第12話 船員募集と船作り。

 クーンから戻って来たアーレイは威圧が外に漏れると碌な事にならないと考えブラッドに弱めてと頼み、クリスに口止めをすると流石に話せないよと快諾してくれた。


 <<1週間後・傷病者専用病棟>>


 戻って来たアーレイはデルタ宇宙軍に正式に配属されたが艦隊勤務は望まない限り行くことはないと言われ、取り敢えず各施設の見学を行い今日は最後となる傷病者施設に来ている。


「こちらはリハビリ施設になります」


 職員に先導され施設に入ると数十名が懸命にトレーニングマシーンを使いリハビリを頑張っている。医者の許可が出れば退院できるので皆の表情は明るく活気に満ちていた。


「アーレイ少尉、お望みでしたら重病者施設をご覧になられますか」

「見せてくれるの」


 次に向かったのは寝たきりや、四肢がない者など、この世界の医療を持ってしても回復が望めない重病者が集まる施設だ。クリスに何度も本当に行くのかと問われるアーレイは何か考えがあるのか全く聞き入れる様子は無かった。


 「今から見学者が入ります」

 「・・・・」


 皆が集うホールに入った途端、重苦しい雰囲気が流れ、余所者が来ると分るとギラギラとした目付きで睨まれてしまう。彼らは戦いたくても何もできないことで心が荒み、それが嫌でも表に出ていた。


「悪いけど、マイク貸してくれないか」

「はぁ構いませんが挨拶でもされるのですか」


 アーレイは周りを一瞥するとマイクを手に取り緊張を解すためにゆっくりと深呼吸をする。そして・・。


「アーレイだ!俺と共に戦場で戦いたい奴はいるか?」

「こらアーレイ!何てことを言い出すんだ」


 慌ててクリスが止めに入ろうとするが、暗い表情で俯く兵士たちは悔しそうな表情を浮かべ黙り、アーレイは追い込むように「身体は動かなくても頭は有能な兵士なんだろ、ならなぜ戦わないお前ら戦士なんだろ」と煽りまくる。


「馬鹿野郎、この体で戦える訳ないだろ!」

「動けねーんだよ、ふざけんなどうやって戦うんだよ!」


 動けない傷病者たちの怒気がドッと溢れかえり雰囲気は最悪だ。しかしアーレイは「俺が手段を考える、やるかどうかはお前ら次第だ」と大見えを切る。


 「お前が何かしてくれるのか、乗れるなら乗るぞ俺は戦いたい!」

「乗せられるなら乗せてみやがれ(オコ」


 アーレイの売り言葉に反応して罵声が飛び交い一気に殺気立つが、皆動けないので怒気だけがひしひしと伝わってくる。


「ア、アーレイ少尉」

「おい、アーレイちゃんと説明しろ」


 職員はオロオロと狼狽え、クリスはしかめっ面でこの馬鹿とか言い放つ。それだけ触れてはいけない禁忌らしく凄い剣幕だ。しかしアーレイはどこ吹く風で、最後に「おまえらを俺の戦艦に招待するから死ぬまで働け」と言い放つと、施設内は怒気から熱気へと変わり「ディスティアなんか糞食らえだ」「乗れたら敵に対艦ミサイルをブチ込んでやる」と全員が叫び始める。


「おまえらの熱意をいっぱい感じた。絶対戦場に連れってってやるから待ってろ!」

「ああ、待っているぞアーレイ!頼んだぞ」


 急に現れたアーレイという男は戦いのチャンスをばら撒き、皆の心を鷲づかみにする。そして踵を返すと颯爽と施設を後にした。


「お前、何考えてる奴らに啖呵切って大丈夫か?」

「心配してくれるのか嬉しいね、ちゃんと考えているからこそだ」

「はぁまったく君といると落ち着かんな、だがトコトン付き合うぞ」


 戦う事が出来ない連中をどうして欲しているのか理解できないクリスは困り顔を見せる。アーレイはフフフと笑い、以前見学に訪れたとある施設へと向かう。


 ーー


 <<技研内・仮想技術部>


 名が表す通りこの施設は仮想世界を構築し、脳に障害があり覚醒はしているけど意識が繋がらない傷病者にコンタクトを取る研究を行っている部署だ。アーレイは装置を設計している技官の元を訪れる。


