■Episode05:空っぽな心を抱えて、独り

動画を見たあの日から、数日後。ノウェアはとある部屋で家探しに耽っていた。


そこは以前、あの記録メディアが落ちていた部屋だった。



かつては物置として利用されていたのか、

ノウェアを見下ろすような高さの棚が、広い部屋の中に所狭しと並べられている。


そんな部屋の中で彼女は、

目についた物を見つけては拾い上げ、またしばらく歩き回って拾い上げ……という行動を繰り返していた。


あの日、イヴの部屋で動画を見て以来……ノウェアの心の中で、何かが変わった。

あの映像に収められていた、人々の幸福……

ノウェアの心は過去の光景に捕らわれたまま、離れなくなってしまっていたのだ。


そして対象的に、目に映るもの、自分の周囲に広がるもの……

それら全てが、空虚なもののように感じられるようになってしまっていた。


大好きなイヴと話しても……マザーの指示に従って勉強や読書に耽ったとしても、

この気持ちを満たすことはできない。ノウェアの中には、そんな確信があった。


その気持ちを抱くようになってから、毎日通い詰めていたイヴの部屋にも足が遠のいてしまっていた。



イヴに孤独を味わわせてしまっていることに申し訳無さを感じながらも、

彼女の部屋の、ドアを開くことができずにいた。


足を悪くしているイヴは自由に歩くことができない。

自分から赴かない限りは、彼女と顔を合わせることはない。

今のノウェアにとっては、そんな状況がありがたく感じられた。



「これは……ダメか。もう壊れてるみたい……」

ノウェアが目的としているものは、過去の情報だ。

ノウェアの知らない、遥か遠い過去の記録……それを見つけられれば、この気持ちが紛れるような気がしていたのだ。


しかし、捜索は難航していた。

旧来の電子機器の殆どは時を経たことで故障、風化してしまったらしく、

先日の記録メディアのように原型を留め、内部のデータまで無事という例には、未だ出会えずにいた。



「……やっぱり何かあるとしたら、あそこかなぁ」


ノウェアは前方斜め上、棚の最上段に視線を向けて、呟きを漏らした。

彼女の背丈では、そこに何があるか目にすることはできないし、思い切り背伸びをしたところで指先すら届かない。


しかし、下段の棚に足を掛け、

はしごを登る要領で身体を持ち上げていけば、届かないこともない……はずなのだ。


(怖いけど……目ぼしいところは全部探しちゃったし……やるしかないよね)

しばらく迷った後、ノウェアは意を決して棚を登り始める。


棚の立て付けを確認しながら、恐る恐る身体を持ち上げていく。

(あと少し……あと少しで……!)

もう間もなく、棚の最上段を目にすることができる……!


そう思った、矢先のことだった。


「え、あれ……これ、傾いてる……!?」


元から不安定な状態にあったのか、

ノウェアの重みに引っ張られるようにして、棚が傾き始めたのだ。


「やだ、うそ……待って……!」


異変に気づいた時にはもう手遅れで、

棚は充分な速度を得て、地面に向けて倒れ込もうとしていた。


「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」


ノウェアは襲い来る痛みや衝撃に恐怖し、身体を竦めて叫び声をあげた。

しかしその時、ノウェアは崩れ落ちる棚が立てる音に混じって――


「ノウェア様っっ!!」


聞き馴染みのある、ノウェアの心を落ち着かせてくれるあの声が……響いたような気がした。

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