第5話 紹介。

 <<とあるサバゲー場>>


 突然、ふっわと風が急に吹きシュンと鋭い音が響き渡ると、透けていなくなったオッサンが戻って来た。


「あはは、パパおかえり」

「笑っているし、絶対こいつ俺より豪胆だわ」


 古木が息子の眼の前で消え、戻ってきたのはなんと数十秒後なので笑っていたのだろう。少しは慌てろよと叱り飛ばしたくなる


「じゃ、ベースに戻ってご飯食べよ」

「あーね」


 息子の洋介は何も聞く事なく昼食を食べた後は、午後のゲームに熱中して1日を終える・・。


 <<古木の自宅>>


「ホントに〜宇宙船に乗ったの〜」


 自宅に戻り家族に数時間前に起こった出来事を詳しく説明すると、妻の翔子は最初は取り合わなかったが、洋介がマヂ消えたと話し少し信じて貰えたようだ。


「なあ、必要とされているみたいだから行っても良いかな?」

「死ななきゃ良いよん」


 妻の翔子は至って普通の主婦なのだが、元々国際貢献の医療スタッフとして海外で働いた経験を持ち、そのため大概のことでは驚かない。今回も快く送り出してくれそうだ。


 新太「。。。。ん?」

 洋介「いきてー、俺も連れてけ!」


 長男の新太は話を聞いているようで聞いてなく無関心、一方の洋介は好奇心旺盛な奴で、異星人と会えると分かると俄然やる気を出していた。古木としては何ていうかこの反応は「普通の家庭じゃないな」と思いつつ、後はクリスに説明させればいいやと考える。


「そういえばモジュール試してみるか!」


 家族会議を終え、夕食までは自由行動だ。なので翔太はリビングでビール片手に渡されたモジュールを装着してみる。


「うっわ!気持ち悪いわこれ」


 渡されたモジュールをイヤホンと同じように装着してみると、ピクピクと目の周り、耳の中、とりあえず頭中を何かが這って広がるような感覚に見舞われ、途中ピリピリ痛みが走るがあまり痛くない。数秒後ピタリと動きが止まる。


 Ai<起動しますか?>


※ 画面を通して通信を行う際は「<>」のマークで表現します。


 いきなり目の前に異世界転生アルアルの中空画面が広がり<Yes/No>の表示が見え、無機質だけど可愛らしい音声が頭の中に響いた。


「選択肢はYESしか無いだろう」


 Yesと考えると目の前に半透明の羽をパタパタさせるちっちゃな妖精が現れ、和かな顔をするという事は感情も備わっているのだろう。


 「これは凄いな、意識すると半透明のモニターが現れるんだ・・」

<初めまして情報支援インターフェイス、フェアリーと申します>


 翔太は取敢えず頭の中で使い方を聞いてみると「メニューを選んで下さい、簡易版ですので色の薄い部分は使用できません」と日本語で言われ、何やら色々浮き出てくる。


「すげぇなこれ」


 通信、座標発信、検索、簡易スキャン、暗視モード、同時通訳、モジュール不可視化が現れ、色が薄く使えないのは戦闘支援、監視、警戒、遠隔照準、遠隔操作、メディカルスキャン、ステルス化などで要するに渡されたこれは体験版だ。


「通信ってさ、クリスと話せるの?」

<残念ながら圏外です>


 通信と考えると勝手にアイコンが表示されるものの<接続できる相手がいません>とだけ表示されてしまう。


「それじゃ会話!」

<ハイ、なんでしょう>


 ゆらゆらと端に揺れていた妖精が目の前に移動してくる。部屋の風景と同化しているので3Dバーチャルゴーグルで見える世界観に近い。


「モジュール不可視化ってなに?」

<はい、装着しているモジュールを視覚的に見えなくします>


 頭の中で会話すればスラスラと答えを出して来る。確かにこれじゃスマホの検索と同じで脳裏には残らないだろう。クリスの話していたことを少し理解できた。


「スキャンってなに?」

<簡易版なので、半径100Mの範囲を探索できます、感知出来るのは生物、武器、車両等です>


 制限解除したら暗殺などいとも簡単に出来る代物と分かった途端、古木は少し恐ろしくなり、翔子に風呂に入れと言われたのでシャットダウンしようかなと考える。


「ふーん、もういいや」

「ええー!!もうですか、まだ3分も経過していません」


 マジ疲れたと考えたらイヤンイヤンして反応するので構ってちゃんはもういいやと思うと、半透明の妖精の姿が徐々に消え始める。


「もう私の事、飽きたのねー」

「おやすみ、フェ」

「イヤー、そんな〜」


 とりま、腹も減ったし筋肉痛も出て来たので外して放置したわ。


 ーー


 <<月の裏側>>


 翔太と別れたクリスは行動不能に陥っているヒャンド船に気が付かれないよう、ステルス状態で観察していた。今の状況は極めて状態は悪いが唯一の救いは、月の引力に引か周回しているので地球からは観測されない点だ。


