第13話 戦艦を作ろう!
<<デルタ軍・官舎>>
約3日間、少し遠い所にある官舎でアーレイはずっと自室に篭り船のデザインの詳細を詰めていた。
「あー、やっと完成したわ」
その船はロシアの原子力潜水艦「タイフーン級」に少し似ているが、先端にあの暴力的な大型砲身の発射口が見え、艦橋は直立ではなく斜めに少し長く、後部にはスクリューの代わりに大きなエンジン噴射口が見える。しかし既存の戦艦と比べ小型なので例えるなら、太平洋艦隊の空母と併走する潜水艦とイメージすればサイズ感はわかりやすいだろう。
「うん、この強度なら相手にぶつかっても平気だね」
接合部分を極力減らし本体を焼成形成することにより、机上の計算だけでも船体強度が5倍以上、耐ビーム耐性も3倍以上になっていた。
<<探査船・フォウルスター>>
発注をかけて数週間後、船体焼成テストの準備ができたと連絡が入り、アーレイとクリスはフォウルスターに乗り恒星近くを航行中だ。
「こらアーレイ、あんなシンプルな船になんで3日も必要なんだ」
「拘りが強いと言ってくれ」
クリスは3Dプリンターを使い制作したモックアップを見て「俺なら1時間で作れる」とか豪語していた。しかしアーレイは自分の艦隊が持ちたくて旗艦を含む全ての艦船の設計をしていたとは口が裂けても言えない。
「クリス艦長、実験場に到着しました」
「それにしても暑いよここ」
「一番良く見えるし、これでも冷房全開なんだけどな」
実験観察と言えば観測室しかないだろう。だが防ぎきれない赤外線が嫌でも部屋を温めじんわりと汗をかいてしまう。そんな蒸し風呂状態の中で我慢していると、下手から耐熱レンガの固まりのような運搬船が見えてくる。
「それにしても早かったわ〜」
「運が良いな使わなくなった焼却専用船を改造出来たのが大きいよ」
アーレイが焼成に使う船のデザインを始めた頃、廃棄物を恒星に運搬する船が解体待ちだと連絡を受け急遽改造して再利用していた。なので大した苦労もなく短時間で準備ができたということだ。
クリス「なんだかな解体施設が今や造船所とは」
通常だと地上の造船ドッグで本体を作り上げそのまま就航するのが流れだ。しかし今回は極秘製造になり更に船体を焼成するので、廃棄船を解体する施設を使う事になりクリスがそう呟いたのだろう。
アーレイ「それにしても成形が早くてびっくりしたよ」
実験する船体はモックアップをスキャンしてそのデータを元に3Dプリンターで実物大の模型を作り、それにセラミック素材を盛っただけだ。なので短時間で作ることが可能で配合が違う5種類も準備できた。
「解体を目的とした施設だから逆の組み立てもできるのか、それにしても発想力が違いすぎるわ」
「元の職業がニュースだろ、嫌でも知見が広がるし発想力を大切にするからだよ」
発想力が豊かなのはミリオタでアニメ好き、それに取材する際に勉強して知識を蓄えたお陰でもある。しかしシリコンカーバイトに関してはアーレイの釣り好きが高じて、釣り糸を受け止める素材がSICと呼ばれ硬く頑丈な事を知っていたとは当然言えません。そして目の前を運搬船が通過する・・・。
「あれが試験に使うモックアップか」
耐火レンガに守られた真っ白い試験体が回転しながら接近してくる。あとは適温の場所まで近づいて恒星の熱を使いこんがり焼くだけだ。
「クリス艦長、被ばく量が急上昇してきました防御シールド閉めますよ」
「ああ頼む、後はブリッジで観察するか」
被ばく量もさることながらもう我慢できないほど観測室の温度が上がり始め、シールドが覆うと途端に気温が下がるのを肌で感じることが出来る。
「ビールでも飲みながら観戦するか」
「こら、勤務中だぞ」
「どうせ終わったら帰るだけだろ」
「まぁ確かに」
艦橋に戻るが流石にビール片手に見学するわけにもいかず、作戦室に入り飲みながら様子をうかがうことに。そして恒星の熱に晒されたモックアップはオレンジ色に変化し始める。
「何だか丸焼きロースト状態だな」
「何度も言うが君の発想は凄いな」
「焼成出来る技術があるから思いついただけだ。けど成功して成果を上げたら大変なことになりそうだ」
スペックだけで比較すれば3星団の中で一番の強度を持つ船になることは間違いない。アーレイは技術書を読み漁りこの技術が他国に漏れるとヤバと認識していた。それはクリスも同じで「作業員全員に契約を結ばせたし、喋れば死刑だから誰も喋らないぞ」としたり顔で教えてくれる。アーレイが自室に籠もっている間に色々動き回ってくれたらしい。
