6話 買物①
藤原先輩が俺の家に来てから数十分後に沢山の段ボール箱が家に届いた。それらは全て彼女の私物である。そういう訳で俺達は二時間ほど掛けて、それらを開封していった。
「これで一通り片付いたっすね」
「うんイイ感じ。立花君も手伝ってくれてありがと。助かっちゃった」
「これぐらい当たり前っすよ。にしても結構荷物少なかったすね」
もっと沢山の荷物が届くのかと思っていたが、家に来たのは段ボール数箱だけだった。
「最低限の物しか持ってこなかったからかなー。日用品とかは買い揃えばいいと思ってさ」
「そうっすか。なら今から買い物行きませんか? 色々と必要な物とかあるだろうし」
「うん、じゃあお言葉に甘えようかな。私、この辺りのお店分からないから案内してくれる?」
「分かりました。その辺は任せてください」
「おっ、頼りになる弟君だな~、このこの~」
藤原先輩が俺の脇腹に肘を当ててくる。何なのこの人、スキンシップが激しすぎる。俺の心の絶壁にひび入れてくるとかコミュ力半端ねぇわ、もう畏怖の対象なんだけど。
「ちょっ、子ども扱いしないでくださいよ」
仕方なく俺は嫌がる態度をとった。だが先輩は相変わらずニコニコしていた。
これはある意味先が思いやられそうだなと思いながら、俺はため息をついた。
※※※※
約一時間後、早速俺達は家から少し離れた場所にある大型ショッピングモールに来ていた。お目当ては主に日用品であったり、先輩の服とか家をカラーディングする為に必要な物などまぁ色々だ。それにしてもやけに周りの視線が気になる。
今までこの世のモブキャラとして外を歩いていたが、隣に藤原先輩を置くことで注目を浴びる機会が多くなった気がする。それほど彼女は人の目を惹きつけるのだろう。
「そういえば先輩、なんで休日なのに制服なんすか?」
今日の朝会った時から藤原先輩は何故か制服を身に纏っていたのだ。
「引越しの荷物を纏める時に制服以外は段ボールに詰めちゃったんだ」
「でもここに来る前なら着替えられたでしょ」
ショッピングモールに来る前に藤原先輩の荷物は全て俺の家に届いたのだ。
それならば先程に着替えるタイミングはあったはずだ。
「えー、だって洗濯物増えちゃうじゃん。まさか立花君、私の私服姿に興味があったの?」
「どうっすかね。まぁー見た事ないので多少興味はあります」
噓です。本当は滅茶苦茶見てみたい。だがここは敢えてがっつかない。
「ふーん。そっか、なら折角だし立花君に服選んで貰っちゃおうかなー」
「え? マジすか?」
ぶっちゃけ俺に服を選ぶセンスはない。普段は学校以外出掛ける機会が少ない故に最低限の安さと着易さ重視の服しか家に無いのだ。今だって謎のロゴ入り長袖Tシャツとデニムパンツである。脱オタクとかするならファッションとかにも気を遣った方が良いのだろうが俺に変わりたいという意志は無い。変わりたいと思うのは立派なことだが、それ以上に素の自分って奴を受け入れるのだって大事な事であると俺は思う。
自分を捻じ曲げてまで何かを変えるという選択肢を取るのは俺の理念に反する行為。なんて俺が考えながら藤原先輩の隣を歩いていると、彼女が通りかかった服屋に飾られているマネキンの前に立ち止まった。
「お、このワンピース可愛いかも……んーでもコッチも捨てがたいなぁ」
如何やら二体のマネキンが着ているワンピースが気になったらしい。
「先輩なら何でも似合いそうっすけどね」
服にはその人の印象を大きくプラスに変える力を持っていると思う。だが、ぶっちゃけ藤原先輩は元が最高レベルな故に何着ても称賛してしまうだろう。彼女はそういう領域に達しているのだ。
「えーでも、私異性の子に服とか選んでもらった事ないしなぁ。立花君はどっちが好み?」
一方が花柄の白いワンピース、もう片方は黒をベースとした大人っぽいワンピースであった。清楚か妖艶さのどっちがいいか……。
「個人的には黒っすね」
深く考えても駄目な気がしたので、俺は直感でそう答えた。
「へぇーそっち選ぶんだ。じゃあコレ買っちゃお」
「そんな適当に決めていいんですか?」
「何言ってるの? 立花君が選んでくれたんだから間違いないじゃない? それに私もコッチの方が気になってたし」
如何やら正解を引くことが出来たらしい。
多分普通の女の人だったら白と答えていたが、藤原先輩は年齢が俺と一個しか変わらないけど、雰囲気が大人びている印象だったと無意識に感じていた。それ故に俺は黒を選んだのだ。俺の直感もたまには仕事をするらしい。
それにしても藤原先輩と洋服選びとか学校の奴らに見られたら色々と勘違いされそう。いや、相手が俺だからある意味大丈夫か? や、でも彼女との関係がばれたら放課後とか怖い先輩に呼び出し食らって問い詰められそうだな……。どうやら俺が思っている以上に彼女と同居生活を送っている事が周りに露呈したら厄介な事になるかもしれない。
昨日唐突に決まったことだから考える暇も無かったけど、よくよく考えたら結構危ない状況だよなコレ……。今後俺たちが姉弟である事を隠し通して生活をするのか、後で話し合った方が良さそうだな……。なんて俺が逡巡していると、彼女が紙袋を持ってこちらにやってきた。
「ごめん待たせちゃった。じゃあ次は私が立花君に付き合ってあげる」
「どういう事っすか?」
「私が立花君のコーディネートをしてあげるって事」
「正気っすか? 俺は別に服とか興味ないんすけど……」
「駄目だよ立花君、君が良くてもお姉さんが許さないんだからっ。弟のダサい着こなしを見て純粋に将来が心配になってきたし、ここは姉として指導してあげる」
「まぁ先輩が選んでくれるなら良いっすけど」
断る義理も無かったので俺は藤原先輩の言葉に甘えることにした。
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