「フルダイブシンクロシステムを使い、実際の戦艦の操作を出来るようにしたい」

「はぁ、フルダイブですか?ゲームじゃなくて?」


 質問された技官はアーレイが何を言っているのか意味が分からず、バーチャルで構成した戦艦と本物と繋げ動かすだけだと説明すると「遠隔操作は星団法違反なので乗船しないと駄目だ」と言われ「乗るから問題は無い」と答えるものの、ピンとこないのか不思議そうな表情を浮かべていた。


「アーレイまさか、さっきの連中を使うつもりなのか」

「そうだよ、医療用カプセルとシンクロさせれば動かせれでしょ」

 技官「え゛!」

 クリス「まさか・・」


 そしてアーレイはバーチャル世界の中で実際の戦艦を動かすだけだと説明すると、技官は「乗せっぱなしだとカプセルのメンテが問題になり、最大3日しか作戦行動が出来ないので現実的ではない」と反論してくる。


「それも承知の上だ、ケアに関しては支援艦に任せるつもりだ」

「どうやって乗船させるんだ。それこそ会敵したら狙われて終わるぞ」


 今までの常識だと戦いが始まりそうになった段階で運び込むと思っているのだろう。しかしアーレイは手の内を見せたくないのか「この場では言わない、取り敢えず戦えるかどうかの結論が聞きたい」と技官に問う。


「問題は無いですが、初めての試みなので時間をください」

「頼んだよ、試作が出来たら呼んでくれ」


 技官はアーレイが諸問題を解決してくれると思ったのだろう快諾してくれる。しかしクリスは実際の戦闘を想像していたので少し不満顔だ。


「アーレイ、何を作るつもりだ」

「フルダイブ技術を活用した仮想世界で敵国と戦ってもらうんだよ簡単だろ。じゃ次に行こうか」


 アーレイは自信があるのかクリスの問いにさらりと答え次の部署に向かう・・。


 <<技研内・艦艇設計部>>


 次に出向いた艦艇設計部は戦艦の設計図を引き建造まで手掛ける部署だ。しかしアーレイは素材研究部に足を運ぶ。


「少し聞きたい、レーザーや素粒子砲を無効化できる素材は?」

「無効化するよりシールドで防ぐのが主流です」


 この星団での宇宙船の作り方は金属パネルを張り合わせ、隙間に充填剤を入れ内部フレームに固定するパネル工法と呼ばれる作り方だ。防御に関しては電磁やプラズマを使ったシールドを張り巡らせ対応している。


「シールドを用いない場合は表面加工で対応できますか」

「鏡面加工による反射ですが、施すのはそもそも現実的ではありません」


 更に表面素材の話を重ねジルコニアが適しているが焼結温度が1500度ほどで現実的ではないと言われてしまい、もし作るとしても莫大な費用が発生するので無理だろうとクリスが答える。


「まぁだけど防御力はかつてないほど高くなるよね」

「ええまあ、そうですけど・・」

「アーレイ何を考えている」


 隠し玉と言うか最初から説明すれば頭から否定されるのは必至なので「色々さ」とごまかすと「思いっきり悪巧みの顔だぞ」と言われてしまうが、気にもとめない態度のアーレイを見ていると、今まであった奴の中でも発想と行動力が違い過ぎて、少しずつだけど面白くなってきているのは内緒です。


「セラミック系装甲なら接合部分が少なくて電子攻撃にも強いよね」

「ですが焼成しょうせいする大型施設を作れませんよ」

 

 アーレイは常識を覆す今までにない発想で船を作るつもりだった。しかしそれらを作るには余りにも膨大な予算が必要になり、間違いなくジェフの許可は下りないだろう。しかし織り込み済みなのかニヤリと口角を上げご機嫌だ。


「クリス、船作っていいんだっけ?」

「いいよ、退役待ちの戦艦は50万トン級1隻、30万トン級5隻、20万トン級10隻だったかな」


 20万トン級は標準型戦艦で攻撃と防御力のバランスが良いとされている。もちろん50万トン級の方が強力だが、戦費と星団法の兼ね合いで総数は少ない。そしてアーレイはなんと10万トン級以下の戦艦を作ると言いだす。


