第9話 新技術。
<<デルタ軍事技研所>>
コーネリアを見送ったアーレイは技研に向かいながら、あの数値「0.01255秒」に糸口を見出したくて思考を巡らせていた。
「100分の1秒の制御ならここの技術なら問題ない、後は・・」
ジャンプは亜空間に向け加速中は進行方向にある惑星、ブラックホールの通過は不可能で加速距離は数光年は必要になる。アーレイは連続的にジャンプ制御が可能になれば星を挟んで睨み合った場合、2〜3回連続ジャンプすれば後方を取れ優位に戦えると考えていた。
「アーレイか、良いところに来た詳しく解析して0.00」
「1255秒ですか?」
技研に入ると待ってましたとばかりにケヴィン機関長が駆け寄り、教えてもらった数値を教えようとするが先にアーレイが答え呆気に取られていた。
「え゛!」
「実は先ほど、出発した客船のコアを見てその数値を教えてもらいました」
「えええ~機関室に入ったのか!(汗」
ラインスラスト帝国とは同盟国であり活発に技術交換するほど良好な関係だが、機関室に出入りするなど余程の事がなければ有り得ない。その事を知ったケヴィンは顎が外れるほどビックリしていた。次にゲルベルトと仲良くなってフォーラムに招待されたと話すと最後は目が点になってしまう。
「それで、その数値はなんだ?」
「制御ロスだそうです」
アーレイが制御ロスの説明をするとケルヴィンは自分が見つけた数値は噴射のズレの時間だから関連性がわからないと話す。
「不燃焼の時間がこれ以上の数値の時に燃料を絞るそうです」
「うーん、うちコアは細かい制御はしないし数値は偶然かな」
次にアーレイは燃料投入のタイミングが合ってないのではと話し、ケルヴィンはログの解析を始めたものの、息つきと噴射の関連性が一致しなかった。
「だとしたら燃焼状態のログとバルブ閉鎖タイミングを見てみましょう、そこはまだ見ていませんよね」
「そうりゃ完全燃焼していたら燃焼状態は普通見ないし、燃料流入計の振れを優先に考えていたからな」
コアに取り付けたセンサーのログを見ると完全燃焼させる為に燃料流入を絞っていたことが判明したが、燃焼速度が速く直ぐにバルブを解放していた。
「これじゃ警告も出ないわけだ、だが数値を割り出すぞ。きっとそこに答えがある」
開放するまでの時間をログを詳しく調べ計算すると0.00114秒と結論がでる。
「この数値が出ない様に燃料を絞りましょう」
そしてコアをテストすると息付きがピタリと止まり、早速ジャンプを行い確かめる事に・・。
<<実験船>>
「艦長、どこでも良いから軽くジャンプしてくれ」
<了解、各員に次ぐ1分後ジャンプ開始するぞ>
艦長の命令が下りジャンプシーケンスが始まると、また失敗するのではと操縦士の表情は冴えないがランプがグリーンに変わりその時が来てしまう。
「ジャンプ!」
そしてジャンプレバーを引くと実験船はヒュンと軽い音と共に漆黒の海に消え、数秒後、数光年先にジャンプアウトした。
「おお!今度は上手く行ったぞ!」
「おー!やった??」
喜ぶのも束の間、実験艦はまた再ジャンプをしてしまう。だが距離にして数千キロと最初よりは飛ばなかったのが救いだ。
「機関長、最後のジャンプはなんですかね?」
「頭が痛いよアーレイ君・・・・」
悩みは尽きないけどコア与える燃料の量で距離が変わる事だけが判明したのは一番の救いだろう・・。
<<探査船フォウルスター・食堂>>
問題解決に行き詰った2人は気分転換の為に食事をする事になるが、実験船の厨房はそもそも存在しないのでフォウルスターに移動する。
「ステーキ肉を保温するのは一緒なんだな」
アーレイが目にしたのはステーキ店で良く見かける、焼き上げた肉を保温シートに包み中までじっくりと温める調理法だ。しかし気になったのは使っていたフライパンを弱火のままで放置してある事だった。
「すみません、何でフライパンの火を落とさないのですか?」
「次は強火でフランベするから温めたままにするんだよ」
シェフはそう話すと肉をフライパンに入れ強火にし、酒を振りかけ”フランベ”をしていた。
「ふーん、素人とは考えが違うんだなー」
「さあ飯にするぞ、腹が減ったら頭が回らん」
食事をしながらコアのログを見ていると奇妙な事に気がつく、それは再ジャンプした際にコアは既に停止中と記録されていたのだ。