「艦橋に刺さっているミサイルはオブジェですか新装備ですかね」


 奴らは対艦ミサイルを撃ったのは良いがステルス化を行った探査船を見つけられず。迷走した後に艦橋に突き刺さっていた。下士官の問いにクリスは「アイツら厚顔だからな放置だ」と言い放ち、一応同盟国ですよと聞くと「馬鹿は放置だ」と強弁する。彼にとって余程嫌いな連中らしい。


「ですが星団法だと”救難信号”を発した船は助ける義務がありますよ」

「いつ出した?」

「まだですが」

「じゃ知らん」


 艦橋が破壊され復旧するまで信号を出せないと思うが、クリスは気にする事なくデルタに帰還すると命令を出すのだった。


<<艦長室>>


 命令を出したクリスは休憩のために艦長室へと入り椅子に腰掛けると、疲れが一気に出たのか急に眠気が襲いウトウトし始める。


<クリス、彼は必ずクーンに戻らなければいけない。是が非でも連れて帰れなければ成らないのだ>

「ンッ・・」


 クリスの近くに霧のようなモヤモヤとした固まりが現れ、睡眠学習ではないが古木の事を語り始める。彼には何か秘密が隠されているようだ・・。


 ーー


 時は流れ数週間後、古木はいつもの日常の中にいた。


 <<古木の自宅>>


「あー良いお湯だったわ、クー!最高!」


 腰に手を当て、首にはバスタオルの夏の定番、風呂上がりの発泡酒をゴクゴクと喉に流し込んでいる。すると突然、呼び鈴が鳴り玄関を開けるとそこにはクリスが立っていた。


「古木さん。モジュールは?」

「ほったらかし」


 筋肉痛に悩まされながら会社に向かい日常が戻ると、いつの間にかクリスの事を失念していた。頭をポリポリと掻きバツが悪そうな古木は取り敢えず家族の承諾を得るために集まって貰う・・。


「では本題に入りたいと思います」


 挨拶を終えたクリスは少し緊張した真剣な面持ちで皆と向かい合い、是が非にでも説得する構えを見せていた。そして任期と待遇に関しての話になり、契約期間は最低2年間でそれ以降は更新制、年俸に関しては地球の価値に換算して年3000万円程度、更に活躍すればボーナスも弾むという破格な待遇だ。


「翔が役に立つんですね、けど2年は長くありませんか」

「奥様、働いて貰う期間は2年間ですが、戻って来る時は数日後になります」


 時空コアとか言う代物を使い、任期が終了すれば2年前に送り返すということだろう。因みに翔子は人ごとだと思って「あらそれは良いわね」と勝手に承諾してしまう。次に報酬の話になり、紙幣などは用意できないが退職金として5キロ金塊と10ctのダイヤの原石を用意すると話す。


「あなた行って来ていいわよ(喜」

「こら、金とダイヤだろ(オコ」


 古木家は一応パワーカップル並みに稼ぎがあり何不自由無く暮らしている。しかし高額報酬の前に翔子は色めき立ち、もう行って良いよの態度を示し古木は頭を抱える始末だ。


「クリスさん進めて貰えますか、内容を聞いた上で判断しますね」

「わかりました。それでは説明いたします。この図を参考にしてください」


 主導権は完全に翔子に握られクリスは苦笑いしながら「どこの世界も似たような感じですね」と言いながら、テーブルの上に置いた装置を動かすと3D映像が空中に浮かび上がり、3つの星団とそれぞれに星の名前と国名が記されていた。


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 <<星団連合国>>

 <カラミティ星団>

 「惑星デルトリア・デルタ王国」

 「惑星クーン・クーン獣人精霊王国」


 <トレミー星団>

 「惑星ディーン・ヒャンド共和国」


 <<中立国>>

 <カラミティー星団>

 「惑星フォーレスト・フォーレスト王国(星団側」


 <トレミー星団>

 「惑星ステラ・ラインスラスト帝国(星団側」

 「クロウ星団」

 「惑星バルディ・フェデラリー共和国(反星団」

 「惑星ステファーノ・商業国家ブライン(完全中立」


 <<反連邦連合>>

 <クロウ星団>

 「惑星スレント・ディスティア帝国」

 「惑星アーウェイン・アーヴィン王国」

 「惑星メコン・カルネ共和国」


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 「カラミティ星団、クロウ星団、トレミー星団の3星団ありまして、反連合や中立国などが入り乱れている状態です」

