第6話『奇跡の正体』


「何だ?」

「とりあえず様子を見に行ってみましょう!」


 男は風をめくるように大幅でその場所へと急ぐ。

 そこには先程キャンプへと招待してくれた女が、およそその体躯からは想像も付かぬ膂力で空ろな人共を破壊していた。


 叩きつけられた空ろな人は苦しそうに悶え頭からドロドロとした黒血を垂れ流しながら地面へ何度も打ちつけられている。それを眺め、しかし呆然とくうを見つめている人共。無関心である。


 女は波紋なき水面の様な瞳のままであった。


「どどどど、どうしたんですかいったい!」


 後から来た犬が追い付く。


「見ろ、あれが『奇跡』とやらの正体だ。真実など知るべきものではないのだろう」


「助けなくていいんですか!」


「あれらが助けてくれと宣ったのか?助けることが救いになるとも限らない」


 男はどことなく、俯瞰的に言を発する。

「それに俺があれらを助ける意義などない。助けたところで一体何を得られると言うのだろうか」


 そう説いている内に、目の前にいる人共は次々と破壊され、破壊し尽くされた。そしてこちらを向く。女の瞳は、揺らがない。


「あの人こっちめっちゃ見てますよ!こっち来ちゃいますよ!」


 犬がキャンキャンと鳴き喚く。


「襲われると言うのであれば選択は二つしかないだろう、逃げるか、応戦するかだ」


 男の右腕が閃光の下に青白く光り変形している最中、若草を勢いよく踏みつけ不気味に近付いてくる。


 照準プログラムを起動し、右腕から発射される砲撃を確実に定め発射する。


 砲撃は大気を揺らし重く地鳴り、女の体躯の殆どを空間ごと円形に呑み込んだ。


 軽く渇いた音が鳴る。主を失った手首と膝より上無き足が地へと落ちる。


 犬は呆然と眺めることしか出来ないでいた。空ろな人共の残骸を微かに視界の奥に映しながら。


「ここにもう要はない。幽世へと繋がる大脳はどこにあるのだ」


「ルートですぅ〜!しかしこの方は一体なんだったんでしょうかねえ」


 犬はそう言いながら図々しくも男の肩に乗る。


「最も人間でないものが、最も人間であったのは皮肉なものだな」


「…‥‥。」


「ルートよ、大脳の在処の見当は付いているのか?」


「はい!もちろんですとも!この世界に先祖帰りした時に発信源の特定は出来ていました!」


 半ば疑う様に返す。

「そんなことが容易に出来るのであればもうとうに大脳なぞ破壊されているだろう」


「ですからそれは容易ではないということなのですよ!ふふーん」


 ルートは誇らしげに、そして続ける。


「大脳は『16区』の地下のラボに存在しているようです!」


「16区か、それならば一度行ったことがある。飛ぶぞ」


 男の足から熱が帯び陽炎が発生する。そして背部からは無数の刃が露出し、それらが羽の体をなし翼が組まれていく。


「はーい!」

 ルートは肩に強くしがみついた。

 足に力を込め空を切る様に高く飛び、男は16区へと飛んだ。


つづく

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