第7話 武器と装置。

 クリスはこれから開発する色々な武器や艦船に関して参考にしてくれと、王宮近くの軍事博物館に半ば強制的に向かう。


 <<軍事博物館>>


「おお、スミソニアン博物館と同じか」

「実はアーレイ、本当の目的の場所はここじゃない」


 正面玄関から入ると直ぐ脇の職員通路に向いバックヤードのとある一室に入り、そこには今まで招かれた異星人たちが作った船のミニチュアが浮かんでいた。


「うーん、笑ちゃうなこれ」


 どっかで見た事のある3段式空母や二等辺三角形、海賊マークが入った戦艦が並んでいた。


「カッコばかりで性能が駄目とか、複雑すぎて製造コストが高いなど色々だ。参考にしてくれ」


 昔の映画に出てくる丸いロケットの他には「スター・トレ●ク」のエン〇ープライズそのまんまの船もあり、地球人が作ったと分かる代物ばかりだ。


「いつからリクルートしていたのですか」

「そうだね、時期的には60年前で採用は50年前位からかな」


 やはり思った通りだった。そして次は実際に使われた武器類が置いてある巨大な倉庫へと案内される。


「うわ!何にこれ主砲だよね」


 目の前に巨大な砲身が吊り下げてあり直径3m以上、長さが40m以上もある巨大な砲身が目に飛び込んでくる。間違いなく80万トン級以上の戦艦でないと乗せられないほどの大きさだ。


「これは100万トン級の戦艦、それも旗艦に搭載予定だった主砲だよ」


 想像通り大型艦の砲門だと言われ、破壊力に関しては星団最強の折り紙付きだと教えてくれる。


「これを使えば無敵の戦艦作れませんか?」

「それがな駄目なんだよ」


 話を聞くと数年前に次世代型ビーム砲として開発したものの、強力過ぎて搭載数が最大2門に制限されたらしく「不満は出なかったの」と問うと、とある会議の場でジェフが激怒したものの「作った分の認証を出せるが搭載数は変えられない」と結論付けられたらしい。


「勿体ないな高性能なのに」

「2門じゃ戦えないしそのままお蔵入りになった。星団会議は時として発展の邪魔をする」


 年1人しか異世界人を連れて来られないといった決まりごとも、この星団会議なるもので決められているらしく、クリスは戦争が長引く原因と批判していた。要するにこの会議は戦争中でも3星団の代表が集まり、色々な規制を作り互いにけん制し合う場なのだろう。古木には革新的なアイデアで現状打破して貰いたいのが本音らしい。


「ちょっと街中を歩こう、昼でも食べないか」

「はい、興味あります」


 <<デルタ王国・繁華街>>


 初めて繁華街に向かいながら観察していると若い男性が圧倒的に少なく、時折すれ違う若い女性の目線が2人に突き刺さり声を掛けてきそうな雰囲気だった。


「目のやり場に困るだろう、長引く戦争で男性が圧倒的に足りないので、デルタは一夫多妻制を採用している」

「ならハーレム作れるな」


 男なら一度は夢見るハーレムだけど財力が無ければそもそも無理だ。とは言え士官は高給取りなので声を掛ければホイホイ付いて来て、結婚するまで付き纏われるから注意が必要だと言われてしまう。


「特に君は身長が高く珍しい黒髪を持ち、それに美形だから注意しろよ」


 意外だったのはアーレイはこの世界だとモテる要素の全て兼ね備えているらしい。その中でも日本人なら当たり前の黒髪が大変珍しと言われ、周りを伺えば確かに赤、青、黄色などアニメのような髪色ばかりだ。因みに染めればと聞くと、モジュールを通して天然と見分けが付くので、逆に馬鹿にされると言われたよ。


「ところでデルタの印象は?」

「意外に緑が多く綺麗な国です。流石に建物は近代的ですけど」


 首都デルタを例えるなら緑豊かなクアラルンプールと丸の内を足して2で割ったような街並みだ。凄く古い建物と近代的なビル群も交じり長い歴史観も伺える。


「さあ、店に入ろう何でもあるよ」


 どんな食べ物がまっているのかなと期待しながら歩くと、赤い暖簾の中華料理店を見付け、聞けば地球人が居残り店を出したそうだ。無難だと思い古木その店を選び野菜炒めと水餃子を頼んでみた。


「ほぼ同じ味付けだな・・」


 出てきた料理はそのまんまの中華で、大して違いがなく拍子抜けをしてしまう・・。


 ーー


 <<翌日・士官学校>>


 異世界人は士官学校に入る事が義務付けられ、アーレイもそれに倣い学校の門を潜る。


 校長「アーレイ少尉は特別に戦闘訓練とパイロット養成コースです」

「聞いてねーし」


 普通は座学だけで終えるらしいが、アーレイを戦場に連れて行きたがっているクリスが勝手にカリキュラムを変更したらしい。文句を言っても仕方ないのでそのまま入学だ!


