第4話 クリス少佐。

 <<探査船フォウルスター転送室内>>


 ヒューンと甲高い音と共に光の粒子が現れ数秒後には透明なシーツに包まれた物体が転送され、それは横たわり中身はもちろん保護された古木だ。


「クリス艦長入りまーす」

「早速、挨拶でもしないとな」


 転送室に入ってきたクリス艦長はすぐさま透明な物体に向かって薙ぎ払うような仕草をすると真ん中からパッカと割れ、本日2度目の転送を経験した男が横たわり申し訳無さそうに覗き込むと、ジト目の古木はやれやれの表情をしていたよ。


「探査船フォウルスター艦長のクリス少佐と申します、古木さん今回色々大変な思いさせて申し訳ない」

「はぁ・・」


 古木は今回起きた顛末について文句の一言でも言いたかったが、先に謝罪の言葉を頂いたので矛先を収め、クリスと名乗る男は以外に冷静沈着で司令官ならではの威厳を感じ事を荒立てようとは思わなかった。


「シャワーでも浴びて一息入れてくれ、それから全ての顛末を説明した後、同じ場所に私が責任を持って送り届ける」

「それではクリス艦長、お言葉に甘えて汗を流します」


 快諾すると後はグラン君の指示に従ってくれというと踵を返し部屋を颯爽と出ていった。そして副長の彼に案内されシャワー室に入ることになるが、見た目がもろコールドスリープ装置のようにSFチックで古木はワクワクしながら説明を聞くことに。


「だが文字が読めん!うん、全く読めない!なにこれ珍1@0景?意味わからん」


 グランに案内されシャワー室に入り衣類は高速ランドリーに入れてくれと言われたが全く文字が読めず、例えるならアラビヤ文字と漢字を足して2で割ったような奇怪な文字が並び理解不能だ。まあイラストが表示してあったので何となく意味を理解し服をその機械に入れ、シャワーだと言われたカプセルの中に入る。


「うっわ〜、いきなり泡が出てきたよ、これ全自動なんだな(汗」


 全方向から霧状の泡が吹きつけられあっという間に雪だるま状態に。シャワーと言ったが全自動洗濯機に詰め込まれた気分にしかならない。だが仕方ないないのでそのまま身を任せると10分ほどで乾燥まで終わり、今まで匂ったことのない清々しい香りに包まれる。


 「それでは、艦長室にご案内します」


 次に向かったのはクリス専用の艦長室らしくエレベーターに乗り上に向かっていく感覚を感じ、扉が開くとそこは既に部屋の内部だった。グランはこれといって操作することはなかったが何かしらの装置で操作しているのだろう。


 <<艦長室>>


 「どうだった最新式は面白いだろう。洗浄から乾燥まで完全自動で探査船専用シャワーなんだよ」

「まあ確かに、面白かったですよ」


 このクリスという男は凄くフレンドリーだ。見た目は外国人風で金髪、中々の美男子に見えるかれはどっかりとソファーに座り古木を手招きしていた。


「改めて自己紹介しよう、カラミティ連邦艦隊所属、デルタ軍探査船フォウルスター艦長クリス・クイン少佐と申します」

「私は古木翔太、普通の一般人です」


 クリスは立ち上がり自己紹介をするが、よくよく考えてみれば彼は異星人だ。しかし”のどが渇いただろ”と差し出されたのは間違いなく缶ビールのようなもので、すでに古木の好みを理解しているのかわからないが、取り敢えず彼も同じものを手に取り乾杯をするつもりだろう。


「今回、騒動に巻き込んで本当にすまない、先ほど説明した通り事の顛末を説明する、その前に乾杯しましょう」

「あはは、地球人ガノンでも大丈夫ですか」

「もちろんだ、味は保証するよ」


 地球の缶ビールとはプルタブの形は違うが手前に引くとプシュッ音がして、まんま同じだ。そして一口飲むと風味も苦みも何ら変わらない麦酒だったよ。


 「はぁ〜、美味い。バドの味バドワイザーと変わらんな」

 「まぁそうだろ、味をそのまま真似ているからね。本国でも大人気だ」


 軽く真似して本国で大好評というのであれば、ずいぶん昔から地球に訪れていたと裏返しで読める。もしや俺の経歴を知ってリクルートしたのかと一瞬思考を巡らす古木だった。


「それで、君が最初に遭遇したのは”ヒャンド共和国”宇宙軍の軍人達だ、あんなんでも一応自分たちと同じ連邦に所属している」

「あの対応を見れば自ずと仲間とわかりますけどね」

「君は冷静に対処したそうじゃないか、珍しく強面キースが褒めているな(笑」


 助けに入った黒スーツの男から報告が上がっているのだろう。タブレットを開きながらクリスは古木の行動履歴を見て感心していた。そしてそのまま今回の騒動について説明をしてくれることになった。


「有能な人材を求め地球を調査し君にコンタクトを取ろうと思った矢先、騒動が起きてしまった。本当にすまなかった」

「いや別に楽しかったですよ、楽しかったし」


 取り敢えず、ヒャンドという民度の低い国が存在することがわかった。となればどのような星に住んでいるのか気になるところだ。流れをわかっているのかクリスは自分達の星団のことを話し始める。


「現在の連邦は3星団3種族で構成されている。私たちの連邦はカラミティ星系、惑星デルトリアを本拠地としているデルタ王国といいます」


「へ〜、王国なんですね」


 話を進めると3星団と繋がりがあり人間以外の種族も存在し、王国の他に共和国、独裁国家など地球とほぼ変わらない。種族的な分類を聞きたいところだけど、クリスは先ず初めに今回の騒動に関しての感想を聞いてきた。


