3話 担任の先生から呼び出し

 

 放課後、帰宅部である俺は直ぐに学校を出ようと思っていたのだが、突拍子の無い予定が入ってしまった。その内容はというと、担任の先生に呼び出しを食らったのである。そんな訳で俺はクラス内のローテーションで回ってくる掃除を終わらせてから職員室に向かった。


 全くこんな所に呼び出して何のつもりだろうか? まさか説教? なんて思いながら俺は早速職員室内に入り、先生のいるデスクに足を運んだ。直後に彼の後姿を発見した。

 俺が所属する一年九組の担任の教師である大塚晋太郎おおつかしんたろう、通称つかセンが椅子に座ってパソコン業務をしていた。デスクの周りには二次元の美少女フィギュアが数体並んでいる。しかもマウスパッドも二次元の女の子が胸を強調している物を使っており、マジで周りの目とか気にしないのかな、この先生……。なんて俺が考えていると、先生が椅子をぐるりと反転させたので、ようやく彼と目線が合った。


「遅かったじゃねーか、立花ぁ」


 白衣を身に纏う科学の教師、塚センがこちらの方に振り返ってからそう口にした。

 先生は典型的な中年のおっさん。今日も目が死んでいてやる気がなさそうだった。

 彼はよく居る熱血教師の正反対をゆく無気力系教師である。


「や、ちょっと掃除があったんすよ」


「んなもん、誰かに代わってもらえばいいだろうが」


 誰かに代わってもらう? この人、俺の事を馬鹿にしてるのか?


「生憎そんな友達、俺には居ないんすよね」


「ああ、知ってる。お前ボッチだもんな」


「なら聞かないでくださいよ。つか何でこんな所に呼び出したんすか? ……まさか柄にもなくお説教ですか?」


 恐らく俺が職員室に呼び出されたのは、今日の授業で居眠りをして怒られたからである。あの鬼畜女教師、後で担任に報告するとかほざいてたからな。


「無気力を売りにしている俺が説教なんてすると思うか?」


 無駄にドヤ顔だった。てかやる気が無いって自覚してたのか。タチ悪いなおい。


「自分で言わないでくださいよ。じゃあ何なんすか?」


「鬼女教師が俺にブちぎれてきたから形だけでもお前を呼んだんだよ。んでどうした? 最近学校で寝てるようだが、深夜付けでエロゲやるのは止めとけって以前忠告したよな?」


「やってないっすよ! 何で俺がエロゲにやってる前提なんすか」


 そもそも俺まだ十五歳なんだけど……。教師が十八禁勧めるのは間違ってる。

だが目の前の教師にそんな常識は通用しない。


「は? お前舐めてんのか? 前にゆ〇ソフトの新作勧めただろうーが」


「逆ギレしないで下さいよ……。つか生徒にエロゲ勧める教師とか聞いたことないし。先生は三次元に彼女とか居ないんすか?」


「あ? お前喧嘩売ってんの?」


 目が怖かった。先生やっぱり彼女いないんだ、可哀想……。まぁ俺も居ないけどさ。


「やっぱりそうなんすね。まぁ二次元にどっぷり漬かっている時点で察していましたけど」


 デスクにある美少女フィギュアを眺めながら俺はそう口にした。


「ったく最近のガキは生意気だな。んで立花、最近忙しいのか? またイラストの仕事か?」


「なんだ、気付いてたんすか」


 実は、俺は学生でありながらイラストレーターという職業に就いている。元々SNS上で絵をアップして活動していたのだが、それがとある作家さんの目に留まって最近本格的にデビューしたのだ。因みにこの事はクラスメイトの誰も知らない。認知しているのは目の前の担任、塚センだけである。


「勘には自信があるんだよ。んで何のイラストやってんだ?」


「えーと、ラノベの挿絵です」


「おおマジか、因みにタイトルは?」


「『追放された元ブラック企業社畜戦士の俺、退職後にSSRホワイト企業に拾われ覚醒する~株価が大暴落、今更戻ってきて欲しいと言われても、もう遅い』……ってタイトルっす」


「つまんなそ」


「マジトーンとか酷いっすね」


 聞いといてその反応は酷くないか? まぁ先生は萌えラノベにしか興味無さそうだからしょうがないか……。

 俺が挿絵を担当することになった最近流行っている追放系ラノベ。俺自身も色々なラノベを読むけれど、この手の作品も割と好きだ。まぁ何だかんだでこの作品、第一巻が三月末に発売した後、僅か三日で重版するぐらいには売れているらしい。

 担当編集さんも喜んでいたし、俺のデビュー作としては上々な滑り出しだと思う。


「立花お前、エロは書かないのか? そっちの方が安定して儲かるんじゃねーの?」


「一理ありますけど、いずれ大きい仕事するときにエロ書いていると足枷になる可能性もあるからなぁ……場合によってはそういうの気にする人も居るらしいし」


 最終的に自分がどうなっていたいのか何て具体的な展望は無いけれど、今は適当にラノベの挿絵を書いたり、同人活動が出来ればいいと思ってる。


「んだよ、つまんねぇな。俺にエチエチなイラスト書いてくれよ。そしたらお前が売れっ子になった時にコイツは俺が育てたって自慢するからよぉ」


「偶然担任の教師になっただけなのに恩着せがましいっすね」


 多分この先生は俺がイラストレーターだから珍しく気に掛けているのだろう。

 まぁ俺のクソみたいな授業態度のせいで迷惑かけているのは悪いと思っている。


「まぁ今のは軽い冗談よ。んでお前、ここに何しに来たの?」


「塚センが呼んだんでしょ……」


「あーそうだったな。一応体裁だけでも説教しとかないとな。あの腐れ女教師には立花は大変反省していましたって報告しておく。来週からはバレないように寝ろよ」

「寝ていいのかよ……そこは真面目に授業受けろって言った方がいいんじゃないですか?」


 これはあれか? 遠回しに俺の身体を心配してくれているのか?

 何だよ先生……少しはいいところあるじゃねぇか。素直じゃない先生……。

 

「うるせーバーカ。家のパソコンの画面内でももこちゃんが待ってんだ。だから俺はサッサと仕事終わらせて定時で帰らんといかんのよ。これ以上お前にお説教してる暇はねぇ、さぁ帰った帰った」


 そう言いながら先生がこの場から去るように手でシッシと仕草をする。。

 やっぱりこの教師ダメだ。こんなの大人って認めたくない。


「はぁ……分かりましたよ。つかももこちゃんって絶対エロゲのキャラだろ……」


 俺がそう言うと、塚センが俺の肩に腕を伸ばしてきた。


「説教代わりに、最後にいい事教えてやる」


「何すか」


「JKのおっぱいを合法的に揉めるのは……今だけだぞ」


 ふと笑みを零しながら塚センが俺の耳元でそう呟いた。

 発言がアウト過ぎるだろ……。女子生徒に聞かれたらセクハラで訴えられるぞ。

 まぁ確かに先生の歳だと女子高生に手を出したら犯罪だ。でも俺の歳ならセーフなんだよな……って、何俺は考えてるんだ。そもそも相手がいないだろうが。

 俺は無駄思考と塚センの腕を振り切って、職員室を後にすることにした。

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