第2話 選抜者とのコンタクト(下)

 <<命令が下る直前の強襲艇・コクピット>>


 あの国の探査船左舷後方にはキース隊長が乗る強襲艇がステルス状態で潜んでいる。そしてコックピットの窓外の向こうにはなんとなく船の形をした歪んだ空間が確認できた。ちなみにこの場所は月の裏側の宇宙空間だ。


 「あははこれが第4世代だってよホントこの国は笑わせてくれるわ、色々漏れ漏れじゃねーかよギリ第3世代って感じだわ」


 機甲歩兵隊長のキースがステルス状態を見て笑っていた。それもその筈で排出熱は漏れ船体振動は簡単に測定でき挙句の果てには放射性物質を撒き散らしているので、それらを測定し肉眼では歪んだ空間しか見えないが3D探査レーダーには探査船の姿がくっきりと現れていた。


 「聞こえるか?キース、作戦発動!”やり返せ”対象者はまだ転送室内のはずだ、エンジン失火を確認したらスキャンして座標を送る」

 「こちらキース了解!」


 そしてクリスから命令が飛んでくるとキースは手付きで、行動不能にするために使うミサイルの準備を始めコアに向けてロックを完了した。


「ミサイル発射!」


 ポチッとボタンを押すとズバババ!勢いよくエンジンコアに向け数十発の単芯型ミサイルが飛んでいくと船体に張り付き何もない空間に規則正しく並ぶ。


 副官「爆破いま!」


 コア付近に張り付いたミサイルが一瞬赤く光り、ボンボンボンと連続で爆発を繰り返す。しかしこれは序の口だったりする。間隔を置いて爆破させるのにはちゃんと意味があるのだろう・・。


 「ほらほら、もっと行くぞ」


 そして3度目の爆発が終わると同時に歪んだ空間から突如”船”が出現する。だがその窓には光源が見当たらずおまけにゆっくりと不規則な回転を始め見た目から判断すると間違いなく操縦不能のようだ。


 副官「メインエンジン失火、姿勢制御不能状態」


 流石にコア破壊によって探査船を航行不能にするのは駄目だ。そのため威力を低く調整された弾頭がコアを多方向から同時爆破することで、爆縮にも似た衝撃波が何度もコアを襲い強制的に振動を与え失火させたのだった。


 キース「諸君準備はいいか?」

 隊員「もちろんであります」


 そしてステルスモードの強襲艇内では奪還の名を受けた隊員3名が今まさに突入しようとしていた。


 Ai「敵船エンジン再起動まで残り15分」

 キース「それでは、サクッと直接転送室に乗り込んで制圧、対象者にマーキングそしてお土産をばらまいて撤収だ」

 隊員「応!」


 作戦行動時間は15分しか無い、しかしキースは慌てること無く時計を一瞥すると作戦の内容を再確認する。それを聞く隊員も余裕の表情を浮かべていた。


 「船内の重力は約半分だスーツの調整を怠るな銃はスタンモードで倒した後はバインド」


 話を終えたキースが徐ろに拳を突き出し親指を立てると、他の2人も同じように拳を付きつけ合わせ、同時にフェイスマスクのシールドがシュと閉まる。これで出発準備は完了だ


「Ai、転送だ!」

「イエス・マスター」


 そしてパワードスーツに身を包んだ突入隊員達は銃を構え、シュンと軽い音と共に3人がその場から消えた。


 ーー


 <<かの国の船内・転送室>>


 サバゲー場で消えた翔太は寸分の差で横取りされ”あの国”と言われる船の中に転送されていた。


 「うぁ、なんだここ?んん、なんか臭いなこの場所」


 翔太は一瞬のブラックアウト後、視野が戻り周りを見渡すと四畳半ほどの透明ケースの中に囚われている事に気付き、その中から見える風景と言っても無機質な壁が見えるだけで特に何もない。ただ床から微妙な振動が伝わりなんとも言えないすげた体臭のような香りが漂い、思わず手で口を覆ってしまう。


