第8話 技術屋。

 デルタ軍事技研所に集まった技術屋達と実験船の不具合について侃侃諤諤カンカンガクガクと議論を重ねたが、流石に短時間だったので結論は出なかった。


「腹減ったわまた明日にしよう、それじゃ解散!」


 本当は先に作戦本部に出向かなければならなかったアーレイだったが満を持して作戦本部に向かう。しかし初めての本部は対テロを意識して作られているため、迷いに迷ってやっとクリスが勤務するフロアーに到着するのだった・・。


「アーレイ迷った時はモジュールを使え!」

「そ~ですね、次回使いま〜す」


 マドック達と階級抜きで会議をしていた影響なのか上官に対し適当に受け答えをするとクリスは少しムッとした表情を見せるが、アーレイはどこ吹く風でその様子を見ていた強面男がクククと笑っていた。


「アーレイ、早速活躍してるし豪胆なヤツだな」

「あれ、キース少尉さんもこちらでしたか」

「君と同格だから”さん”はいらないキースでいいぞ」


 クリス直属の部下なので同じフロアーで過ごすことが多いらしく、詳しく聞くと家族ぐるみの付き合いをしていると話してくれる。そしてキースは士官学校の成績を一目見ると驚愕の表情を浮かべることに。


「何だこのおびただしいA評価は、実地の成績が抜群じゃないか!それもアタッカーの素質がある」

「ええ、傭兵やっていたし近接戦やCQBは得意ですよ」


 この世界の歩兵は自分の勘や足を頼りに近接戦を行うことは稀で、悪いことにロボットスーツの訓練に時間を取られる影響でスキルが低く、実戦経験があるアーレイに敵うわけがない。そのA評価を見たキースは実は内心でヤバいヤツ認定したのは秘密です。


「キース、機甲歩兵じゃ勿体無いだろ、さあみんなで飲み行こう」

「あっ、それ良いですね。ここの酒には興味があります」

「ふふ、仲間だね」


 マドック達を待って作戦本部を出たアーレイはデルタの繁華街に足を向け、クリスやキースが良く行く店に行く事になる。


 <<ベーカリーバー・ブレーメン>>


「子この店はパンも美味いし、食事も美味いぞ」


 首都デルタ付近は麦類がよく獲れビールやパンなどが名物だったりする。皆が入った店は昼間はパン屋だけど夕方からバーに変わるお店で、中央にある古い煉瓦造りのオーブンはここの名物で時折、昔ながらの焼き方で出来立てを振る舞ってくれる。そんな古き良きお店で飲む酒は最高だ。宴もたけなわになり一通り近況を聞いた後、思想や考えた方など深い話に変わりつつあった。


「アーレイ、そもそも何故デルタに協力する気になった?」

「興味があるしこの星団は問題が山積しているし、できれば戦争を終わらせたい」

「あのときの言葉は嘘じゃなかったんだ、なあ全力で頑張れよ」


 キースもクリスも冷静沈着で少し馴れ馴れしいアーレイに酒を呑ませ、酔わせて本心を聞き出そうとしていた。しかし元々裏表がないので変わらぬ彼は星団解放を真剣に考えていると分かり少し嬉しそうだ。


