第10話 肩代わり
「前例のない推薦は認められません」
クラン・ヴァルドの加入の為にAランクになりにきて、俺はギルドでそう言われた。
「分かってた。俺Fランクの依頼しかやってないもんな」
「そうですよ」
「Sランクの奴らが無茶言うんだよ。どうしたもんかなぁ」
「Cランクならオークの一匹でも倒してきてもらえば、認められます」
「なら、今回はそれで」
どうしたもんかな。
今は返済中でステータスがボロボロのはずだ。
一応確認してみるか。
「ステータス」
――――――――――――――
名前:アカジ LV23
魔力:59
筋力:1 返済中
防御:1 返済中
知力:62
器用:72
瞬発:27
スキル:ローン LV5
――――――――――――――
レベルはだいぶ上がったけど、パワーと装甲がスライム並みじゃたまらない。
あれっ、スキルのレベルが上がってる。
――――――――――――――
ローン LV5
十秒間、力を借り入れる事が出来る。
十秒間が終わると返済に移行する。
レベル5では5種類。
サブスキル:
肩代わり
――――――――――――――
肩代わり、なんじゃこら。
――――――――――――――
肩代わり
返済を肩代わりできる。
爪印を押す事で発動。
肩代わりできる量は個人によって違う。
――――――――――――――
こういうのは親類縁者がしてくれるものだよな。
異世界転移者の俺には縁のない言葉だ。
いや、待てよ。
爪印さえ押せれば、いいのか。
なんだ簡単じゃないか。
俺は街の外に出て、スキルを試す事にした。
「【肩代わり】」
光る借用書が出てきた。
捺印の欄がある。
ここに押せばいいのか。
押してくれそうな奴は付近にいない。
おっ、借用書は俺の意思で移動可能だ。
だが、移動速度が遅い。
フェイントぐらいにしかならないな。
よし、樹に押させるか。
それぐらいしかここにはないもんな。
借用書を操作して葉っぱで爪印を押す。
「ステータス」
――――――――――――――
名前:アカジ LV23
魔力:59
筋力:1 返済中
防御:5 返済中
知力:62
器用:72
瞬発:27
スキル:ローン LV5
――――――――――――――
防御の数値が少し戻っている。
筋力の数値が終わらないのは樹に筋力がないからだろう。
そのかわり防御力はあるといったところか。
他に試す事はないか。
そうだ、肩代わりした樹が切られるとどうなる。
ウインドカッターの魔法で樹に切りつけると、あっさり両断できた。
「ステータス」
――――――――――――――
名前:アカジ LV23
魔力:59
筋力:1 返済中
防御:5 返済中
知力:62
器用:72
瞬発:27
スキル:ローン LV5
――――――――――――――
防御の数値は変わってないな。
これで、『肩代わりありがとう。死ね!』アタックが出来るな。
防御のステータスが19だから、あと3本の樹に肩代わりさせれば元に戻るな。
樹に肩代わりさせるのは造作もない事で、無事に防御が元に戻った。
こうなりゃ、筋力を早く肩代わりさせないと。
そうだ、オークを探そう。
見つけたオークは間抜けそうな顔をして、狼をむさぼり食らっていた。
「【ローン】スピードと防御を10倍からの【肩代わり】ありがとう。死ね! 疾風よ刃となりて襲い掛かれ、ウインドカッター」
ふっ、コンボが決まったぜ。
筋力、防御、スピードのないオークなど赤子の手をひねるような物だ。
「では早速。ステータス」
――――――――――――――
名前:アカジ LV23
魔力:59
筋力:7 返済中
防御:19
知力:62
器用:72
瞬発:27
スキル:ローン LV5
――――――――――――――
おっ筋力が少し戻ってる。
一匹じゃ全部は無理なのは分かっている。
筋力は41だから、あと六匹だ。
でも、六匹ぐらいならそんなに苦労じゃない。
じゃないんだが、オークをどうやって持ち帰ろう。
考えてなかった。
くそう、なんか負けた気分だ。
ここはクラン・ヴァルドの緊急救助用の狼煙を上げるしかないか。
これは収納バッグから一つくすねておいた物だ。
「なんなのあんた。救助の狼煙が上がったから来てみれば、オークは既に倒されているじゃない」
アンリミテッドが救助に駆け付けてくれた。
「親切な人が助けてくれたんだよ」
「その人は相当な腕前ね。一太刀で首をはねてる。もちろん名前は聞いたわよね」
「いやその」
「あんたがやったんじゃないでしょうね。持って帰るのが面倒だったとかで狼煙を使ったのなら許せない」
「すいません」
ほとんどばれたので、俺は土下座した。
「やっぱりね。オークの太い首を両断するには相当な力が必要よ。あんたなら楽勝よね。罰としてクランの人間全てにおごりなさい」
「えっ、オークの素材だけじゃ赤字なんだけど」
「知らないわ。働きなさい」
しこたま怒られた上に、俺が他人の獲物を横取りして救助されたと悪評が立った。
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