第6話 猫
道端に子猫がいる。
雨に降られて細いガリガリの体が更に細く見える。
馬鹿な奴だ。
どこかで雨宿りしとけばいいのに。
気になって後を追いかけた。
子猫は店の軒先に雨宿りしようとして、でっぷり太った猫に追い払われた。
太った猫はその店の猫だろうか。
子猫はまだ成体には程遠い。
乳離れしてからいくらも経ってない感じだ。
体格差にほどがある。
俺は後ろからそっと近づき、子猫を抱き上げた。
急ぎ足で宿屋に帰る。
「ちょっと、あんた。うちは動物は禁止だよ」
「濡れてて可哀そうだから、拭いてやろうと思ってさ」
「うやむやにして宿で飼おうとしない事だね」
「ちぇっ、分かったよ」
部屋に連れて来て乾いた手ぬぐいでこすった。
大人しいな。
どこかで飼われていたのかも。
依頼で退治した大鼠の皮を鉄串に刺して振ってやると、猫パンチを繰り出してきた。
可愛いな。
飼いたいと思う。
鳴き声がしたら宿の人間にはすぐにばれるだろう。
鼠捕り代わりに誰か飼ってはくれないだろうか。
ノックの音がする。
「開いてるよ」
「あんた、濡れるのを拭くだけと言ったね。さあ、猫を追い出しな」
「今、追い出したら、また濡れるだろう」
「じゃ、あんたも一緒に出ていきな」
「こんな宿、誰が泊まるもんか」
あーあ、追い出されちまった。
子猫が濡れないように懐に入れて雨の街を彷徨う。
「一晩泊めてくれないか」
「その懐の猫はあんたのペットかい。うちは動物お断りだよ」
「邪魔したな」
別の宿に行く。
「うちの宿にも猫がいるんだが、よその猫を連れてくると喧嘩しちまう。この雨で可哀そうだと思うが、すまないね」
「部屋から出さないようにするから」
「別の猫の匂いがすると駄目なんだよ。扉をがりがり引っ掻いちまう」
「邪魔したな」
どこの宿も動物お断りで、一緒に一晩過ごせる所はなかった。
俺は雨宿りする為に廃屋に忍び込んだ。
廃屋の土間の上で焚火をして暖を取る。
「うぼぉぉぉ」
「おっ、ゾンビか。死んだ浮浪者がアンデッドにでもなったか」
100人分ぐらいでいいか。
「【ローン】スラッシュ」
胴体を絶ち切られて転がるゾンビ。
復活する前に焼かないと。
その時、子猫がゾンビの体から魔石をほじくりかえして飲み込んだ。
「こら、ぺっしなさい」
「みぎゃー」
虎ほどの大きさになる子猫。
どうすんだよこれ。
殺すのも可哀そうだ。
魔石の魔力が全ての元凶だと思う。
ならば。
「【ローン】魔力浸透」
1000人分の魔力で魔石の魔力を散らした。
縮んでいく子猫。
そして元通りの姿になった。
「あら、あんた。もしかして依頼がかち合った」
「なんだ、アンリミテッドじゃん」
「依頼のハイゾンビを倒したちゃったの」
「ああ、偶然、襲われたからな」
「またなんでこんな所にいるのよ」
「子猫が居たんで宿を追い出された」
「きゃ、かわいい」
アンリミテッドは頬ずりしたそうな顔をしている。
「優しく抱けよ」
「分かってるわよ」
子猫を抱いて嬉しそうなアンリミテッド。
「何よ。私が子猫にデレデレしたら悪いとでも」
「そんなに気に入ったなら、引き取ってくれよ」
「いいの。本気にしちゃうわよ。後で返せといっても返さないから」
「どうぞ、どうぞ」
「養育費としてハイゾンビの討伐料は貰っておくわね」
「結局、ただ働きか。まあ良いか。子猫と楽しい時間も過ごせたし。いや、ここは。依頼を果たせなかった罰として、晩飯をおごれよ」
「それくらいなら良いわよ」
子猫の額がきらりと光る。
ありゃ、魔獣化は防げなかったみたいだ。
額に魔石が埋まってる。
「その子猫だけど、たぶん魔獣」
「えっ、それにしては大人しいけど」
「額を見てみろ」
「ほんとだ魔石が埋まってる。でも、おかしいわね」
「あー、通りすがりの大魔導士が1000人分の魔力で大人しくさせた」
「そんな事がって。あんた何か隠してるでしょ」
「ひゅーひゅーなんの事かな」
「まあ、良いわ。飲みにいきましょ。プリムにはミルクを上げる」
「その猫にプリムって名前をつけたのか」
「いいでしょ。私が飼うんだから」
「なんかセクシーな名前だな」
「プリム、あんな男は放っておいて、酒場にいきましょうね」
「にゃー」
「待ってくれ、約束が違う」
「ほらとっとと行くわよ」
「はいはい」
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