第3話 ヒャンド国側。

 <<かの国の探査艦・翔太転送前の艦橋>>


 艦橋の一番奥手にあるキャプテンシートにだらりと座り作戦用モニターを見つめる”剥げちびデブ”の三拍子が揃ったおっさんの名前はハンク艦長だ。よせばいいのに頭頂部の禿を隠す為にバーコードのような髪型をしている。見るからにtheおっちゃんだ。


「ゲフフ、あちらさんの探している奴は誰かなー誰かなー、くふふぅ~アー楽ちん楽ちん、探査用シーカー追尾してりゃ世話無いわー」


 ニヤニヤしながら独り言を呟くハンクは追跡用モニターを見ながらゲスな笑いをしつつクリス達のシーカーを追尾中だ。


 副長「このまま追跡します」

「おい、副長!中継用シーカーが位置補正始めたら、彼方さんの行動開始の合図だ、シーカーが同時に対象者を2個追尾し始めたら三角測定して割り出せ」


 初めから対象者を横取りする気満々でニヤケ顔が止まらない。クリスが言う通り努力を嫌う民族なのだろうか・・。


「ハッキングとジャミング攻撃の準備だ!」

「了解!」

「ぎゃはは~楽ちん楽ち~ん!そろそろだろーまだかなー、んじゃそろそろ追い込み開始しますかねー」


 このような思考をする指揮官は努力不足で目の前で起きている事だけに対応するのが得意なタイプだろう。他国のシーカーを追い邪魔すれば反撃される可能性が高いと考え、それを予測して慎重に行動するのが普通だ。


 観測手「付近に艦影ありません」

 ハンク「何かあったら報告しなさい.。楽しみの邪魔をするなよ俺たちのステルスは探知できないぞ」


 観測手の定期連絡を邪魔だと文句を言う艦長なんて失格だし論外だ。多分こんな奴は不測の事態になれば一瞬で慌てふためくだろうし、言葉から推測すると自分たちが優位と勘違いしていたりする。


 情報武官「艦長、そろそろ仕掛けますか」

 ハンク「だな、転送用シーカーをあいつらのシーカー背後に転送しろ、これで揺さぶりをかけるとするか」


 とりあえず階級の高い情報士官ですら分捕ってしまえばいいやくらいの考えだろう。何とも士気というか志の低い軍隊だと分ってしまう。


 技術士官「相手シーカーが対象者から距離を置きました。これでは特定できません」

 ハンク「二人の内どちらかだ見失うなよ。チャンスは絶対来るからな」


 クリスたちが連中のシーカーを発見して距離を置いた時で、両者ともギリギリの選択を迫られていた。とは言えコイツラには正義など全く無いけどね・・。


「中継用シーカーに動き有り」

「おい野郎どもそろそろ始まるぞ!ロックオンした奴を転送だ。ほれ妨害準備しろ」

「艦長、相手シーカー、ロック信号感知」


 丁度クリスが対象者に向けてロックオンを始めた頃だ。しかし最初から横取りする事を念頭に置いて行動しているので対応は早くほんの数秒差で負けていた・・。


 ハンク「ほれほれ、やれやれ」

 戦術技官「ECM攻撃開始、ジャミング装置起動」

 技術士官「転送用シーカー起動、ロック完了!長距離強制転送します!」


 ※電子妨害や電子攻撃の略称で要するにハッキングによる攻撃。


 始めから妨害ありきで強制転送の準備までしているとなると流石のクリスも打つ手がないし、古木に対してロックオンは開始するもののシーカーの動きがジャミングによって不安定になっていた。


