1話 いつも彼はひとりぼっち

 春から桜ヶ丘高等学校に通う事になり、早くも一か月が経過した。


 五月の中旬、先週にゴールデンウイークが明けて、地獄の登校生活が始まった故に俺こと立花晴彦たちばなはるひこの気分は最高に憂鬱であった。今日は金曜日、つまり明日は休みである。

 

 ホームルームが始まる前の苦痛なこの時間、どうにかこうにか気分をあげるために俺はワイヤレスイヤホンを耳につける。しかしながら教室内の会話を遮断するには十分ではなかったらしい。


 隣では陽キャラ集団が和気藹々と会話に花を咲かせていた。一人の男が大袈裟にリアクションを取ると、その場がドッと盛り上がる。……くだらねぇ。


 朝っぱらから発情してんじゃねーよ、馬鹿でかい声出してリア充気取りか? お? 

 俺は内心でクラスのトップカーストに立つ四人組に向かって毒づいた。


 一年生にしてバスケ部レギュラー兼クラスの委員長と一年生にして野球部レギュラー、騒がしい軽音楽部の野郎にクラスメイトの男子達から天使と揶揄されている美少女が一人。全く……肩書だけでお腹一杯なメンツである。

 

 如何やら学校のスクールカーストというものは未だに存在して居るらしい。

 漫画やラノベでの知識だが、ピラミッドの上に立つものが偉いんだとさ。


 ほぼ死語であるが、俗に言う『リア充』の代表格が彼等のような人種なのだろう。

 まぁ別にリア充とか非リア充とか心底どうでもいい。


 何故なら俺はスクールカーストだなんて下らない枠組み囚われない『孤高』であるからだ。孤高というのは人間関係という鎖に縛られない自由に空を飛ぶ鳥のようなもの。

 それが俺の唯一のアイデンティティである。


 お察しのように俺に親しい友人はいない。勘違いしないで欲しいが、敢えて友達作りをしなかっただけだからな。それもすべて孤高を貫くためのプロセスに過ぎない。

 まぁ俺の事はどうでもいい。


 それにしてもあの四人組のリア充はやはり、これから放課後に制服デートをしたり、夏休みには海に行ったり、浴衣姿で花火大会に行ったり、クリスマスデートをしたりするのだろうか? ……なんか腹立ってきたな、やっぱりリア充は死するべき。


 やはり他者を無視して孤高を貫くのは存外難しい。だが俺は自分の道を貫いて見せる。

 青春ど真ん中みたいな空気醸し出しているリア充なんてクソ喰らえ。

 教室の隅で常日頃からルサンチマン抱いている俺が本物かつ正義である事を証明して見せる。一人で過ごす青春だって肯定されるべきなのだ。


 他人に依存せずとも現実は充実すると俺は信じている。

 そして、孤高こそ至高であると……。

今日も今日とてそう結論付けた俺は朝のHRが始まるまで間仮眠を取ることにした。


                  1 


「……きろ! ……花」

 んだよ、うるせぇな……。

「起きろ、立花!」


「痛っ!」


 頭に衝撃が走ったので、俺は反射的に声を出して起き上がる。何なんだよ……。

 ……。あー授業中だったのか、うっかり意識を飛ばしてしまった。


 辺りを見渡すと、クラスメイト達が腫れ物を見るかのような視線を送ってくる。

 わーい人気者だぁ……なんて俺が開き直っていると、目の前に鬼の形相で睨み付けている女教師が居た。やー顔怖いよ? もっとスマイル……スマイル……。


「私の授業を睡眠に使うとはいい度胸だな……。しかもこれで三回連続だ。治る気配もないし、キッチリ担任に報告しておくからな」


 鬼女教師と呼び声の高いオバハンが随分とキレ散らかしていた。

 そんな怒るなって。寝る子は育つって言うじゃん、睡眠学習してたんすよ俺は。

 なんて俺の心の声が届くはずもなく、程なくして授業は再開された。


 ……にしてもかなりの時間寝たはずなのに、まだ眠いんですけど……。

 最近色々あって家での睡眠が足りていない。次の授業は保健室にエスケープするか。

 そんな事を考えながら俺はぼうっと授業を受けることした。

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