「何なんだ停止後にほんの少しだけ注入している、なぜこのプログラムだ意味がわからない」
「セットアップした技術者に聞くしか無いですね」
気が付いたケルヴィンは直ぐさまチャットで連絡を取り、実験船に戻る頃には担当した技術者から返答があった。
<<実験船内・会議室>>
「それで技官は何と答えたのですか」
「炉の完全失火を防ぐ為に少量噴射してそれを防ぐのが常識何だとさ」
ケルヴィンの話を聞いたアーレイは客船のコアが最後に一瞬光ったのは失火防止の少量噴射だと気が付き、それに食事前に”フランベ”して燃え盛るフライパンのイメージを重ねると、とあることに気が付いた。
「デルタの炉は他と比べて”高温”だからジャンプ終了直後に少量の燃料入れるとジャンプが再発動するんじゃないですかね?」
「ジャンプ直後にこのタイミングで少量の燃料を注入すると発動すると言いたいのか、まさか・・」
数年前に連続ジャンプを目指し何度も実証実験を行っていた時の様子を語り始める。当時は何度繰り返しても失火したり爆発したりと散々な結果が出てしまい、連続ジャンプは不可能と結論付けしたらしい。
「極めて少量なのでジャンプ出来ないと思い込んでいただけですね」
「この噴射量は少なすぎて試したことが無いしタイミングが早すぎる」
アーレイは裏付けを取るために再噴射時のコア温度を調べてみると表面温度は低いが内部温度が極めて高く臨界中だと判明した。その事をケルヴィンに話すと「単芯だから下がる訳ないラインのコアは複数芯の筈だから下がる」と言われ、あの技官に問うと個数は言えないとだけ教えてくれた。それと表面温度がある値に達すると0.001255秒以内に再噴射が行われることも同時に突き止める。
「もう結論がでました、間違いなく再ジャンプをコントロール出来ますね」
「これはすごい発見だぞ。タイミングは弄らず注入量を変えて距離が変われば仮説を実証できるぞ」
堅牢で冷えないデルタのコアと、寿命を考慮した繊細なラインスラストの制御方法の組み合わせが新たな革新を生み出そうとしていた。新たな発見に2人は興奮を隠せない。
「なんかワクワクしてきましたねケルヴィン機関長!」
「君の言っていた連続ジャンプができるかもしれないな、早速実験だ」
ケルヴィンはジャンププログラムを弄りだす。一方のアーレイは理系の頭だけど手出しするほどのスキルは持ち合わせてはいないし、クリスにも発想力を生かしてくれと言われていたので細かい事に関しては技術屋さんにお任せだ。そして流入量をグラム単位で小分けにした検証プログラムが完成する。
「艦長、またジャンプしてくれ」
<わかった>
いよいよ実験が始まりジャンプすると相変わらず再ジャンプするが気にせず注入量を変えて何度か実験を行った。
「ヤバいぞアーレイ君、物理は嘘をつかない、君の仮説は間違いないぞ。後は注入回数を弄って検証すれば確定だ」
数回テストすると量と距離に一貫性が現れ方程式に当てはめると物理的な計算が出来てしまう。逆に言えばコントロールできるという証だ。控えめのケルヴィンは仮説が実証出来て実は興奮を抑え冷静を装っているだけだ。その証拠に目がギラギラと輝いている。
「次が正念場ですね、2回目のタイミングも0.001255秒ままで行きましょう」
「勿論だ、この数値が基準だからな」
そして連続ジャンプの実証実験が始まりを迎える。
「艦長、面白い事が起きるぞ」
<本当か、上じゃ再ジャンプ恐怖症が蔓延しているぞ(笑>
モニターに映る艦長は何度も何度も再ジャンプを繰り返し実験を行うラインの装置は役立たずと思っているのだろう。操縦士ももういい加減にしてくれという表情を浮かべていた。それでもジャンプは行われてしまう。
「艦長、ジ、ジャンプを2回連続で確認・・(汗」
「おいケルヴィン!回数が増えたじゃないか。もう大概にしてくれないか(オコ」
そして予定通り、予定の距離に2回ジャンプを行った実験船は気が付けば射撃場を大きく外れ恒星圏外ギリギリの位置まで移動していた。そして艦長にモニター越しで話すと機密が漏れるとケルヴィンが呟き、艦長室へと移動する事になった。
<<艦長室>>
「あはは、艦長は偉大な歴史の1ページを先ほど捲ったんですよ(笑い」
「なんだそれ、詳しく説明を頼む」