「きゃははー、分捕った分捕った。まだかなーまだかなー」

 副官「艦長、隔離ボックスに回収完了、転送終了しました」


 そして転送終了を知らせるブルーのランプが点灯するとハンクは小躍りして喜んでいた。


 「ぎひひー、これで昇進間違いなしだー!ほれ、ほれサッサと逃げるぞ~、もたもたするなー」

「は、はい急いでコア起動します」


 選抜者の能力など関係なく有能である筈と浅はかな考えに基づきこの男は行動し自分の昇進しか頭にないようだ。


「ジャンプはよ、ジャンプはよジャンプゥ〜」

 操縦士「んっ、振動が増えたかな」


 ニマニマと喜び小躍りしているこの”ブ男”に悲劇が訪れる。キースが放った短信ミサイルの爆発は船体に張り巡らされているシールドに守られ、最初はカタカタと小さな振動しか伝わらず誰も気に止めることはない。この時点で気がつけば出力を上げて対処できた筈だがエンジンの調整不足で振動が激しくAiすら感知できなかった・・。


 ハンク「んぁ?なんだ?」

 Ai「警告、外部より衝撃は確認」

 副官「外部からの攻撃うけ原因不明の衝撃波が襲ってきています」


 ズン!2回目の衝撃が響くと船体が大きく揺れ警報が鳴り響きチカチカと照明が不規則に点滅し始める。1回目の攻撃でシールドが用を足さなくなっているのだろう。


「なんなんだいったい、転送室に兵を向かわせろ」


 3回目は確実に馬鹿でもわかる程の衝撃が走り暗転、非常用照明に切り替わる。直後、エレベーターが下がる時に感じる「フワァ」とした浮遊感が襲う。


 ハンク「うわゎ〜わわわ」

 Ai「メインエンジン失火、予備電源に切り替えました」

 操縦士「艦長メインエンジン失火!、重力制御なくなります」


 ブリッジ内は突然のメインエンジン失火で蜂の巣をつついたように慌ただしくなるものの時は既に遅しだ。予備電源に切り替わったため重力制御が約半分になり足元が不安定になり、更に防衛用シールド喪失、探査レーダー停止、作戦モニターが落ちてしまい目を奪われ船内はパニック状態寸前だ。


「な、なな、何が起きたのだ。早く、原因を探せー」

「わかりません突然コアの周りで衝撃が走りエンジン停止しました」


 キースの的確な攻撃は予想通り混乱に陥り状況はどんどん悪くなっていく。このまま対策しなければ漂流してしまうのは必然だ。


 ハンク「相手の探査船はどうした、前方にいた筈だが」

 レーダー手「レーダー使用不能で現在位置不明」

 技術士官「ステルスダウン、重力制御半分以下」


 報告は効きたくないものばかりだ。この探査艦は目を塞がれ何もできない状態に陥っている。普通なら原因を探し対処するのが普通だがその指示すらいまだ出せてない。


 ハンク「早く再起動しろ、速攻だ、やれ!とりあえずレーダーに予備電力を振り分けて探査しろ」

 操縦士「そんなこと言われても、失火した炉が安定するまで再起動出来ません」


 ここに来て艦長の経験不足が露呈する。エンジンが失火した場合の際の行動マニュアルすら読んでないのだろう。出した指示が全て拒否されてしまう。


「位置がわかったら構わず攻撃だ、対艦ミサイルは倉庫に隠してある倉庫口から直接撃ってブリッジで操作しろ、わかったか!」

「艦長、攻撃は星団法に引っかかります、探査船による対艦ミサイル使用は違反です」


何があっても証拠隠滅を図ろうとハンクは遂に強硬手段に出た。クリスの言いぶりからすると敵では無い筈だがこの男は自分の欲のためには何をやっても構わないと考える最低野郎だ。下士官から法律違反だと言われても従うつもりは微塵も無く逆に睨み返す始末だ。とは言え星団というからには数多くの生命体が存在して戦いに関して細かい法律が存在するらしい・・。


「こんな辺境じゃちょっとコアに被弾するだけで、あのスペックの船じゃ絶対帰ってこれない、当たれば大丈夫だバレない」

「艦長!」

「こちらの船の方が優秀だから絶対ばれない、大丈夫だやれ!(ここまでバレずにあの新型船のスペックも探査して手に入れたし、あとは相手が懸命に探した人材を横取りして連れ帰れば昇進間違いなしなのだから・・」