「覇権主義は抑圧してもまた戦いが起こるし、お互いの立場を尊重すれば争いは起こりにくい。政治の不満を外に他星団持ち込まなければ戦争は起きないはずだ」

「まぁ理想はな」


 結構な量の酒を飲んでも崩れないアーレイは、争いごとに関しての持論を述べ、本気でこの星団を変えたいと考える。


「大層な事を言ったが、微力でも手伝いが出来れば良いと思っているよ」

「そうか、お前いい奴なんだな」

「まぁ好きにやっているだけだ。」


 盃を酌み交わし本音で語った事で3人の心の距離は、これを機会に意外なほど近づくのだった。


 <<翌朝・司令本部>>


「アーレイ、炉は解決出来るのかな?」

「人間が作った物だ、何処かに答えがある」


 翌日、原因探求の為に定時より1時間以上早く出向くとクリスとマドックも同じタイミングで現れ、ヤル気の確認から始まりを迎える。


 マドック「そうか、アーレイは諦め悪いんだな」

 アーレイ「あのさ、ラインの炉を見たら少しはヒントになると思うんだけど」

 クリス「それなら旧型艦で良ければ見れるかもよ」


 ジェフ陛下の予定を知るクリスは、ラインスラストに嫁いだコーネリア元王女が極秘里帰りしている事を知っていた。望みは薄いがコアが見れるかも知れないと話す。


「よし今からアポだ!」


 あの問題を解決したい一心でアーレイはアポを入れ王宮に走っていく。


 <<デルタ王宮内>>


 執事「陛下はお忙しいので、しばしお待ちください」


 直談判するためにアポを取ってみたが調整がつかないのか、はたまた下に見られ気にもとめてないのか4時間も待たされた。


 <<デルタ王宮・謁見の間>>


「どうしたアーレイ、もう嫌になったか?」

「いえ違います。コーネリア様の乗ってきた船のジャンプコアを見せてもらいたいのです」


 時間がないとせっつかれ挨拶もそこそこ本題を切り出すと訝しげな表情を浮かべ、うんと頷いてくれなさそうだ。なのでコーネリアが鳴り物入りで売り出した制御装置の不具合の件だと要約して話すと、途端に前のめりになって聞いてくれる事になる。


「承知した、コーネリアが話せば見れると思うぞ少し待たれよ」


 モジュールを使いこの件について話しているらしく、目線が離れると少し笑顔がこぼれていた。とても腰が軽い人で助かったとアーレイは安堵することに・・。


 2人の会話

 <コーネリア少し頼みがある、乗ってきた船のコアを見せてくれるか?>

 <それはちょっと無理かと>

 <君が進めている外貨獲得のための装置がデルタの船とは相性が悪いそうだ>

 <わかりました、そちらに出向きます>


 コーネリアは自国製品の事と分かるや否予定変更して来るそうだ。中々商魂逞しい人らしい。


「アーレイ、コーネリアが来るので少し待たれよ」


 コーネリアが売る装置がこのままではデルタで採用できないと考え即座に動いたのだろう。ジェフは即決即断できる良い為政者だとアーレイの評価が上がる。


 <<30分後・謁見控室>>


「アーレイ少尉、陛下がお呼びだ」


 再度謁見の間に入ると2人は談笑していた。そして開口一番「この男に船のコアを見せてもらえぬか」と話すとパッと目が見開く。


「アーレイ様、お時間が余りありませんのよ、急ぎ船に向かいましょう」


 コーネリアはもう絶世の美女と言っても過言じゃ無いくらい美人さんで、金髪、青眼、バランスの取れたスタイルを持ち、お近づきに成りたい所だけど足早に謁見室を出る。


 <<高速船・リアーナ号>>


 出発まで時間が殆ど無いと言われ、直接機関室に乗り込んだアーレイは、機関長のゲルベルトに挨拶する事に。


「デルタ軍アーレイ少尉と申します」

「お前スパイじゃないよな?」


 開口一番アーレイをスパイと疑うゲルベルトという男は、ラインスラストのトップに立つ機関長だ。そんなゲルベルトはちょび髭を蓄え、顔は四角形、口はへの字、眼光鋭く少し背が低く横幅がありガッチリ系だ。一言で言うなら頑固親父で普段は旗艦を担当している。


「燃料制御装置の相性が悪く原因を探している最中でして、エンジンコアは見なくて結構です。ジャンプコアだけ見せてください」

「俺に対してハッキリ物言う奴は好きだぞ、それにモジュールの電源を切ってるしな」


 乗り込む前にモジュールの電源を落とし手ぶらで機関室を訪れ、怖そうなゲルベルトに対し臆することなくお願いをするアーレイの態度が気に入ったのだろう。ニヤリと笑うと早速エンジンルームへと案内された。


 「このコアは2世代前だから見ても構わないのだよ、重要なのは制御プログラムだ。それで炉と相性が悪いんだって?」

「アウト直後に息つきを起こして再度ジャンプしてしまいます」


 歩きながら技術的な話を始める機関長は根っからの技術系の職人なのだろう。未知なる不具合と聞くと目を爛々と輝かせ、アーレイは不具合を起こしたコアの燃料注入量やタイミングなどを詳しく話すと「あはは逆スパイだな」と笑っていたよ。