「10万トン級以下は弱すぎてどこも作らないし、ましてや5万トンなんて星団認証すら無い」

「おお、そうなんだ」 


 傷病者施設を出てからというもののアーレイの考えが全く繋がらずクリスは困惑しているが、戦艦を作る際に必要な装置の類を説明してくれる。しかしその常識を自分の考えに当てはめたくないのか笑って聞いていたよ。


「居住区域は邪魔なだけ、転送装置は不要、生命時装置はブリッジのみだな」

「もう俺には良く分からんが・・」


 発想が違いすぎてクリスは呆れを通り越していたよ。


「それとは別に支援艦は病院船と同じ扱いだから星団法適用外だよね」

「ああ、そうだ武装は殆ど無いから」


 支援艦の中に戦艦を収めると言い放つと「なるほどその考えは無かった」と言われ少し理解して貰えたが、作る戦艦は5万トンだと伝えると途端に表情が曇る。


「戦艦は5万トン級だと!主砲はどうするつもりだ」

「博物館にあったデカいやつ1門だよ、どうして?」

「・・・・(呆」


 余りにも発想力が違いすぎてクリスはポカンとしてたよ。


「それじゃ次は武器開発部に出向きますか」

「心配だ、次も俺が立ち会う」


 今まで呼んだ異星人はいきなり大型艦をドーンと作る事が多く、今回もその方針だろうと高をくくってた。だがアーレイはデルタの現状を調べた上で傷病者を採用しようとしているし、更には星団法が緩い小型艦を望み余りの考え方の違いに戸惑いを隠せないでいた・・。


 ーー


 <<武器開発部>>


 武器開発部に出向く前に5万トン級の素案を出したアーレイは主砲ではなく対空砲を専門に扱う技官と話し込んでいた。


「近距離レーザー対空砲をパネル式にできないか?」

「今なんと?」

「照準はパネルの向きとレンズ収束だ」

「はい?」


 いきなりの提案で技官は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべ、アーレイは理解できるように対空砲の説明を始めることになる。そしてレーザー発生素子を数百個並べ、発射の際にレンズで収束させて使うことは出来ないかと話した。


「凄い発想だなそれだと対空防衛専用だな、因みに搭載予定の艦艇のクラスは?」

「5万トン級!」

「小さいな、近距離ならできるぞ。大きさは3m×5mで艦首2枚と側面4枚、艦尾2枚位か」


 この技官はレンズ収束に関して理解しているのかサクサクとイラストを描き、アーレイが望むような武器を形作ってくれる。


「何故パネル式に拘る?」

「シールドの効率化だよ、使わない時には船体にぴったり貼り付けられるからな」

「ビームの威力と素子数は任せてくれ、あと主砲はどうする俺はそっちが専門なんだ」


 この技官は仕事も早くパネル砲は任せても大丈夫だろう。話を聞けば元々主砲が専門で今は小口径の技術革新の為に呼ばれているそうだ。それならと思いアーレイはメインの武器に関して相談することにした。


「博物館にある巨大な主砲を使いたい、あれなら1門でも十分に戦えるはずだ」

「はぁ?まさかあれを使うのか」


 呆れ顔の士官は逆に面白くなって来たのか、アーレイの考えに同調して自らあの大砲の設計図を引っ張り出して来るなり、破壊力を上げた一点突破型と拡散タイプを提案してきた。


「それは面白い提案だな改造に関しては任せる。2隻作るから1隻を拡散式にするよ」

「おう、任せてくれないかきっちり仕上げる」


 技術屋の彼でさえ思いつかなかった主砲の使い方を聞いた途端、早速設計に着手し始めアーレイは頼んだよと一声かけると部屋を出る。因みにクリスはずっと頭を抱えていたわ。


 <<翌日・艦艇設計部>>


 アーレイは素案を提出した翌日、艦艇設計部から連絡が入り早速向かうことになる。


「素案を元に設計してみました」

「ありがとう、どうなった?」


 設計部の責任者がアーレイの素案に対し、既存の戦艦をモチーフに内部構造の説明を始める。そして大型モニターには居住区域、転送装置、生命維持装置を無しにしたあの巨大な砲門を乗せた仮の姿が映し出された。