 しかしこの艦長は決められている事を無視してクリス達に攻撃を行う事を決める。横取りと言い法令無視をするこの連中はとんでもない奴らだ。


「わかりました、ミサイル発射準備!探査艦確認、ロックオンします」

「最後の最後にトラブったが、ここはどんな手を使っても乗り切らなければ」


 一番マズイのはステルス機能が停止して国籍、船名がバレる事だ。今回の事案は最悪対象者を送り返せば後に開かれる紛争裁判でのらりくらり誤魔化せる。しかし昇進がパーになるので確保した対象者は絶対渡すつもりがない。


 「おい副官、捕獲したやつは今どこにいるのだ?ささっと連れてこい」

「先ほど上級情報武官が尋問に向かいましたけど」

「クッソ政府の犬に手柄横取りされたら叶わんわ。誰か向かわせろ話をしたければ監禁室でやれと言え艦長命令だ」


古木が転送され士官とやり取りが行われ間も無くキースが乗り込んで来たタイミングだろう。これで救出されればハンクの昇進は無くなり、更に今回の騒動の責任を取らされること間違いなしだ。


 「艦長、ミサイル発射しました。えっ?相手の船が突如消えました!レーダー反応ありません」

「なんだとー!さがせー!そばにいるはずだー探せー!そんなはずはない、そんなはずはない、そんなはずはないあの船はスペック3の筈だ」


 クリスは後方から追跡して来たこいつらにフルスペック状態の性能を晒す訳はない。しかし今は緊急事態なので完全に性能を発揮させ敵の目を欺き接近して救助者を助けるつもりだろう。


 「艦長、転送室でトラブル発生」

「何者かが侵入したのち制圧された模様。現在部屋の中には我が軍の関係者しかいません」


無線が使えず転送室から遅れて報告が上がってくるが、もうすでにキースたちが大暴れして古木を保護して逃げた後だろう。そしてこの船の状況は良くなるどころか置き土産をばら撒いたので絶対悪くなる筈だ。


「被害は軽微、負傷者0、転送跡あり。言い難いですが強襲されて連れ去ったと思われます・・・」

「ぬぬぬ怒怒怒・・・・」


この時ハンクの頭の中では責任の擦り付けの理由を考えていたりする。その考えとは現場にいた武官に責任を追わせ降りかかる火の粉を払うつもりらしい。


「デルタ探査艦フォウルスター、依然消息不明!」

「昇進どころではないヘタすると懲罰だ~」


クリスが所属している国はどうやらデルタ王国で間違いないだろう。とは言え地球にはそのような国名は存在しないので、これによって地球外生命体で間違いない。それとキースがばら撒いたお土産の効果があらわれ始める事になる・・。


「艦長!」

「今度はなんだー」

「コアに亀裂発生、共振止まりませーん」

「艦長!厨房より出火」

「艦長!シーカーがシーカーが制御不能で大気圏突入しました〜」

「艦長!操縦不能!スピン開始しましたー」

「艦長!戦術ネットワークがネットワークがウイルス汚染されました〜」

「うっ、うぎゃー」

「艦長!射出した対艦ミサイルが此方に向かってきまーす」

「し、し、しし信管不活化しろ、しずむー!当たったら沈む沈むー!ぶぎゃー」

「艦長!艦内ネットワークがウイルス汚染!」

「艦長!電圧低下により重力維持できません!」

「艦長!倉庫内荷崩れ発生!けが人多数、艦内各所で怪我人多数発生」

「艦長!生命維持装置が・・・装置が・・・・」

「艦長!。。。。。。」

「艦長!。。。。。」

「艦長!。。。。」

「艦長!。。。」

「。。。。。」

「。。」

「。」

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