「ありがとうクリス、君がいてくれて俺は好きに出来る」
「こら、階級無視して語りかけるな!」
オコ顔をするクリスだったが、面と向かって礼を言われどことなく嬉しそうだったよ・・。
<<数日後・艦艇設計部>>
こんがりローストモックアップは熱を冷ますのに24時間ほど放置された後、除染も終わり強度検証が行われ、その結果が出たと艦艇設計部に呼ばれることになる。
「アーレイ少尉、結果からいいますと”成功”です。これから船体製造に入りたいと思います」
「ありがとう、これで実用化に向けて大きな一歩を踏み出したよ」
本体製造の許可が降りて一歩ずつだが確実にアーレイが想像する戦艦が形作られようとしていた。しかしデザイン担当者が「こんなにシンプルで良いのですか?」と問われてしまう。いきり立つ主砲や何十セルものミサイル発射口が無くてひ弱に見えるのだろう・・。
「まあ、前方には巨大なビーム砲が付いているけどね、無駄なものを省いたのさ」
「完全に振り切れてます理解不能ですわ、それとこれが新型対空砲のイメージになります」
3DCGで映し出された船体はコントローラーを使い全方位が観察でき、パネル型対空砲も自由に動かせる。驚いたのは完全に船体に収まるように緻密に作られ、あの技官が懸命に仕上げたらしい。おまけにこの製造方法だと従来の半分以下の時間でポンポン製造できると褒められてしまう。
「この支援艦も独特ですね。この中で整備するなんて思いつきませんよ」
支援艦は5万トン級を収納できるように後部格納庫が大きく開く構造になっている。しかし前方にブリッジの機能を集約したため前から見れば豪華客船に見えなくもない。例えるなら
「これはね移動しながら整備が出来るし艦外作業も安全でしょ、それに機密保持にもなるし」
「成程、整備ドック代わりという事ですか」
因みに支援艦の内部は殆どがドッグで構成されているので自重が凄く軽く、大型ジャンプコアと強力なエンジンの相乗効果で駆逐艦以上に逃げ足が早い。鹵獲されるのを防ぐ意味合いと戦闘空域から素早く遠ざかるためでもあった。
「色々検討した結果、素材は強度と耐衝撃性のバランスの良い物を採用しました。それとこの結果を見てください」
「なん何だこれは・・もう核攻撃でないと沈めないぞ(呆」
実験結果の報告を読んで1番ビックリしたのはクリスだ。そりゃビーム攻撃耐性は通常型戦艦の5倍以上で角度によってはビームを弾きステルス性が異様に高く、それに融解温度が2700度と鉄と比べて桁違いだからだ。
「船体のみの結果ですので、これにシールドを張れば更に耐性は上が上がります」
「おお、来た!」
「凄すぎるぞアーレイ」
喜ぶアーレイとクリスだったが、「ジャンプコアは反応速度重視でこれだと距離が稼げませんけど」と言われてしまう。アーレイは慌てること無く「それで良いよ、戦場までは支援艦の中だからね」と飄々と答え、クリスはそうだったと呟いた。
「次はシールドを張った場合の計算値になります」
「それにしてもこの組み合わせは(呆」
クリスが驚く理由は、船体強度10倍以上、ビーム耐性11倍、耐重力加速度は12Gを誇り、10万トン級のエンジンと強力なスラスターとの組み合わせは、戦闘機とまではいかないが運動性能が明らかにおかしかった。
「この艦はまるで飛行機にように飛びますね(笑」
「そうだよ、照準が間に合わないくらい早く動ける戦艦を作りたかった」
「奇才としか言えんわ(呆」
実験結果は良好。残る問題は乗組員が使うバーチャルシステムだ。丁度、仮想研の技官が進捗状況を説明するために現れ期待が膨らむばかりだ。
「すみません、バーチャルシステムの構築に手間取り初期運用は健常者でお願い出来ますか」
「それなら、第2艦橋内だけ重力制御装置を入れよう」
初めての試みでここまでトントン拍子で来た方が異常だろう。なのでアーレイは腐る事なく代案を提示して流れを止めないようにする。
「ん?アーレイそれだと5万を超える筈だが」
「いやだって健常者が乗る事も想定しているよ」
アーレイは笑いながら健常者が操船する第2艦橋の設計図を映し出し、一目見たクリスは目が点になる。そりゃ艦橋自体が電子偵察機のようなコックピットそのものだから驚くのは仕方ない。それに椅子が5脚しか設置してないし・・。
「こら、救難艇はどうするんだ」
「そうそうこれね避難する際は真下にあるカプセルを使って逃げるのさ(笑」
「・・・」
