第8話 酒場掃除
「アカジ、お前いま暇か」
「なんです? ギルドマスター」
俺はクラン・ヴァルドでお使いを頼まれて今終えたところだ。
「Fランク依頼があるんだが。やってくれ」
「場合によっては受ける事もやぶさかではない」
「なに簡単な仕事だ。ギルドの酒場を一日掃除してくれりぁ良い」
「報酬はいかほど?」
「銀貨1枚で賄いつきだ。残り物を食い放題だぞ」
「やらさせてくれ。いや、やります」
「いつも、なんでそんなに金がないんだ」
「皮鎧を買ったら、有り金がなくなっちゃって」
「そりゃ仕方ないな。命を預ける品物に妥協はできん」
さてとお仕事、お仕事。
モップで朝食後で汚くなった床をこする。
むっ、この汚れは食品じゃないな。
ああ、鳥もちか。
俺もそれは愛用していたぜ。
これを剥がすのは大変だ。
特殊な溶液を使わないと剥がれない。
必要経費で落ちないよな。
たぶん、ほっとけと言われるのに違いない。
しかし、俺はマスターオブFランク。
どんな挑戦でも受ける。
「【ローン】モップ三倍速ゴシゴシ」
三倍の力とスピードでこすった。
みるみる剥がれ始める鳥もち。
「もう一丁、【ローン】モップ三倍速ゴシゴシ」
やばい、ここだけ新品の床だ。
「【ローン】床を汚れ無き状態に洗浄せよ、クリーン」
1000倍の魔力で魔法を掛けてやった。
三時間魔法が使えないので、今日は戦闘には参加しないぞ。
クランには書類配達のお使いしか頼まれてないもんね。
「ふう、綺麗になった。給仕のお姉さーん。賄い、大盛り」
朝食の残りのスープとパンとウインナーをしこたま食った。
腹をさすっていたら、どやどやと冒険者が現れ始めた。
午前中の仕事を終え帰ってきたのだろう。
午前中だけで十分な稼ぎをしたのか、その顔は一様に明るい。
「アカジじゃない」
「おっ、アンリミテッド。プリムもいるな」
「クランに顔を出さないで、なにギルド酒場の従業員やってるのよ」
「何って依頼」
「ちなみにいくら?」
「銀貨1枚」
「私なんて午前中で金貨20枚は稼いだわ」
「俺隣の芝には嫉妬しないタイプだから、そんな事言われてもな」
「まあ、頑張んなさい。お姉さん、パスタとミルク」
昼の客がはけて掃除タイムになった。
テーブルと椅子を丁寧に拭く。
ふぃー、労働したぜ。
「給仕のお姉さーん。賄い、大盛り」
パスタをこれでもかと食ってやった。
床を再びゴシゴシとこすっていたら、夕飯時になった。
帰ってくる冒険者の顔は落胆した顔と喜びに満ち溢れた顔が半々だ。
デビット達が見えたので、からまれない様に従業員待機室で休む。
「皿洗いが足りないのよ。やってくれる」
「お姉さんに頼まれたら嫌とは言えないな」
洗い場で山と積まれた皿を前に。
「【ローン】100倍洗い」
器用さ百倍で皿を洗う。
積まれた皿が一瞬でなくなった。
返済は17分だからその間に空いた皿を回収しよう。
ありゃ、皿を割っちまった。
そうか今、器用が1だから。
仕方ない噂話を聞いて回ろう。
「ゴブリンがさっぱり居なくなった」
あるテーブル冒険者がそんな事を言っていた。
俺は噂話に耳を傾けた。
「それな。あいつらは臆病だから、またSランク超えが出てきたのかもな」
「物騒だな」
「秘境の森がなんとかなれば、こういう事もないのにな」
「そうなったら、魔獣が居なくなって、俺達は食いっぱぐれる」
「ちげぇねえ」
ここは女だけのテーブルだな。
「クラン・ヴァルドのSランク四天王って素敵」
「あなたは誰が好き。私は断然ジュエルスターよ」
「私は剣聖様よ。なんと言ってもあの強さは素敵だわ」
女だけの冒険者パーティが雑談に興じていた。
やっぱり一番人気はジュエルスターのようだ。
それと、近隣には後三つクランがあるようだ。
だが、縄張り的な物があるらしくこの街には来ないらしい。
クラン同士の仲は良い所と悪い所があって、メンバーの人間模様も絡むみたい。
もうSランクはお腹いっぱいなんだが、活性化の噂を聞いたら、来そうな気がする。
「クラン・ヴァルド以外だと誰が良い」
「極速様かしら、あの陰のある風情が堪らないわ」
「私はクレーバーかな」
「やだ、あんたショタだったの」
「いいじゃない弟みたいで可愛いわ」
「じゃ大軍はどう、筋肉ムキムキよ」
「汗臭いのはお呼びじゃないわ」
「ブ男だと。一番は臆病罠師とマッドと重厚あたりかしらね」
「臆病罠師は性格が良いって聞いたけど」
「性格がいくら良くってもね」
「マッドは身綺麗にしたら案外いい線行くかもね」
「重厚は傷さえなければ案外いい男なんだけど」
「お近づきになりたくないのは?」
「暴風ね」
「あの性癖は私もお断りだわ。女なのに女好きなんですもの」
「マスコットといえば大食幼女よね」
「うんうん、リスみたいで可愛いからね」
いろんな奴がいるようだ。
何度か皿洗いを繰り返し、夜も更けて客もまばらになったので、掃除を開始する。
いやー、労働も良いもんだ。
危ない目に会わないのが良い。
返済中の俺って雑魚だから、力を発揮した後はいつも不安だ。
「給仕のお姉さーん。賄い、大盛り」
おー、串肉様だ
よし、食うぞ。
こうして掃除の依頼は終わった。
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