5話 義理姉の正体は…
翌日の朝、あっという間にこの日がやってきた。
あの後家に帰ってから飯を食って風呂に入って、すぐに寝ようと思っていたのだが、次の日の事を考えていたら夜中まで起きてしまった。天上を見上げながら義理姉について悶々とするぐらいなら、絵でも描いておけば良かったガチで後悔している。
ひとまず俺は朝起きて、急いで部屋の掃除と飾っている自分の趣味のフィギュアやタペストリーなどをクローゼットの中にぶち込んだ。
これでよし……。取り敢えず最低限の掃除と擬態は済ませた。
後は例の義理姉の訪れを待つのみ!
気合十分、準備万端という感じで、俺が彼女の到着を部屋の丸テーブルに肘をつきながら座敷の上に座って待っていると、途端にインターンが鳴った。
「ついに来やがった……!」
ヤバい、マジで心臓がバクバクしてきた。
すぐに俺はその場から立ち上がって玄関の方に走っていく。
そして扉のドアノブに手を掛ける。
この先に俺の義理姉が居る……。
まぁ案ずるな俺。相手がどんな反応をしてきても合わせればいいのだ。
向こうだって緊張しているはずである。だから必要以上に恐れることはない!
そう自分に言い聞かせながら俺は一気に扉を開く。
ついに義理姉とのご対面だ……。
————え?
俺は思わず自分の目を疑った。
何故なら扉の向こうにいたのは人物が、俺の予想の遥か上を超えたからだ。
「ちゃお! 立花君。またお姉さんと会っちゃったね」
「せ、生徒会長だと……」
茶髪のロングストレートに花柄のカチューシャの美少女は昨日の昼に屋上で見かけた人物に間違えなかった。しかも土曜日なのに制服を身に纏っている。
「ん? どうしたのー? 反応が無いけど生きてる?」
固まっていた俺に対して、藤原先輩が手のひらを俺の顔の前でゆさゆさと揺らす。
「あ、すみません。予想外の展開だったのでつい」
全然知らない人が来ると勝手に思い込んでいた故に、同じ学校の有名人が家に来るなんて考えもしなかった。何があっても動じないと思っていたが、一本取られたようだ。
「え、もしかして私が来るって聞かされてなかったの?」
「あー、親父にどんな人かは教えてもらったんすけど、写真とかは全く……」
「なーんだそういう事かー。だから反応が薄かったのね。私、いきなり嫌われたのかと勘違いしちゃったよー」
ホッと胸をなで下ろしながら藤原先輩が言う。その反応、ちょっと脈ありに取れなくもないから止めて欲しい。俺は引っかからないからな、その手法には!
「俺が生徒会長を嫌う訳ないじゃないですか。寧ろ先輩なら大歓迎ですよ」
「本当に? やったぁ、立花君のお墨付き貰っちゃった。じゃあ早速お家に案内して貰っちゃおうかなー」
機嫌よさげに藤原先輩が俺の腕に抱きついて来る。
え、待って! 近い近い近い。いきなり距離感間違えてないですか? 俺達、最近まで赤の他人だったんすよ? いくら姉弟だからって可笑しいでしょ……。やべぇ胸当たってる。柔らかい、先輩、このまま一生離さないでください。俺が幸せにするから……。
って感じで俺は滅茶苦茶浮かれていた。もう既に気分だけは新婚夫婦である。
正直いきなり同居とか父親の事を恨み掛けたけど、今ので全部許したまである。
「分かりましたよ。つか密着し過ぎですから」
態度には出ないように、俺は平静を装いながら家の中を案内する。とはいっても時間をかけて紹介するほど我が家は広くない。
よくある1DKで間取りは玄関に入ったら右にダイニングキッチン、左にはトイレと風呂が備え付けられている。それに加えて奥に洋室6帖がある。
「へぇー、ちゃんと綺麗にしてるんだ。偉いねぇ」
藤原先輩が辺りをキョロキョロしながらふーんと頷き、部屋の中を見ていた。
「まぁこれぐらい普通っすよ」
勿論嘘である。朝の時点で洋室は足の踏み場が無いぐらいに散らかっていたし、テーブルにはカップ麵や缶ジュースの残骸が散らかっていた。それに何よりも壁にはアニメポスターやタペストリーが飾られているなど趣味全開であったが、それらは全部物入れ代わりにしているクローゼットにぶち込んだ。
