■Episode04:今と昔、彼らと私
ノウェアの手のひらには、小型の直方体が載せられていた。
シルバーでメッキされた外装はところどころが剥げており、捨て置かれたまま長い時を経たことを示している。
「この類の機器を目にするのは、本当に久しぶりです。これは……記録メディアですね」
「記録めでぃあ? ……その中に、データが保存されてるってこと?」
「はい、その通りです。旧式なので、大した容量ではないはずです。保存されているのはせいぜい、テキストか写真……動画といったところでしょう」
「昔の人が残したものか……ふーん」
「スキャンして、中身を確認してもよろしいでしょうか?」
「うん、お願い!」
ノウェアの言葉に頷きを返すと、イヴは目をつむり、記録メディアを握りしめた。
「……どう? 何か分かった?」
そのまま十秒ほどの時が経過してからノウェアは、固まったままのイヴに声を掛ける。
「……中身は動画ですね。ビデオカメラによって撮影されたもののようです」
「動画……それって、私も観ることはできる?」
「え、あ……それは……はい」
「…………?」
この時ノウェアは、イヴの返答に微かな違和感を覚えた。
彼女にしては歯切れの悪い口調……この時ノウェアの目にはイヴが一瞬、言葉に迷ったように見えたのだ。
「室内の設備を通して映し出すことが可能です……ノウェア様もご覧になりますか?」
「うん、お願い」
「……承知しました。あちらの壁面に映し出しますので、少々お待ちください」
その言葉の直後、二人と対面している白い壁が明かりで照らされ、映像の再生が始まった。
間もなく、ノウェアの視線はその動画の模様に釘付けにされてしまった。
「人が……人がいっぱいだ……」
その映像にはノウェアがこれまで目にしたことが無いほど沢山の人々が映っていた。
「パーティーの模様を撮影した映像のようですね。飾り付けを見るに、クリスマスでしょうか……」
ノウェアの隣で、イヴが映し出された模様を解説する。
「クリスマスって確か……えっと、昔の行事だったっけ。マザーが勧めた本の中に、そんなことが書かれてた気がする……」
「聖人・キリストの誕生を祝う日のことですね。大人が子供にプレゼントを渡したり、ケーキや豪勢な料理を食べるなどして、パーティーを楽しみます。それから――」
隣ではイヴが解説を続けていたが、ノウェアの耳には届いていなかった。
彼女の興味はもう、壁に映し出された動画へと惹きつけられていた。
人の多さもさることながら、動画に収められている人々の様子もまた、ノウェアを驚かせていた。
その映像は端から端まで、溢れんばかりの笑顔と幸せで彩られていたのだ。
プレゼントの包みを持って駆け回る子供。グラスを片手に談笑する大人たち。
部屋の片隅でその様子を眺める老人。
この瞬間まで、ノウェアは知らなかったのだ。
愛する人に囲まれた暮らしが幸せであることを。
そして……独りきりで生きていくことが、心細くて寂しいということを。
こんな世界があるだなんて、知らなかった。
こんなに賑やかで、楽しげで……見ている人まで笑みを浮かべてしまうような、幸せな光景が存在しているだなんて。
それと同時にノウェアは、一つの事実を向き合うことを余儀なくされていた。
動画の中に映し出された、幸せな光景……。
それに比べて今の私は、私が生きているこの世界は……なんて、孤独なんだろう。
そう考えることを止めずには、いられなかったのだ。
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