「誰だありゃ?ここは何処だ?変な制服着ているな・・」


 そして1拍の間を置き見慣れない緑色の軍服を着た二人が部屋に入ってくると、訝しげに翔太の様子を伺っていた。そのうち1人のハゲで中年の上官らしき男が指を指し何やら喚き散らし始める。


「おま%&’ま え’%%きき た &$#”$いこ とが&$」

「何言ってんだ?突然ヘンテコな場所に連れてこられいきなり話せってか!」


 マシンボイスで凄く聞き取りづらく何となくの日本語で語りかけてくることだけは理解できた。しかし途切れ途切れなので何を言っているのか分からない。


 「き  て こる か?」

 「訳わからん、マジむかつくわ。おい!まずお前が名を名乗れこのアフォが!」


 翔太はムカついた思わず声を大にして相手を睨みつつ文句を言い放つと、ソイツも同時に眉間にシワを寄せる。間違いなくご立腹のようだしかし銃を構えてないので今はまだ殺すつもりはないみたいだ。


「お ま エ は なん ののりょく ヲもてるの か?こ た え よ」

「はっ何?ちょっと何を言っているのかわからない。だからだれだよお前? ふざけるな バーカ!」


 ちゃんと日本語翻訳が出来てないのかそれとも装置の性能が悪いのか分からないが、無駄な時間だけが過ぎてしまい。苛つく翔太は思いっきり馬鹿にするような態度を取る。


「うがー!%$’”!&’5!$!ふざけるな殺すぞ

「ヤベ、顔が”茹でタコ”みたいに赤くなってきたわ、ヤベェ怒らせたかな?」


 流石に調子に乗り馬鹿にしたのが伝わったのか、士官の男は怒り狂い身振り手振りが大きくなり始め控えていた部下が慌てて宥めていた。まあとは言え状況が変わらないので翔太は翔太で不機嫌なままだ。


「と く しゅう ののりょく ヲ もて いるの だろそのの かくす な はなせ」

「人違いじゃ無いですかー、どちらにおかけですかー。聞いているのかなー?」


 翻訳している装置を調整したのか少しだけ意味がわかるようになってくる。しかし内容はハテナマークが連発するほど意味がわからない。なので翔太は肩を竦め良くわかんないよの態度を取りつつ適当に返答するが・・・。


「ふがー!(激おこ」

「あらら身振り手振りが激しくなってきた、さらに怒ったかな?」


 まあ一般人が軍人を馬鹿にすれば間違いなく怒りが噴火するのは間違いない。そいつは顔を真っ赤にして警棒を取り出すとブンブンと振り回し、下士官が制止しなければ間違いなく襲って来るだろう。そんなアホなやり取りをしていると突然ズン!と衝撃が走る。


「おお、どこかでなにか爆発したかな?」


 翔太は離れた場所で爆発で振動が伝わってきたと感じたが、距離があると感じ慌てることはなく静観していた。しかしこれは間違いなく何かしらの作戦行動が行われていると直感で感じていると、2回目の衝撃がドン!と走り船内の照明がパパッパっと点滅を始めてしまう。


「んっ2回目ということは攻撃か?わわ、この振動はまずくね?」


 そして間髪入れずに先程より強い衝撃がドドーンと伝わり、間違いなくこの船は狙われていると感じずにはいられなかった。そして遅れること数秒後いきなり照明が消えてしまい赤い非常灯に切り替わるとプゥー、プゥーと間抜けな警告音が響き渡る。


 士官「%$#’%’%’%$&!どうした何が有った警備兵を呼べ!


 茹でタコが慌てて叫びまくり下士官らしき男を怒鳴り散らしているが、翔太には全く意味がわからない。そんなやり取りを見ていると後方のスライドドアが開き武装した兵士2名が部屋に入ってくると、タコは翔太の方を指差して何か指示をしていた。


 士官「’&’$&%6!あいつを拘束だ

 翔太「あらら、これはまずくね?とりあえず面倒なことに巻き込まれたのは間違い無いみたいだなー・・はぁ〜」


 ため息を吐くと同時にシュンと軽い音と共に目の前が光り輝き、黒のスーツを纏った3人がいきなり現れた。そのうちの一人は肩に赤のラインが入っているので間違いなく上長だろう。