「き゛持ち悪い〜」


 入学当日は座学から始まり約3日間あの強制学習を受ける事になり、アーレイは初日から青ざめる事になってしまう。


「今から30分の休憩に入ります」


 情報量が少ない睡眠学習とは違い覚醒中は何倍も情報を詰め込めるが、脳が腫れる恐れがあるらしく休憩に入りアーレイは気晴らしにグランドに出た。


「おおあれが機甲歩兵だね、まんまロボットだわ」


 街中を想定した通称CQBエリアで訓練が行われ、身長2.5Mほどの機甲歩兵と呼ばれるロボット型のスーツを身に纏った兵士が、重火器類を操作しながら制圧訓練を行っている。


「模擬弾とはいえ凄い迫力だな」


 ビームライフルはスタンモード、チェーンガン空砲を使用しているので、ズバーンとかドン!など銃声が鳴り響き、ロケットランチャー系は爆薬の量を調整しているので、これも本物同様ドッカーンと爆発して迫力満点だ。見学中のアーレイは強制学習で学んだ知識が浮かび上がり、機甲歩兵は隊員の生存率を上げ、火器類の装備品が豊富に選べるのが利点だと思い出していた。


「おっアーレイって確か古木だよね」

「こんにちはキース少尉、訓練教官なのですね」


 一台だけ黄色の教官機がアーレイを見つけ近づいてくる。そいつは探査船で挨拶を交わしたキースだ。有能な彼は猛者どもから鬼教官と名高い。


「まあ何でも屋だな、求められているからそれに応えているだけだよ。君もそうだろ」

「ええ、星団戦争を終わらせれば最高ですね」


 アーレイが星団戦争を終わらせたいと話すとユニットの開口部が開き、信じられない顔をして「本気か」と問われ、出来るかどうか分からんけど「目標は高いほど頑張れるだろ」と答えると、クリスが君を推しただけはあるなと妙に納得していた。何故クリスに好かれるのかは分からんけど、取り敢えずキースは強面だが意外に話しやすくいい奴だったよ。


 <<一週間後・・>>


「ア、アーレイ君は2年生クラスに今日から変更するから(汗」

「教官あざーす」


 強制学習が終わり本格的に訓練が始まりを迎え、射撃、潜伏、制圧、行軍などアーレイは傭兵だった経験を活かし軽くクリアしてしまい、飛び級でクラスが変わってしまう。


「これがプライマーでここに刺して、このタイマー又は遠隔操作の装置に繋げて・・」

「早い・・早すぎる」


 爆発物の取り扱いや対エアータンクミサイルなどの特殊兵器類も仕様が違うだけで、いとも簡単に授業をクリアしてしまい陸軍系訓練は3週間も待たずして終了だ!


「ゲーム好きと船の知識が役に立ったな」

「そーなんですねー(呆」


 戦艦の操船技術に関しては実際にボートを運転していたので抜群の空間認識能力を発揮し、PSのようなコントローラはお手の物で操船に生かされ担当した教官は呆れていた。


「そ、卒業おめでとうアーレイ少尉」

「校長あざーす!」


 そんなこんなで成績表にはずらりとA評価が並び、空いた時間でパイロットの試験にも合格したそうな・・。


 <<士官学校正門>>


「あはは、予定よりも早すぎて1人卒業式かよアーレイ」


 卒業証書を携えデルタ指令本部に出頭せよとの辞令が送られてきていたので、急ぎ正門を潜ると何故かクリスが待っていて、君の用事はこれだと言い放ち少尉の階級章を付けてくれた。


 <<付近のカフェ>>


「中立国のパーツを使った部品共有のテストが控えている」


 近くのカフェに入り軽食と取りながら今日は面白い実験を行う予定だと切り出してくる。


「興味あります、是非!」

「クリスだ、今から2人上げてくれ」


 クリスは快諾を予想していて事前に準備していたのだろう。いつもの転送装置を使いシュンと光の粒子に変わるとフォウルスターの艦橋に送り込まれる。ただしコーヒーカップを持ったままだけどな。