「技術屋としては放っておけんな。だがなぜその装置にこだわる」

「省燃費は色々な面でメリットが大きいですし、技術的検証は面白くて仕方ありませんから」


 再ジャンプが新たなる戦い方になると考えていたが、手の内を見せたく無いので省燃費と誤魔化し先へと急ぐ。


「これが制御装置、こっちがジャンプコア」

「あれがエンジンコアですね、隠していても分かります」


 入った機関室は透明アルミニウムで作られとても未来的だ。奥に見える巨大なシリンダーは作業用のライトが消され中身を伺えないのであれがエンジンで間違いないだろう。ゲルベルトは手前にある貯水槽のような形の金属の箱を指差していた。


「とりあえず試験モードで燃料流すぞ、1回しかできないからよく見とけ、テストだからすぐ臨界点近くに達するぞ」


 先読みして話すアーレイは勘が良いと思ったのか、ゲルベルトはニヤリと笑うと起動シーケンスを始め、観測窓から見えるコアに向かって燃料が流れるのが手に取るように分る。少し経つとヴィヴィヴィと規則正しい音と振動を感じゆっくりオーバードライブが始まり流入量が段々と早くなり一気に加速し始める。


「これでアイドル状態だ、どうだ何かヒントは掴めたか」

「動きの違いが凄くわかったのですごく参考になります」


 とてもスムーズで無駄のない動きだ、星団随一の「省燃費ユニット」と言われるだけはある。臨界に達したコアは真っ白に輝きヒューンと高い音を響かせジャンプトリガーを引きさえすれば亜空間へと飛んでいくだろう。


 「じゃ、止めるぞ」

 Ai「テストモード終了します」


 燃料噴射を止めた途端にコアは輝きを失い、最後にボワッと燃えるような音が聞こえ一瞬だけ光が戻る。


「低圧流入の制御が細やかですね。ですが止まる寸前に一瞬、炉が少しだけ動きましたあれは何ですか?」

「低速なのは寿命を延ばすのが目的だからな、それとあれは失火するにを抑えるために最後にほんの少しだけ燃料を足して安定させるんだ」


 バイクで例えるならキャブレターのアイドルスクリューを絞りすぎるとエンジンが止まる症状とよく似ている。それだけ省燃費に拘ったコアということだろう。


「わかりました、ありがとうございます機関長。最後にこの数値に何か見覚えありますか? 」


 <0.0125秒>


 「それは制御ロスが出た場合に出る数値だな。燃料が入りすぎて不燃焼を感知すると流入量を絞る事だよ」


 先程のキャブレターの話で例えるなら、空燃比がずれてエンジンがノッキングを防ぐのと同じことだろう。それにさっき一瞬光ったタイミングは逆に失火を感知して反応する秒数と同じといわれる。


「ああ、入り過ぎた燃料がロスで、秒数はそれを制御タイミングって事ですね」

「そうだ、実際は0.01255秒だけどな。これ以上大きいと燃料を絞るんだよ」

「ありがとうございます。参考になりました。Aiに聞くより直接聞くのが一番ですね」

「おいアーレイ、モジュールの電源をいれてくれ」


 アーレイが帰ろうとするとゲルベルトに呼び止められ「Aiに頼らず勉強熱心な奴だな」と言われ、モニターにグループ登録のアイコンが現れる。


 「これな全星団の骨のある技術者集団のグループなんだよ、役に立つから使ってくれ」


 ゲルベルトはモジュールのAiを使わずに探求する姿に感銘を受けたらしく、技術屋フォーラムという敵味方関係ない技術屋集団が使うチャットに友達登録された。推測だがきっとスパイ行為など無粋なことはしない真面目な集団だろうとアーレイは思うのだった。


 <<乗降口付近>>


 予定時間を少し過ぎたらしくゲルベルトと挨拶の最中にコーネリアが駆け込んできてしまい、そのまま乗降口に向かう羽目に。


「コーネリア様、ありがとうございました解決のヒントになりそうです」

「それは良かった、ラインスラストに来たときは必ず寄ってください。それではご機嫌よう」


 アーレイが降りると直ぐにハッチが閉まり、エンジンが唸りを上げラインスラストに向け動き出す。


「それにしても美人だったな」


 コーネリアとの出会いがアーレイにとって、とても重要な事になるとはこの時点ではまだ想像すら出来てなかったのは内緒です。

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