 キース「酷いな」


 侵入者がポツリと呟き徐に銃口を部屋の隅に向けバシュと銃声が響くとパッと透明の部屋がバラバラになり、そして事態は急展開する。


 「うわぁ、なんだありゃ?ああフラッシュバンだわ」


 透明な部屋が崩れ去っても翔太は慌てずに様子見をしたかったが頭に降って来た破片を避けるのに精一杯だった。現れたスーツ姿の3人はほぼ同時に何かを敵に向かって投げつけていた。


「そろそろだな」


 翔太はそれが何か知っているのかしゃがむと頭を低くして目を瞑り手で耳をふさぐ。そして数秒も経たずしてバカン!バカン!バカン!と耳を劈く爆発音と目を塞いでいても目の前が真っ白に見える程の閃光が走った。


 「ウヒョー久しぶりだー、たのし〜」


 翔太は経験者なのかフラッシュバンの嵐を逆に楽しんでいた。間髪入れずにパパパパパと発射音が響きヒュン、ヒュン、ヒュンと軽快に何かが飛ぶ音が聞こえてくる。


 兵士A「うぉ」

 兵士B「ぎゃ!」


 ゆっくり目を開けると撃たれたであろう兵士がその場に立ちすくんでいる。よく見ると細い紐のような物が巻かれてありどうもそれは非殺のようだ。


「凄いな、あれで拘束できるんだ」


 怒る狂っていたハゲタコは床に倒れ痺れているのか目だけがギョロギョロ動き不満を表し悔しそうだけど、僅か30秒も経たずしてこの有様なのでお前ら間抜けとしか言いようがない。


&’$”#$%何をしている殺せ

$%&駄目です


 そして黒スーツの1人がドアに何か投げつけると隙間に張り付き金属が真っ赤に溶け出しそのまま固まる。簡単な溶接の様なものだろうか、こうなれば表から全体を焼き切らない限り開閉する事は出来ないだろう。


 キース「安全確保よし要救助者確認」


 日本語で喋るその黒スーツの男はカツカツと金属質が響くブーツ音を立てて翔太に近づいてくる。


 「ヤッベこちらに向かって歩いてきたよ」

「悪いな説明は後だ、安全な所、まで移動する少し、の我慢してい、ただく事になる良いかな?」


 その男の喋る日本語はアクセントが微妙に変だが理解できる。


 「ああ、好きにしてくれ」


 俺は肩をすくめ”お好きにどうぞ”とジェスチャーをすると、黒スーツの頭がチョットだけ上に向く。


 「あいつは絶対ニヤッとしたぞ、うん間違いない」


 そしてその男は「保護シートとマーカー、周辺警戒よろしく」と言い放つと、何やら腰にぶら下げているパックからICチップのように小さな破片を取り出し辺りに放り投げると腕のスイッチを弄りだした。


「隊長、増援のようです」


 他の隊員が言うようにドンドンとドアを激しく叩く音がする。間違いなく異変を感じた艦橋が送った増援だろう。


「大丈夫だ、任せろ」


 ヨシ!と返事をした隊員の1人がP90に似た銃をドアに向かって構え、もう一人が俺に向かってカードのような物をむけると。シュッと音がして肩の辺りに小さなシールのような物が付着する。そして腕のスイッチを弄ると手首の間から透明な幕が飛び出て一瞬で覆われてしまう。


 「おお何だこれ、プニュプニュしてるぞ」


 気がつけば翔太の全身はゲル状の透明の分厚い膜に覆われていた。これは銃撃されても大丈夫なように防弾チョッキの代替品のような物だろう。因みに呼吸は普通にできるとても優れものだ。


「キース隊長、撤収の時間です」


 部下らしき男が時計を確認するとそろそろ戻らないとヤバい時間なのだろう。その証拠にシュバババとドアを焼き切る音が響き、一部が真っ赤に変色していた。


「それでは後ほどお会いしましょう」

「うわぁ!」


 3人は慌てることもなく翔太の様子を伺いつつ敬礼をするとその瞬間またブラックアウトしてしまう。やれやれ次は何処かな?

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