2話 生徒会長と邂逅
昼休み、俺は屋上に来ていた。
日が頂上に昇る空の下、オアシスとも呼べるこの場所で、俺は一人で昼食を済ませる。周りには一年生から三年生まで俺と同じ思考を持つ人達がチラホラと居るが、俺の嫌いな騒がしい集団が居ないらしく、大変落ち着いた空間となっている。
雨が降った日は図書室に籠るが、今日みたいな天気の良い日は屋上で昼食を済ませる。勿論教室で食べてもいいのだが、流石に一人だと気まずいしな。
という訳で俺は屋上の貯水槽が置かれている壁に寄っかかりながらパンを食べる。
今日も世界は平和らしい……。
屋上を囲っているフェンス越しに外の景色を見ながらふとそう思った瞬間である。
周りが途端にざわつき始め、空気に敏感な俺は直ぐに異変を察知した。
「何があったんだ?」
視線を横に向けると、屋上の中心に男女二人が立っており、彼等を周りの生徒が注目していた。
「藤原、俺と付き合わないか?」
男がそう言った瞬間に、周りにいた女ギャラリーがキャーと声を上げる。
仮に俺があのような言葉を口にしたら確実に悲鳴声が上がるのだろうが、告白をした男はかなりのイケメンだった故に黄色い声が屋上に響き渡った。そういえばこの男を俺は知っている。何故なら彼はこの学校の副会長を務めているからだ。
名前は覚えてないけど、部活はバスケ部に所属しており、文武両道のいけ好かない奴という情報を耳にした事がある。しかも去年の文化祭でミスターグランプリに選ばれたとか。それに加えてこの告白の注目度が高い理由はもう一つある。
それは告白された相手がミスグランプリに選ばれた美少女だからである。
彼女の名前は憶えている。
確か、
そんな彼女の隣に立つに相応しい男と言えば、スペック的に限られてくるだろう。
だが、今告白した男ならば釣り合いは取れていると思った。
あーあ、マジで不快な気分。昼間っから何でリア充のイベントに巻き込まれなきゃいけないんだよ。むしろあれか? 告白の返事をオーケーしてくれると見越して、わざと屋上で派手な告白をしただろ。そうすれば学校中に噂が広まってリア充街道まっしぐらだもんな。
本当に嫌なイケメンの先輩だ……なんて俺が思っていると、藤原先輩が長い沈黙の後にようやく口を開いた。
「えっと……御免ね。気持ちは凄く嬉しいけど、それに応えることは出来ないかな。私、今はそういう気分じゃないし、君とは友達として同じ生徒会で頑張っていきたいなって思うの」
これは俗に言うお断りという奴だった。
周りのギャラリーもお祭り気分から一転、お通やモードである。
誰もが気まずそうにする中、振られた男はポカーンと口を開けながら茫然としていた。
余程自信があったのだろう。あーあ、今日も飯が美味い! なんて思いながら俺がパンを頬張っていると、藤原先輩が何も言わずにその場で踵返す。
「ちょっと待ってくれよ! 藤原」
男が藤原先輩の腕をつかんで引き止める。
如何やら勝負はまだついてないらしい。流石はリア充、只じゃあ終わらないらしい。
「考え直してくれないか? 俺達ならきっと上手くいくだろ? それに彼氏のいない高校生活なんて灰色過ぎると思う。だから俺と一緒に……」
男が喋っている途中にもかかわらず藤原先輩がそこに割り込んだ。
「彼氏いないと灰色の高校生活ね……でもそれは君の価値観だよね? それと私、他人に自分の生き方をとやかく言われたくないの。後、しつこい人は嫌いかな」
先程までの対応と違って、何処までも冷たいトーンだった。
俺もその様子を見て驚いてしまった。普段明るい人が途端に真顔で言うそのセリフの威力は計り知れない。男は言葉を詰まらせてどうしていいのか分からないと言った表情だ。
流石の俺もアレには同情した。
「ははっ、何だよそう言う事か。なら最初から勘違いさせるなよ!」
男は涙目になりながらそう吐き捨てて、屋上を後にした。