「ワンランク上のエンジンを搭載して、小型ジャンプコアに置き換えた合計は47.000トンですね」

「おお、結構良い線いったね」

「カプセル自体が救難艇なのでまだ余裕が生まれますね、早く艦船デザイン見てみたいな」


 あの大砲を採用したので全体のサイズ感はある程度決まって来る。なので大まかな重量配分などを先に割り出し、そのデータを元にアーレイがデザインを決めモックアップを組む流れになる。


「整備時間の短縮を狙ってユニット化すれば通路を限りなく狭く出来るので、強制転送されても動けないはずだ」

「おお、居住区もないし今回は最高のバランスで組めそうです」


 今までだと重量マスが違いすぎて悩む原因だった通路や居住区が不要で、巨大な砲身とのバランスが取りやすくなり、理想的な重量配分で作れるとわかり担当している技官は目を輝かせ始めた。


「できる限り動力性能を引き上げたいな」

「余裕があるのでスラスターを強力にしましょう。それと先端部分が軽いので回頭性も良くなっています」


 アーレイは通常の戦艦では有り得ない特徴を持たせたくて、軽い先端部分にとある集団を乗せようと考えていた。


「先端部分は硬い金属で突起を作り横には強力に開閉できるハッチを2枚追加してくれ」

「アーレイ、まさか突っ込んで強襲するのか」


 アーレイは先端近くに機甲歩兵を乗せ衝撃吸収ジェルを充填した後に、敵船に突撃し転送に頼らず内部に強制侵入させようと考えている。その事を説明すると呆れながら「君の発想には考えが及ばんよ、キースが知ったら泣いて喜ぶぞ」と言われてしまう。


「大まかな艦艇デザインが完成したら連絡するわ」


 きっと斬新なデザインが上がってくると期待しているのか、それとも面白くなってきたのか技官の目がなお一層輝いていたよ。


 ーー


 <<シールド開発部>>


 次にアーレイは突撃を可能にするためにシールド開発部を訪れ開口一番、衝突寸前に敵のシールドを無効化出来るかと無理難題を押し付ける。


「え゛!衝突って・・」


 今まで誰も試したことがなく、戦闘中接触したときのデーターを持ち出して侃々諤々やり始め、そして結論が出た。


 <1時間後・・>


「結論が出ました、衝突寸前にシールド周波数を拾ってカウンターを流せば無力化できます」

「わかった、それでは艦艇設計部に仕様書を送ってくれないかアーレイの船だと言えば分かる」


 これで衝突時のショックをいくらかでも和らげることが出来るので突入も楽になるはずだ。次にアーレイはまた素材部へと向かう。


 <<素材研究所>>


 新たな発想で誰も作ったことのない戦艦を作れる目処が立ち、アーレイはさらなる性能を上げるために素材の選定に入り、そして「技官に船体はシリコンカーバイトで作り表面はジルコニア装甲を施し内部フレームはカーボンとチタンで作れるか」と当然のように無理難題を押し付けた。


「今なんて言った?」

「セラミックとジルコニアだ」

「・・・・(呆」


 当然のように技官は呆れた顔をしてアーレイをジト目で見てくる。そして船体をシリコンカーバイトで製造したいなら超大型の真空焼成炉が必要で「そんなもん作れるか」と一蹴されてしまう。


「それなら宇宙で作れば?恒星の近くを通過すれば焼けるでしょ」

「マジで言ってます?なぜその発想になの?(呆」

「最強の船体を作りたいから!」

「どんな発想なんだよアーレイ(オコ」


 技官とクリスは呆れを通り越して怒っていたよ。なのでドッグで整形した船体を耐熱レンガで保護した状態で恒星の近くまで運び、高熱に暴露させれば焼けるし回転させればムラも出ないと説明をする。


「素材の値段安いよね、数時間で船体ができれば組み立て費用も抑えるし、なにせ5万トン級だから取り敢えず作ってみようよ」

「やれと言われればできるが、歩留まりが悪くなると思うぞ」


 真面目に力説するアーレイに説得された技官は焼成するイメージが頭の中に湧いたのか、取り敢えず形になるか分からないが原価計算を始めてくれる。出てきた金額は確かに高額ではなく基本の船体が数日で出来上がるなら逆に格安で作れると結論が出た。


「すごい発想だね〜、焼成用の船と戦艦の設計図を艦艇設計部に送ってくれ」

「でしょ!!製造部に提出しとくよ」


 こうしてアーレイは今までにない発想の船を作り出そうとしていた・・。

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