7話 買物②
「随分と買い込んでしまった……」
俺は購入した服が入った紙袋を手に持ちながらそう呟いた。まさか全身コーディネートされるとは思わなかった。上着から靴まで文字通りの全てを藤原先輩に選んでもらったのだ。お陰で諭吉が飛んだけど、彼女に選んでもらったコーデ一式と考えただけでプライスレスである。まぁ最大の問題は出掛ける機会が無い事なのだが……。
「ねぇ立花君、一旦お昼にしない?」
「そうっすね。時間的にも丁度いいし行きましょう」
もうじき時刻は十三時を回る頃である。
という訳で俺達は建物の三階にあるフードコートに向かった。
それから席を取り、色々な店がズラリと並んでいたので各々好きなメニューを注文しようという事になり、一度別行動をしてから再び合流した。
結局俺は天ぷら蕎麦を注文し、藤原先輩はミニチャーハン付きラーメンセットを頼んだようだった。ひとまず俺は適当に蕎麦を啜る。
……。それにしても周りに人が多くて、食べることに集中できない。休日ということもあって、家族連れや学生っぽい集団の声が周りから聞こえてくる。加えて目の前には藤原先輩が居るのだ。お陰でいつもの昼食とは違う、異質空間で食事をしているかのような感覚に陥った。
「……」
ふと俺が正面を見ると、藤原先輩が髪を耳に掛けてから麵をフーフーと息を吹き当てて冷ましている。何というか仕草がエロい。何なんだよこれは……。
そうか俺自身、そもそも誰かと一緒に飯を食べること自体が久々だもんな。学校ではいつも一人だし、家もつい最近まで一人暮らし状態だったのだ。
妙に違和感を覚えていたがそういう事だったのかと納得した。
「どうしたの? 立花君」
藤原先輩が俺の視線に気付いたのか、顔を上げて俺に問いかける。
不味い、流石にガン見し過ぎた。
「え、いや何でもないっすよ」
「早く食べないと麵伸びちゃうよー」
ふっと笑いながら藤原先輩はそう言った。
良かった……。もしガン見していた理由とか尋ねられていたら詰んでいた。
「そういえば先輩、俺達が姉弟になった事を知っている人って学校に居るんすか?」
「居ないよー。でも親友の奈央にはその内話すかも」
藤原先輩が言っているのは恐らくいつも屋上で一緒に昼を食べているポニーテール先輩の事だろう。まぁ彼女に知られるのはまだギリセーフだろう。
「そうっすか。因みにですけど、基本的に俺達の事は周りにバレないようにするって事でいいんですよね?」
「うーん、そうだな……まぁそれが無難ではあるよね。何か変な噂とか立てられても困るし」
「先輩美人っすから俺みたいな虫けらが傍に居るなんて知られたら可哀想っすもんね」
「び、美人? 立花君って意外と平気でそういう事言うんだね」
「別に思った事を言っただけですよ。そもそも先輩とか絶対言われ慣れているだろうし、驚かれても俺が困るんですけど」
「そうかなー。でも私、中学の時はどっちかと言うと地味系だったけどね」
「全然想像付かないっすね」
仮に藤原先輩が口にしたようにかつて地味系だったとしても、今の彼女が学年のマドンナである事実に変わりはない。彼女が何かをきっかけに変わろうと努力したのかは定かではないが、目の前の魅力的な女性になったのは元々ポテンシャルがあったに他ならない。
ならば今の俺はどうだろうか?
中学時代の時から俺は何も成長していないし変わっていないのではないか?
いや違う。人には変わる勇気ともう一つ、変わらない勇気がある。今の俺はあくまでも後者を選択したまでだ。
「立花君生きてる?」
藤原先輩の声が耳に入った瞬間、俺の長い思考が途切れた。
「どうしたんすか?」
「それはコッチの台詞。何か考え事でも?」
「別に何でもないっすよ。それより買い物の後半戦行きませんか? まだ俺達、服しか買っていませんし」
「それもそうだね。じゃあ今日は立花君に精一杯付き合って貰っちゃおうかなー」
「お手柔らかにお願いしますよ」
ということで昼食を済ませた俺達はフードコートを後にする事にした。
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