そしてケルヴィンが連続ジャンプの実証実験が成功したと述べ、次にアーレイがこれで位置取りが自由になり戦い方が大きく変わると話すと余りの衝撃に一瞬で頭が真っ白になったのか視線が泳いでいたよ。
「艦長、帰りはスキップするように連続ジャンプして帰りましょう」
「もう好きにして(呆」
帰りの航路では最大3回連続ジャンプの実証実験が行われ膨大なデータを持ち帰り、後日検証が行われることとなる。
<<12時間後・実験船>>
「アーレイ、ケルヴィンが極秘で詳細はここでしか発表できないと言ったが何かしたのか」
ケルヴィンは今回の成功は秘密にしなければ駄目だと直感が働き、実験船の乗務員は下船許可を出さずに船内で一夜を明かす。そして帰ってこないアーレイを心配したクリスが問い合わせると、直接来ないと説明できないと言われ実験船に転送され今に至る。
「とりま連続でジャンプできたわ」
「なんだと、これは革新過ぎて頭が追い付かないが、取り敢えず陛下の報告しなければ!(汗」
そして連続ジャンプの結果を伝えると唖然としつつ、取り急ぎ陛下に報告すると騒ぎ出した。
「そうなの?星の裏側から3回ジャンプしたら敵の背後を取れるよね~(笑」
「アーレイ笑い事ではない、今回の実験に加わった乗り組員は全員下船禁止」
「えー、酒飲めないじゃん」
「そこ?」
<<王宮・謁見の間>>
「うむ、ご苦労である」
ジェフは連続ジャンプの重要性がいまいちピンとこないのか、凄くさっぱり一言だけだ。アーレイは「そんなもんだ実戦で成果を挙げれば良いわ」と帯同したクリスに言い放ち肩を軽く叩くのだった・・。
ーー
<<実験船・会議室>>
謁見の為に地上に降りたアーレイが留守の間に、ケルヴィンはラインスラストの技官に色々質問を送ったらしく結果を見せてくれる。
「結局な複数炉はコアが神経質で失火しやすいそうだ、それでな新人技官が思いつきで不燃感知の数値で実験したら成功してそれが0.00125秒だってさ」
デルタの炉の特性を大して調べずに既存プログラム延長で対応したのがそもそもの原因で、それが元で今回の騒ぎになったらしい。
「デルタの炉でジャンプしたらそりゃ不具合が出るわけだ。取り敢えずコーネリア様に手紙を書いた方がいいな、バレたらえらいことになるわ」
「実践投入して活躍したら間違いなくバレるぞ」
この前は急ぎ過ぎてモジュールの連絡先を交換しなかったので直接連絡を取る手段が無いアーレイはクリスに相談すると「取り敢えず手紙を書いて陛下に見せれば今回の重要性を理解するはずだ」と言われたよ。
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拝啓コーネリア様
ラインスラストのコア用省燃費プログラムは絶対に使わないでください。とんでもない事が判明する可能性があります。
他国に輸出する際はコアプログラムを別途状況に応じて組んでください。
PS:こちらの実験結果は超機密扱いになりました。お察してください。
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<<王宮・謁見の間>>
ジェフ 「アーレイ、エンジンのことはよく分からんが、俺に見せると言うことはかなり重要なんだな」
アーレイ「その文面を読むだけで理解できると思います」
製造元に取り扱い注意を促す正式な文章を送り付けるとなれば嫌でも今回の事がいかに重要かと理解を示し始め「新しい戦い方に変わるかもしれません。物凄く革新的で間違いなく勲章ものです」とクリスが力説をして駄目押しをすると・・。
「そんなに凄い事なのだな、だが、勲章はアーレイの存在がバレるので駄目だな」
「陛下、勲章は不要です。お金と休暇ください」
「わかったよ!」
ジェフも物凄く重要だと理解すると即座に秘密保持の契約書を書かせろと指示をだし「なにそれ」と聞くとクリスは少し厳しい表情を浮かべ「給与が上がる代わりに情報を漏らしたら死刑」だと教えてくれる。
「すんごい契約だわ」
「ケルヴィンとお前は更にきつい契約になるからな」
正式名称はショートスキップジャンプだそうだ。そのうち作戦立案するかもね〜。
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