8話 買物③

 早速藤原先輩と買い物の後半戦を始めようと思っていたのだが、先に通りすがったアイスクリーム屋に寄り道する事になった。どうやら彼女曰く、口直しをしたかったらしい。仕方ないので俺は店から少し離れた場所で待機していた。


「ごめん立花君、待たせちゃった」


 片手にワッフルコーンの入ったアイスクリームを持った藤原先輩がやってくる。

 レギュラーダブルのストロベリー&チョコクッキーとか旨そうだな……。


「別に時間はあるんでゆっくり行きましょう」


 適当に俺はそう言った。まぁこんな美人な先輩と外出できる機会なんて今までの人生では考えられなかったしな。


「ん、このアイス美味しい~」


 幸せそうな表情で藤原先輩がアイスを食べていた。

 控えめに可愛い……傍目から彼女を俺まで幸福感に満たされる。

 彼女はまさに歩く幸せ製造機である。


「良かったっすね」


「折角だから立花君も食べなよー。ほらあーんしなさい」


 そんな事口にした藤原先輩がアイスの乗っかてるワッフルコーンを俺の顔の前に差し出してくる。いや不味いでしょ、流石に食べかけのアイスとか無理だって。

俺はともかく彼女はそういうの気にしないのだろうか?


「や、俺は要らないっす」


 俺は自分の手で押し付けられるアイスをガードする。

 これは罠だ。恐らく向こうは俺をからかって楽しんでいるだけ。

だから俺がこういう反応をするのも織り込み済みなのだろう。


「遠慮しなくていいのよ? というか食べないと駄目なんだから。学校で一番偉い生徒会長の言うことが聞けないの?」


「横暴に権力を振るうとか良くないっすよ」


「ふふっ、時には強引にいかないといけない時もあるのですぞ後輩君! えい!」


 そう言って藤原先輩が腕を伸ばしてアイスを口に突っ込んでくる。

 不意を突かれた俺はそれを躱す事が出来なかった。


「ん……もぐ」


「どう美味しい?」


「まぁそれなりに……」


「ふふっ、なら良かった」


 藤原先輩は良くても俺は良くないんだよなぁ。

正直心臓の鼓動がバクバクなせいか、味が良く分からなかった。


※※※※                


 あれから約二時間近く、俺は藤原先輩とショッピングモールの色々な場所を回った。

 購入したのは主に日用品、彼女が使う用のシャンプー、リンス、歯磨きとか……後はこの際だからついでに食器やカーテン何かも買い足した。他には少々部屋を新調する為にインテリア雑貨を買ったりもした。そんな訳で荷物は大量である。

 俺達はこの量の袋を持ってショッピングモールから家へと帰らないといけない。

考えただけでも少し憂鬱だ。


「ふぅー、いっぱい買い物しちゃったねー」


「そ、そうっすね……」


「顔色悪いけど大丈夫?」


「気にしないで下さい。ちょっと疲れただけっす」


 身体に疲労がたまっている原因は沢山歩いたのは勿論、人の多いところに出向いたというのが一番大きいと思う。休日は家に引きこもりがちな俺にとって、騒がしい所は中々にキツかった。俺は何時だってワイワイする空気が嫌いなのだ。ウェイ系とかな。


 なんて俺が考えていると、藤原先輩がどこか気になっている様子だった。

 何かあったのだろうか?


「……あれちょっと良くない気がする」


 藤原先輩がそう言うので、俺は彼女の視線の先を追う。

 するとそこには俺達と同い年ぐらいの女の子が男二人に囲まれている様子だった。


「ナンパっすかね。まぁ放っといていいんじゃないですか?」


「珍しく意見が食い違ったね。私は助けた方が良いと思うけど」


「面倒事は避けたいんっすよ。他人を助けるなんて崇高な行為、余裕がある奴だけがやればいい」


 人を助けるという行為が偽善とは言わない。だが例えば電車で腰の悪そうな老人に席を譲った際に、人は対価として自尊心を満たす。結局のところ等価交換なのだ。俺はそんな無駄な行為をしたくない。だからこの場は見て見ぬふりをするべきだと思っていた。しかしながら藤原先輩は違った。


「見損なったよ立花君。じゃあ私一人で行くから」


そう言ってから藤原先輩はその場から離れて男二人の所に注意をしに行く。

見損なったか……。どうやら先輩は俺を過大評価し過ぎているらしい。俺は元々こんな人間だ。彼女がどう俺を見ていたのかは知らないが、少なくとも今の俺は男二人に絡まれている女の子を見て咄嗟に助けに行くようなカッコいい奴じゃない。


「なぁ俺達とカラオケでも行かね? 君一人で退屈っしょ?」


「そうそう、マジで絶対楽しいからさ」


「触らないでください。あたし、貴方達に興味とかないし!」


 腕を掴まそうになった女の子が不快な表情を浮かべながらそれを跳ね除ける。


「痛ってーな嬢ちゃん。こりゃあ多少強引な手を使った方が良さそうだな……」


 気を悪くした男がそんな事を口にする。

 だが彼は後ろから来ている人に気付いてないようだった。

 

「ちょっと貴方達、彼女が嫌がっているじゃない。これ以上見っともない真似はやめなさい」


 藤原先輩が颯爽と現れて男二人と女の子の間に割り込んだ。

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