 <<フォウルスター・艦橋>>


 転送後、フォウルスターは足早に実験場となる射撃訓練所へと向かい、2人は俯瞰で見渡せる天体観測室に移動していた。


「新型装置を搭載した実験船が間も無く目の前に現れるぞ」

「ピンポイントでジャンプ出来るとは凄いな」


 天体観測所のモニターにはストップウォッチの様に目減りする数値が示され、ゼロになると目の前の5万トン級クラスの実験船が突然姿を現す。


 アーレイ「おお迫力満点だわ」

 Ai<警告、ジャンプします>

 クリス「なっ!再ジャンプだと」


 実験船はジャンプアウトして出現するが、間髪入れずにショートジャンプをして下手に消えていく。


「実験は失敗だ、あれは間違いなく部品の不具合だろう」


 苦虫を嚙み潰したような顔をするクリスを始めてみたアーレイは、余程悔しかったのだろう。慰めの言葉よりここは持ち前の好奇心を活かすチャンスだ。


「あの船に乗せて下さい」

「なんでだ?」

「気になったからです」

「興味が湧いたのだな、クリスだアーレイを実験艦に転送!」


 <<亜空間航行実験船・アドベント>>


 早速転送されたアーレイは艦橋に入り実験船の船長に許可を取ると急いで機関室へと向かう。そこには小柄だが腕っぷしのよさそうなケヴィンと言う男が待っていた。


「クリス少佐から聞いているので協力は惜しまないぞ」

「ありがとうございます、早速ですが現状を教えてください」


 ケヴィンは仕様書を見せながら説明を始める。イオン交換機がフェデラリー製、燃料制御装置がラインスラスト製、ジャンプコアはデルタ製だと教えてくれた。


「一番相性の良い組み合わせの筈だけど実際に使うとあの通りだ」

「なるほど机上では完璧だと。。」


 機器を入れ替える前に原因追及したいとケヴィンが語り、燃焼系ですよねと問うとコアの映像を確認する事になる。再ジャンプ直前にコアが不規則に動いているのが確認出来たが何故そうなるか謎だらしい。


「デルタ製と比べた時の違いはありますか?」

「燃焼が0.00125秒だけズレるけど許容範囲ですね」


 ジャンプは燃料を制御装置で圧縮し臨界状態のコアに噴射すると発動する仕組みで、先程の数値は噴射時間のズレたそうだ。因みにオーバードライブした後にジャンプを行うと超高熱になり再起動は早くて10分程冷やすのが普通らしい。


「現実には再起動している謎だ」

「コアが冷えない限り再ジャンプは出来ないのが常識です」


 理由はジャンプ終了直後に燃料を再投入すると失火するかコアが溶けて爆発するからだ。なので冷えるまで待たなければならず当然ヒットアンドウェイ戦法は出来ないのが常識だ。容易に思いつくミサイルをジャンプしての攻撃は星団法違反となり、頻繁に星団法に背くと惑星破壊兵器の使用が可能となり法令遵守が普通になっている。


 <<機関室内・会議室>>


 アーレイは場所を移しメーカーが公表している特徴を読み込む。


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 フェデラリー製イオン交換機

「素早い転換、効率の良い送り出し、瞬時に必要量を制御する学習型Ai搭載」


 ラインスラスト製燃料制御装置

「燃料消費を抑えるために細やかな制御、タイムラグをなくすアイドリング機能搭載。今回モデルは初披露となっている」


 デルタ製ジャンプコア

「起動時に燃料を大量に消費する反面、反応速度が早く燃料追加は少量なので消費量は他国製と大差はない」

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 イオン交換機は単純な作りで壊れにくく価格安価で定評のある交換機で、燃料制御装置は低燃費で細かい制御が特徴で反応速度も速い反面、高価な代物だけど省燃費タイプなので長く使えば値段は気にならない。ジャンプコアは各国トップシークレット扱いになり自国生産なのでスペックは未公表だ。


「謎は深まるばかりだな」


 初めて導入した燃料制御装置が怪しいのはわかるが性能はピカイチで何が問題なのかを探求しなければ解決できない。解析ログ、同期信号、送り出しのタイミングなど全てを検証しても原因は特定できなかった。


 <<探査船・フォウルスター>>


 アーレイは機関長と長らく原因追求の会議を行うが糸口がわからず、細かい報告を行うために一旦探査船に戻っていた。


「どうったアーレイ、Aiは原因不明と結論付けただろ」

「Aiは相性と言うがそれじゃない、必ずどこかに原因がある」


 諦めが悪い事で有名なケヴィンは殆どAiに頼らず今まで色々な問題を解決した功績を変われ、実験船の機関長として選ばれた凄腕だ。そんな彼と膝を突き詰め合うアーレイはAiが原因不能の結論を出しても粘り強く結果を出そうとする姿を見たクリスはもしかして化けるかもしれないと考えそして・・。


「分かった、技術士官を紹介するので今から技研に案内する」


 アーレイが使用しているモジュールの解析ログを見たクリスは一目みて技術的な事を即座に理解する能力が高いと判断するとともに、技術的な補完をするためにサポートするチームを既に編成してくれていた。そして技研に向かうためシャトルに乗り込むことになる。


 <<デルタ軍事技研所>>


「今から君を補佐する技術士官を紹介する」


 会議室には3名の技術屋らしき男たちが無心にタブレットを弄り、アーレイが入ってきても気にする様子はない。クリスが声を掛けるまで空いた時間を有効に使うつもりらしい。


「初めましてアーレイ少尉です」


 アーレイが挨拶をすると順にマドック、ヴィック、ライナスの3人がそれぞれと挨拶を交わす。3名とも技術畑を思わせるような雰囲気を出してはいる。


 「アーレイ少尉、皆技術系で階級はあまり気にしないので適当に頼みます」

 「こちらこそ、よろしく!」


 気軽に接するアーレイに対し好感を持った3人はこの後、無茶な要求と発想力でとんでもないことに巻き込まれるとは、今の時点では誰も思っていなかった・・。

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