第5話『老人の大脳』
「だが先程も言った様に
「はい、実は幽世の造物主である『ヴィッパー』という老人の電脳である『大脳』が今も存在していることが確認されています。それが私達の住む幽世とあなたの住む現世を繋ぐ唯一つの媒介となる筈です」
『大脳』と呼ばれるそれは古代よりも遥か彼方で流行していたVRMMOと言う娯楽の上位互換『
「しかし、その媒介は大戦の小人共による叛逆により全て破壊された筈、それが1つだけ残って居るのだとすれば探すのは困難であるだろうし、何故幽世で門が封鎖されていないのか疑問が残るな」
「はい、ヴィッパーの大脳が今も存在しているという根拠は私がこの世界に転移出来ていることこそがその証明となります。そしてそれは幽世内でも同じことなのです」
「ほう」
「第五次世界大戦で叛逆した小人の一派は『アテの影共』と言われています。アテの影共を構成していた隊は四つあり、その内の隊長の一柱である『鴉の女神』が大戦後の幽世内で法を説き、人を導き、救い、そして現世との繋がりを守って下さっている言い伝えが今も残っているのです‥‥」
つらつらと説明を続けていた犬はそこで下を向き言葉が詰まる。先ほどの様に言葉を失うのではなく、詰まっているのだ。
「どうした?」
「はい、しかしその鴉の女神様と私達の先祖達は、アテの影共の1柱、『黒霧』の属す国家である『氷の方舟』の侵攻を終に止めることは叶わずに殉教してしまったのです」
「死んだのに媒介は残っているのか?」
「はい、そこはその、私も詳しくは分からないのですが女神様の聖遺物は今も幽世の僻地である
犬も全貌を把握しきれていないのか、しどろもどろに述べ、続けた。
「なんと言いますかその、女神様の聖遺物自体が現世との媒介になっている。と言うかその」
詰まっている犬に要点だけを抽出する為に質問をする。
「何が因子となってお前らはこの世に転移し先祖帰りが起きるのだ?」
「はい、その『祈る』のです」
「はぁ」
男は呆れる訳でもなく未知たる風習をただ飲み込む様に漏らした。
「ですから私達はそれを奇跡と呼び、また女神の恩寵であると信仰していたのです」
2人の下に、人形の肢体が容易に砕けたと認識出来るほどの打撃音が響き渡り、パブリックスペースで佇んでいた空ろな人共が断末魔の奇声を上げた。
「何だ?」
つづく
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