第4話 鍛冶屋

 おっ、鍛冶屋がある。

 そう言えば装備取られてそのまんまなんだよな。

 剣の一つも欲しい。


「こんちは」


 奥からトンテンカンと規則正しい音がする。


「今、手が離せねぇ。ちょっと待ってくれ」


 大人しく待ちますか。

 飾ってある武器を眺めて時間を潰す。


「待たせたな。注文かい」

「ただ同然の思いっきり頑丈な剣が欲しい」

「馬鹿言うな。物にはふさわしい値打ちって物がある。俺の剣はどれも一級品だ」

「いやな。俺が剣を振るうとたぶん一発でおしゃかになる。もったいない事になるんだよ」

「ほう、俺の武器が一発で壊れると」

「たぶん」

「じゃあやって見せろ」


 俺は裏庭に回り腐った皮鎧と対峙した。

 受け取った剣を軽く何回か振る。


「じゃあいくよ。【ローン】スラッシュ」


 10人分の筋力で振るわれた剣は腐った皮鎧を引き裂いた。

 鍛冶屋にスキルを見せたが10人分の力なら問題ないだろう。


「どれどれ、剣を貸してみろ」


 俺が剣を渡すと鍛冶屋は剣の刃を検分し始めた。


「ふん、おめえ力任せの癖に良くやる。刃こぼれが酷い。スキル任せじゃ剣が泣くな。お前には剣を売りたくない」

「えー、販売拒否かよ。役所に訴えてやる」

「なんと言っても駄目だ」

「俺のスキルには価値がないってのか。頑丈な剣ならミスリルも切り裂ける自信がある。そんな剣があればね」

「ほう、これは俺に対する挑戦って事だな。良いだろう。そこまで言うなら、お前が剣を打て。鍛冶屋泣かせの金属がちょうど手に入ったところだ。普通の筋力じゃ金槌で叩いても凹みやしない」

「なんで俺が」

「ただで剣が欲しいんだろ」

「まあ、いいか。大食いチャレンジみたいな物だと思えば」


 俺は熱せられた金属を前に。


「じゃあいくよ。【ローン】プレス」


 カカカカカカカカカカンと音がしてインゴットが少し平べったくなった。


「おい、なに休んでやがる。金属が冷えちまうだろう」

「実はね。俺のスキル、連続で使えない。二分に一回しか駄目だ」

「まあいいか素人だし。まともなもんが出来るなんて思っちゃいない」


 俺は休み休み槌を振るい、剣を一本仕上げた。


「どうだ、出来たぞ」

「素人にしちゃ上出来だな。魔鉄がこうも簡単に剣になるとはな」

「試し切りしたい」

「馬鹿言うな。刃が付いてないので、砥ぎに出さなきゃならん。柄もこしらえないと」

「これがどれだけ頑丈か試したい。ミスリルの鎧を持って来いよ」

「言ったな。斬りそこなって手を痛くしても責任持てないぞ」


「いいから、いいから」


 俺はミスリルの鎧を前に剣を振りかぶり、少しいたずら心を発揮したくなった。


「【ローン】スラッシュ」


 1000人分の力で振るわれた剣はぼきっと折れて、ミスリルの鎧には傷が出来た。


「ちくしょう、大損だ。ミスリルの鎧を傷物にしやがって」

「言っただろ、一発でおしゃかだって」

「くそう、負けた気分だ」

「剣をただでくれるよな」

「分かった。魔鉄の剣をあと10本打ったら、魔鋼鉄の剣を打たせてやろう。それをただで持ってけ」

「今日は疲れたから帰るけど、約束だかんな」


 次の日から、俺は鍛冶屋に顔を出した。


 最初に魔鋼鉄の剣を打った。

 そして、十本の魔鉄の剣を打った。

 ただ働きかよ。

 なんか、俺って人が良いのかな。


「あーあ、ミスリルの鎧どうしたもんか」

「何が問題なんだ」

「修理に魔力がいる。ミスリルを変形させるには100人分の魔力が必要だ」

「なんだそんな事。【ローン】修理。ほら出来たよ」

「おめえ、ひょっとして大魔導士様か」

「嫌だな。剣士だよ」


「ほら、約束の魔鋼鉄の剣だ。作業している間に砥いでみた。砥ぎに関しては俺の守備範囲外だから期待するなよ。長く使うならちゃんとした所でやって貰うといい」

「これって1000人分の力に耐えられると思う」

「まあ無理だな。よく持って100人分だな」

「そっか。ありがとよ」


「いや、おめえが作ったんだから、礼はいらん。ところで俺の弟子になる気はないか」

「剣作るのは楽しかったけど、仕事にするのはちょっと。創作って趣味だと長続きするけど、強制されると続かない」

「分かった。職人にもそういうタイプがいるよ。ほとんど趣味って奴が。俺の弟子だとそれは困るな」

「そうだろ」


「剣が壊れたらいつでも来な。直し方を教えてやる」

「俺が直すのかよ」

「魔鋼鉄を打てるような奴はおまえしかおらん」

「そうだと思った」


 いっそ、鍛冶屋に転職しようか。

 いや駄目だ。

 俺は趣味を仕事にしない主義だ。

 鍛冶屋は趣味で良い。

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