している。胸元も若干見えそう……。
って見惚れている場合じゃない、彼女が助けを求めているんだ。
いやでもおかしいな……ガスが使えないなんて事は……あ。
「先輩、心して聞いてください」
「急に改まってどうしたの?」
「ガス代払い忘れていたので、多分止められました」
導き出された結論はこれしかなかった。全く、男のドジっ子属性とか需要ねーぞ……。
「えー本当に? ……仕方ないなぁ、今日は冷たい水で我慢するわ」
「や、風邪ひくから止めた方が良いんじゃないっすか?」
「汗臭くなるよりはましだわ。じゃあ立花君、後でガス会社にちゃんと電話する事! お姉ちゃんとの約束だからっ!」
「りょ、了解……」
俺が返事をすると、藤原先輩は再び風呂場に戻って行ってしまった。
にしてもやっちまったな。彼女と同居が始まるタイミングでガスが止まるなんて運がなさすぎるだろ。まぁ先輩が心広くて良かった、普通ならキレてもおかしくないし、あの人マジで優しいよなぁ……。
何かこの先彼女と上手くやっていける自信が無くなって来た。初日からいきなりやらかしてしまったし、いつか口を利いてくれなくなりそう。何て考えながら俺は再びテーブルに項垂れる。
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