第7話 テラスライム

「おそよう」


 俺はクランハウスで元気に挨拶した。


「貴様ふざけやがって。何時だと思っている」

「へいへい、どうやら緊急依頼だぞ」


「緊急要請。緊急要請。巨大スライム発生。至急現場に到着されたし」

「行きますよ。灼筋しゃっきん先輩」


 しゃあねぇな。

 金貨10枚もらえる約束だ。


 現場は都市の前に開けた田園だった。

 都市と同じぐらいの大きさのスライムがのろのろと都市に向けて進行中。


 現場にはアンリミテッドと頬に傷のあるおっさんが既に到着していた。


「遅い。何ちんたらやっているの」

「まあ、そう言うこたぁねぇ。嬢ちゃんは、魔法で飛んできたし、俺はたまたま近くにいたんだから」

「剣聖先輩、とっとと片付けて帰りましょう」

「ジュエルスター、私を無視したわね。覚えておきなさいよ」


「ところでスライムって言えばジュエルスターの管轄じゃないのか」


 俺はそう言った。


「やってみます、【共生】。スライムコアまでの距離が遠すぎて、駄目みたいです」


 ジュエルスターのスキルは共生か。

 なるほどスライムを寄生させても食われない訳だ。


「こんなの切り刻みゃいいだろう」


 そう言うと剣聖は走り出した。

 スライムに近接、剣を振りかぶり。


「【斬撃強化】倍化剣いち、倍化剣に、倍化剣よん、倍化剣はち、倍化剣いちろく、倍化剣さんに、倍化剣ろくよん、倍化剣いちにっぱ、倍化剣にごろ、体があったまってきたぜ。倍化剣ごいちに、倍化剣いちぜろにいよん、ふべらっ」


 倍化剣と言うたびに斬撃の数が倍に増えて行く。

 スライムは切り刻まれ一本道が出来て行く。

 そして、スライムからの触手が何千と伸びて来て、その打撃で弾き飛ばされた。

 あーあ、やられちゃったよ。


「仕方ないわね。業火よ湧きあがれ泉のごとく湧き上がれ、エクスプロージョン【魔法巨化】。……業火よ湧きあがれ泉のごとく湧き上がれ、エクスプロージョン【魔法巨化】。魔力切れ……」


 大爆発が何度も起きてスライムは削られた。

 削られはしたが、コアは無傷だ。


「うおー」


 ジュエルスターが剣を持って突進する。

 触手が何千と襲い掛かりあっけなく弾き飛ばされた。

 結局こうなるのかよ。


「仕事しますか。【ローン】疾風よ刃となりて襲い掛かれ、ウインドカッター」


 俺は魔力1万人分を借りて巨大な風の刃を放った。

 巨大スライムが二つに割れていき、さながらモーゼが海を割ったみたいだった。

 コアも真っ二つになったようだ。

 スライムの体が溶けてきれいに無くなった。


 みんなにポーションを飲ませてやり、事件は片付いた。


「おかしいわね。こんなにもSランク超えが出てくるなんて」

「異常なのか」

「Aランクだって年に一回程度だったのよ。それが立て続けに四体。どう考えてもおかしいわ」

「活性化してるって事だよなぁ。嬉しいねぇ。倍化剣の更なる高みが見えそうだ」


「今日の罰は最初にやられた剣聖かな」

「あんた雑用係の癖に。物怖じしないわね」

「食費も馬鹿にならないんだぞ」


灼筋しゃっきん先輩の言う通り、酒代は剣聖先輩に持ってもらいましょう」

「しゃあねぇな。弟子も連れて行くがいいか」

「いいんじゃね」

「だから、なんであんたが仕切っているの」


 俺達は宴会に突入した。


「倍化剣の一番弟子が芸をやります。果物を十六等分にします。倍化剣いち、倍化剣に、倍化剣よん、倍化剣はち、倍化剣いちろく、はぁはぁ」


 空中に投げられた果物がくし切りになった。


「だらしねえなぁ。十六回で息を切らしやがって」

「俺も、芸をするぞ。果物を二百分割しまーす。【ローン】瞬化剣」


 果物と一緒にさいの目切りになるテーブル。


「おめぇ、なかなかやるな。みんな酔いつぶれていやがる。まったくだらしねぇ」


 翌朝。

 昨日は何かとんでもない事をした気がするが、まあいいだろう。

 細切れのテーブルを見て剣聖が酔って暴れたんだなと思った。


「テーブルの代金も払ってくれよな」

「おう、酒代は持つ約束だからな。まぁなんだ。おめぇ酔ってあんまり暴れるなよ」

「俺は暴れないよ」

「まあいい。名乗っておく。剣聖のザッグだ」

「借金くずのアカジだ」

「おめぇ、俺の門下生になるつもりはねぇか」

「お断りします」

「まあ、てめぇの流派は瞬化剣だからな」


 瞬化剣?

 なんで俺の流派が出来ているんだよ。

 まあいいや。


 俺が宴会で暴れたと悪評がたった。

 なんでよ。

 俺は何もしてないだろう。

 風評被害もはなはだしい。

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