第2艦橋の真下は第1艦橋なのだがそこは言わばカプセル置き場だ。なので逃げる際は通路の床を開ければ真下にあるカプセルがあり、そのまま乗り込めば第1艦橋としても使え更に救難艇として利用可能だったりする。余りの合理性に技官が呆気に取られているのは当然だろう。
「アーレイ少尉、今更何ですが艦橋は何名で運用を考えています(汗」
艦橋とは言えない第2に設置してある椅子の数を数えたのだろう。まあこれも想定内だしアーレイは5人だよと答え、満を持してこの船の乗組員に関する事をスラスラと語り始める。
「操舵手とは呼ばずパイロットな」
この戦艦は戦闘機のように飛ぶので操舵手が射撃手でもあり、その他の乗組員については艦長、レーダー手、機関士、通信士で構成される。機関室には別途数名が配備されることになり総数で数えると最大で12名しか乗船しないと言い放つと、クリスも含め技官たちは終始あきれた様子だった・・。
ーー
<<指令本部・作戦会議室>>
指令本部にクリスと共に戻るといきなり会議室に引っ張り込まれ、何やら複雑な表情を浮かべていた。
「アーレイ、君は戦艦の常識を覆すのか?」
「そうだな、この船の強力な主砲を使い俊敏に動き回ればまず間違いなく歴史が変わる」
「そろそろ戦い方を教えてくれないか」
まだ実戦投入して無いので何とも言い難い所だが、強力な主砲の使い方ひとつで戦い方が変わるかもしれないとクリスは考えているのだろう。それに戦法に関しては何一つ教えてくれないことに不満を感じていたらしい。
「長らく戦争を続けているから航空戦力に関してはどの国も不足気味だ。だからこの船なんだよ」
「そこまで調べていたのか・・」
アーレイは強制学習とは別に軍事構成比を独自に分析し、長きに渡る戦争でパイロットの養成が間に合っていない事を突き止めていた。
「スピードと破壊力と小さな船体」
「アーレイ、想像しただけで震えてきよ」
戦場を駆け回り敵を蹂躙する未来を予想したのかクリスの手は少し震える。しかしそうなると兵士の質が問われる事になり、ふと疑問を感じたクリスは施設の件が頭をよぎった。
「まさか、傷病者を使うということは・・」
「そう傷病者を採用したのは優秀な部下が欲しいだけなんだ」
アーレイはここに来て傷病者を採用する本当の理由を教えてくれる。要するに実績が無いので有能な人材は集まらないだろうと予測し、それならば動けない優秀な奴を使えるようにすればいいと単純に考えたそうだ。最後に「やる気がない奴を乗せても無意味で革新的な事をいやがるだろ」と締めくくる。
「今まで避けていたけど君に感謝だ。彼らに接して心情を理解できたよ」
「こっちは器を用意すればいい、彼らには活躍できる場所と”機械”をな」
「ははは、人権屋が騒ぎそうだ」
話しが一段落すると今度は神妙な表情を浮かべ始めたので「なんだ初陣の事だろ」と言うとクリスは虚を突かれたようにポカンとする。ブラッドとアノ精霊が乗り移って以来、アーレイは以前にも増して人の思考が手に取るようにわかるようになったのは秘密です。
「あはは、俺としたことが先読みされたよ(笑」
「艦長でいいよ、クリスは顔に出るから分かりやすいわ(笑」
クリスは今までとは考え方が違うアーレイの魅力に少しずつ魅了されていくのであった・・。
ーー
<<数日後・傷病者専用病棟>>
数日後、フルダイブの試作機が完成を迎え、訓練を兼ねて傷病者施設に持ち込んでみた。そして講堂に集まった精鋭20数名と言っても全員カプセルなので通話はモジュールを使うしかない。
「みんな聞いてくれ、船の建造が始まったが残念ながらフルダイブ装置が間に合わない」
開口一番アーレイは戦艦が完成する方が先になりフルダイブ運用は遅れると話すと「戦うチャンスをくれたことに感謝しかない」と言われ、やる気がひしひしと伝わってくる。そして搭乗後の話に移り、支援艦から専用の通路を使い時間にして2分以内に艦橋に入れると言い放つと「スクランブル要員だな」と笑っていた。
乗務員A「これで戦場に戻れる!」
乗務員B「祖国のためにまた戦えるぞ、くそディスティアに一泡吹かせてやる!」
皆やる気十分の表情を浮かべ最後に「アーレイ、俺たちにチャンスをくれてありがとう、きっと役に立つぞ!」とお礼を言われ、案内してくれた職員は感動したのか大きく深呼吸すると和やかな表情を浮かべていたよ。
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