取り敢えずごくごく普通の男子高校生の部屋にはなっているはず……多分。
「なーんか思ったよりも面白味に欠けるなぁ……」
「そうっすか? まぁ男の部屋なんてこんなもんすよ」
「ふーん。そうなんだ」
そう口にした藤原先輩はつまんなそうな表情を浮かべていた。まぁ擬態しないでドン引きされるよりはマシだ。こういうのはプラスの印象よりも如何にマイナスを作らないかが大事なのである。
なんて俺が思っていると、彼女が顎に手をやり考え事をし始める。
「なーんか怪しいなぁ」
藤原先輩がクローゼットの方をジト目で見つめる。
不味い……あの場所にはさっき片づけた魔法少女プリティ・キッスのタペストリー(際どい水着姿の女の子)がある。クッソ、これだから女の勘って奴は……。
「せ、先輩どうしたんですか? あそこには何にも無いっすよ」
「おっ、立花君動揺してるねぇ。という事はお姉さんに何か隠し事してるなぁ~」
くっ、流石は藤原先輩。学年トップの秀才を欺くのは簡単ではないようだ。
俺が抵抗する間もなく、彼女がクロゼットの中を漁り始めた。
「これから家族になるんだから恥ずかしがらなくていいのに~。お姉さん、エロ本ぐらい全然気にしないんだから……。ん? エロ本は無さそうね。このグルグル巻きになってるのは何だろ?」
あーあ、遂に手を付けてしまったか。一応見えないようにタペストリーを巻いていたが、開かれたら元も子もない。既に手遅れだったので俺はもう諦めていた。
「へぇー立花君って、こういうのが好きなんだ。まぁ想像通りだけど」
二次元の女の子の絵のタペストリーを広げながら藤原先輩がそう口にした。
「悪かったすね。ドン引きしましたか?」
「え、どうして? 私もこういうの好きだよー」
「やっぱりそうっすよね……って、今なんて?」
「わー凄い、こんなに沢山グッツあるんだー。立花君ってばオッタクぅ~」
俺の言葉を無視して藤原先輩がクローゼットにあるものをドンドン漁っていく。
意外な展開、まさかこんな事になるとは……。
何だよ。こういうの平気な人も居るんだな……。
「ねぇ立花君、もしかして君って女装趣味とかある?」
……は? 急に何言ってんだこの人……。
「どうしたんすか先輩、俺は至ってノーマルな人間っすよ」
「ふーん、じゃあコレはどう説明するつもり?」
藤原先輩が手にバニーガールの服を持って問いかけてくる。
何でそんなところにアレが……。不味いぞこれ……。
俺は過去を遡って必死に思い出す。アレはそうだ、確か俺が絵描き始めた頃に参考資料として色々なコスプレ衣装を買い込んだのだ。でも結局使わなくなってクローゼットの奥の方にしまった。随分前の事だったので完全に忘れていたぜ……。
「いや、えーと、これには深い事情があるんすよ」
「ほうほう。紆余曲折して女性服に目覚めたのね」
「違いますよ。まぁ簡単に言うと資料みたいなもんですから。先輩が思ってるような使い方はしてないっすよ」
「えー、つまんなーい。でもこれ未使用だよね? 立花君のお望みながら私がこれ着てあげよっか?」
「え?」
いやそれはヤバいだろ。ただでさえスタイルが良い藤原先輩があんな露出の高いものを着たら確実にエロいし可愛いに違いない。。俺はひっそりと頭の中で想像をしてみる。
うん、実に素晴らしいな……。
「嘘嘘、流石に今のは冗談だよ」
苦笑しながら藤原先輩がそう口にした。。
ですよねー。まぁ知ってましたよ、そんな美味しい展開なんて無いって事ぐらい。
「にしてもバニー服以外にも、スク水とか体操服もあるねぇ。本当にエッチだなぁ立花君は。このむっつりめっ!」
「だから誤解っすよ」
これに関しては後でちゃんと説明したほうが良さそうだ。
ひとまず俺はこれ以上弱みを握られるわけにもいかなかったので、強制的にクローゼットを閉じることにした。藤原先輩はえ~、まだ全部漁ってないのにーなどと愚痴をこぼしていた。
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