同時に入れ替わるようにして女子生徒が屋上に入ってくる。
「千春―、すれ違いざまに中村君が泣いているのを見たんだけど何か知らない?」
彼女は藤原先輩の友達であった。根拠はいつも二人で昼を食べているのを見掛けるからだ。それにしても類は友を呼ぶのか、友達もかなりの美少女である。俺が密かに黒髪ポニーテール先輩と呼んでいる彼女は確か水泳部の部長やってるんだっけ? まぁ何でもいいけど。
「あー、さっき告られたの。まぁ振ったんだけどね」
「え? そうなの? うーん、お似合いだと思うけどなぁ。まぁ千春が無理ならしょうがないね」
「うんうん、それより早くお昼食べちゃお」
こうして昼休みのリア充イベントは終了した。まぁ見世物としては楽しめたかな。
なーんて俺が思っていると、食べ終わったパンの袋が風に吹かれて飛んでいってしまう。
ったくめんどくせぇなおい。ポイ捨てするわけにもいかなかったので俺は立ち上がってそれを追いかける。
「おっと、こんな所にゴミが飛んできた。誰だー、ポイ捨てしたいけない子は」
飛んでいった袋は藤原先輩に拾われたらしい。
「すみません。風で飛ばされたっす」
俺は直ぐに藤原先輩の所に駆け付けた。
「ん、気を付けるんだよ……ってこれ限定コロッケチーズパンじゃない! まさかこんな所に同士が居るなんて驚いたわ」
途端にテンションを上げる藤原先輩が手に持っていた袋から俺がさっきまで食べていた限定コロッケチーズパンを取り出して見せてくる。どうら彼女も同じパンを購入したらしい。何なんだよこの展開は……。
「あー、そうっすね」
「え? 反応薄くない? こんなに美人な先輩が話しかけているのに」
「自分で言わないでくださいよ。てか、話し相手が美人だろうがブスだろうが俺のテンションはいつもこんな感じっすよ」
いくら美少女だからって調子乗り過ぎ。俺はそこらの奴らとは違う。いちいちキョドったり浮かれたりはしない。だから勘違いだってしないのだ。今だって偶然藤原先輩と話しているだけである。
「ぷっ、君面白いね。この学校に来てからそんな事言われたの初めてだよ」
何故だがツボだったらしい。面白いとか言うの止めろ。心が揺らぐから!
「俺が面白い奴だったら今頃友達に囲まれて昼ご飯を食べていると思いますけどね」
「ふふっ、確かに! 君いつも一人で昼食べるもんね。周りの子は君の面白さに気付いてないのかも」
「ったく後輩をからかうのは止めてくださいよ」
「そうだよ千春ー、後輩君凄く困ってるよ」
藤原先輩の友達からの援護射撃が来る。まぁガチで困っているわけじゃないんすけどね。 何なら美人な先輩に囲まれて両手に花って感じだし。
「あはは……御免ね。久しぶりに面白い子見つけたからテンション上がちゃった。じゃあこのゴミちゃんと捨ててね。綺麗に使わないと、折角開放した屋上が使えなくなっちゃうから」
「ん、それってどういう意味っすか?」
「そっか、後輩君は知らないのか。この屋上は元々閉鎖されていたんだけど、千春が生徒会長に立候補した際の公案として掲げて、後に実現されたんだよ」
俺が聞き返すと、藤原先輩の隣に居る友達が教えてくれた。
「そうだったのか。先輩凄いっすね」
このオアシスは俺が入学する前に藤原先輩の努力によって勝ち取ったものらしい。
彼女が居なかったら俺は今頃便所飯だったかもしれない。
「もう、褒めても何も出てこないんだから。てかお昼の時間無くなっちゃう。という訳で後輩君、また暇だったらお話ししようね」
そう言い残して藤原先輩と友達は俺の場から離れていった。
まさか学校の美少女と話をする日が来るとは思わなかった。
とはいえ最後の部分はお世辞だろうな。……なんて下らない会話の振り返りをしながら俺は屋上を後にして、暇つぶしに図書室へ向かうことにした。
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