 「なるほど・・」

 「スッゲー」

 「現在、この3星団の人間族、エルフ族、獣人族を巻き込み、数百年に渡り永きに渡って覇権争いが起きています」


 次にクリスが現状の説明に入り、星団連邦は独立権を認め植民地の禁止、従属の禁止を基本理念とし、多種多様の種族と共に歩み、反連邦は反の名の通りディスティアを基軸として植民地政策と人間至上主義を貫いているという。


「簡単に言うとディスティアが敵なんだね」

「はい、連邦政府の中心国家がデルタ王国、反連邦の中心国家はディスティア帝国となっております」


 続いて各国家に存在する人種の話になり一覧が表示され、一目みただけでありとあらゆる人種が入り乱れている事が理解できる。


 「デルタ王国・全て」

 「フォーレスト王国・全て」

 「クーン獣人精霊王国・全て」

 「ラインスラスト帝国・人間族・獣人族」

 「ヒャンド共和国・人間族」

 「フェデラリー共和国・人間・獣人族」

 「商業国家ブライン国・全て」

 「ディスティア帝国・人間族」

 「アーヴィン王国・人間・獣人族」

 「カルネ共和国・獣人族」


 因みに反星団側の属する獣人の国カルネはクーン精霊女王を崇拝しているものの、軍備の影響で植民地政策は取られてないとの追加説明があった。


「すごいな、近未来的なラノベの世界観だな」

「当たらずも遠からずですね、それでは次にエネルギーに関しての説明に入ります。我々が利用しているエナジーボールはフォーレストとクーンが主な生産国でディスティアにも供給しています」」


 シレッと話すクリスは間違いなく日本のラノベを読んでいるらしい。次に国家間で重要な意味があるエネルギーの話になり、エナジーボールなる単語が飛び出した。詳しく聞こうとするが詳細は着任してから教えると言われ。例えるなら原油と同じだと教えてくれる。


「フォーレスト王国は戦力を自衛のみしか保有しておらず、全ての国と不可侵条約を結び、その対価としてエナジーボールを生産供給しています」

「色々複雑に絡み合っているので覚えるのが大変だな」


 古木が愚痴をこぼすと待ってましたと言わんばかりに探査船内の睡眠プログラムを行い強制学習が出来ると述べ、到着する頃には歴史を含めデルタ語も習得できると胸を張って言われてしまう・・。


「強制的ですか、まあ面倒な歴史とかの勉強をわざわざしなくて済むわ(汗」

「そこで古木さんには作戦立案と常識に囚われない武器、艦船の設計などをお任せしたいのです」


 確かに武器や戦い方に関しては知識もあり、アニメも漫画も小説も好きだし発想力には自信がある。しかしなぜ選ばれたのかは疑問に残るがクリスには絶対的な自信があるのだろう切望する眼差しを向けられていた。


「期待されているし、チョット行ってくるね」

「死なないでね、あなた」

「古木さんが望まない限り戦場に行く事はありませんので安心してください」

「俺も行きたい」


 ここで洋介が名乗りを上げるが、星団法という法律で年1名と決められ、来年は農業従事者と決まっていると言われ意気消沈してしまう。


「残念だねよーさん」

「しょうがないね」


 次に出発の時期に関しての話し合いが持たれ出立は明後日と決まり、クリスは信じてもらうため特別に探査船に招待すると述べ、ここで話を聞いて無いと思われた新太が突然、俺も行くと言い出してしまう・・。


 クリス「それでは少々お待ちを、クリスだここにいる全員転送してくれ」

 通信士<了解しました>


 クリスはモジュールを使い、ステルス状態で静止軌道上に隠れている探査船と連絡を取り合っているのだろう。そして準備が整い数秒後には家族全員が転送室に全員立っていた。勿論、古木以外が大はしゃぎしていたのは言うまでもない。


 翔子「本当に宇宙船の中なんだね、すごーい」

 洋介「スッゲー、普通に地球が見えるわ」

 新太「おお、これはすごいな」


 見学コースが設定されているのか順を追って艦内を見て回ることになり、洋介が「武装は何がある」と質問すると、探査船なので殆ど装備されておらず、地盤破壊用のタングステン棒が一番強力だと笑って説明していた。最後に食堂に入るとアイスクリームが出され、同じ味付けで驚きつつ一向は自宅に戻り、探査船の話で盛り上がりながら夕食になるのだった。

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