「古木君、今回の騒動は君の視点からどのように感じたかな?君の意見を聞いてみたい」

「簡単に説明すれば。いきなり拉致られ上から目線で尋問、速攻で救助されこの場にいる。自分を巡って2国が争ったと思いますが」


 当たり障りのない内容で表現するが簡潔に話したのが良かったのか、少し前のめりになりもう少し突っ込んだ話を聞きたそうな顔をする。


「もう少し詳しく頼む」

「書くのもいいですか」

「ああ、これを使ってくれ。このペンで入力できるから」


 渡されたのは何ら地球のタブレットと変わらない物だった。しかし細かい文字は相変わらず読めないが消しゴムマークだけは一緒だった。そして中心に自分の名前を書き丸で囲み、デルタ、王国、共和国、人材、横取りなど今回遭遇した事を周りに書き込むとそれを線でつなぐ。それを見ながら少し深く出来事について思考を巡らし文章化する。


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 1、最初に転送した共和国側は透明な部屋に入れられ軟禁状態、質問内容を精査すると能力の確認のみ。少なくとも”歓迎”はしていない。


 2、救出作戦直前に重力が軽くなった、普通に考えれば”宇宙船”の中?


 3、デルタの人材を横取りしたのが共和国、デルタは共和国を嫌っている。その証拠は横取りの事も視野に入れ救出作戦を実行


 4、現在の状況は艦長が友好的でと副官が同席しているこの船はかなり安全

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 今回のことを書き出してクリスに見せると最後の副官が同じ部屋で控えていることに凄く感心していた。


「古木さん、あなたは今回の騒動で我々異星人に対し、偏見や嫌悪感は無いのですか?物凄く冷静に私たちと接していますよね」

「無比ですね、一言でいうなら好奇心が勝っています。一番は普通に日本語が通じていて見た目もさほど変わらない事が大きいです」

「凄い胆力ですな、選んだことが無駄にならなさそうです。言葉を理解できるのはこの耳に装着しているモジュールのおかげです」


 ステルスで形を隠していたのか右耳にイヤフォン型でブルートゥースのマイクのような形をしている無線機が現れ、これは通称モジュール言うらしく副官はこれを操作して特別に古木をこの部屋に招いたのだろう。簡単に説明するとこの装置は脳と視覚神経と声帯に直接リンクして話した言葉を瞬時に解読、翻訳し直接声帯コントロールして日本語に聞こえるように発声するらしい。


「凄い技術ですね」

「そうなのですが・・・・便利すぎて・・・」

「機械に頼りすぎていると」


 古木は冷静に対処しているが目が飛び出るほどの技術ばかりでクリスのことが羨ましく思っていた。しかし実際はそうではないのか困惑の表情を浮かべる。今回の拉致事件もこの便利さが絡んでいるのだろう・・。


「実はその今回の騒動の発端はそこにありまして、考える力がAi技術の発展に伴い少しずつ奪われ、新しいものを生み出す力が弱まりました」

「あー、だから考え方の違う”風”を入れたいと」


 これだけ技術が進んでも結局のところ人間の発想力が必要だということだろう。この後クリスはAiを頼りすぎて直列思考が行き渡り、永きに渡り争いが絶えないと説明してくれる。それも200年も戦っているのだからご愁傷さまとしか言えない。だが彼は古木の発想力を欲しているようだった。


「艦長、そろそろお時間ですよ、これ以上は申請が面倒くさいです」

「なにか制限があるのですね、ということは帰れると」

「察しが良いですね、最初に転送した同じ場所、同じ時間にお送りします」


 副官が割り込み申請が面倒というのは時間跳躍に関してだろう。と言うことは厳しく管理され戦争には使えないらしい。まあ使ってしまえば200年も戦争はしないわな。そして古木は元の場所、元の時間に戻れるらしく艦長室を出ると最初に乗り込んだ転送室なる部屋に戻っていった。


 ーー


 <<転送室>>


「時間跳躍ですか、凄いですね」

「使用が厳しく制限されて色々大変なんです。見てくださいこの時空コアを使用します」


 クリスはタブレットを使い、その時空コアの写真を見せてくれたが単なる銀色の球体だが、中身はとんでもない技術が詰め込まれているのだろう。思いを馳せていると準備ができたのか赤いランプが点滅を始めた。


「古木さん、これから交渉に入っても構いませんか」

「もう少し詳しい話が聞きたいです」

「友好関係を築けると信じています。実は本筋の部分をまだお話ししていないのですが、大丈夫でしょうか」


 <<2秒後・・・>>


「うん、良いよ」

「はぅ、即答ですか?」


 古木は既に興味が先行してこのクリスたちが住む世界へと行ってみたくなっていた。なので即断するとあまりの短さに驚いてしまう。次回までに家族にも話をして説得するよと答えると先読みしすぎてポカンとしてたわ。


 「艦長、月の裏側までジャンプしました。同じ場所ですが時間に関しては30秒ほどズレると思います」

「古木さん、連絡用モジュールを送りますが時空転送は物品が送れないので2時間後くらいにガンケースの中に送りますね」


 クリスは連絡用のモジュールを見せてくれる。装着すれば多少違和感が発生すると思うけど勝手にガイダンスが流れるので時間があるときに試してみてくれと言われた。そして転送台と言われる所に立たされ地球に送り返される時間が近づいてくる。


「それではクリス艦長またあいましょう」

「承知しました、次回は早くて1ヶ月後ですね」

「ああ、時空コア使用の申請と説明回りですね」

「それ言わないで下さい。それではまた」


 クリスが別れ際に手を上げるとまた、シュン!ブラックアウトだよ。こうして古木は星団に協力することが決まった・・。

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