第3話 オークエンペラー

「こいつ、ギルドマスターに依頼料をさんざん前借りした。借金野郎じゃないか」


 足を踏み入れたクランの本拠地で、俺は蛇の皮の鎧を着た偉そうな男に、そう言われた。


「それがどうした」

「このクランハウスはな。お前みたいなのが足を踏み入れたらいけない場所なんだよ。イラス様の目の黒いうちは許さん。分かったらとっとと去れ」


 この男はイラスと言うのだな。

 何をそんなにむきになっているのだろう。


「俺はこのクランに雑用係として加わったアカジだ」

「ぷっ、雑用係って。俺はまたクランの方針が変わったのかと思った」

「方針って」

「このクランはな。Cランク以上じゃないと加われない。だからお前は雑用係として雇われたんだよ。ポーターと変わりない」

「まあ、それでいいや」


灼筋しゃっきん先輩、行きましょう」


 ジュエルスターが奥から現れた。


「ジュエルスターさん、ちーす」


 ジュエルスターはイラスの挨拶を無視した。

 俺ってこいつに認められているのか。

 いや、回復液を掛けたから、恩義に感じているだけだろう。

 スキルの秘密はばれてないはずだ。


「緊急要請。緊急要請、レマノ村に急行されたし」


 魔道具が声を発した。


「行きますよ。灼筋しゃっきん先輩」


 えっ、俺も行くの。

 回復液が入った収納バッグを押し付けられ俺はジュエルスターと現場に向かった。


 現場に行くと村がオークの集団に襲われていた。

 めんどくさいな。

 スキルで全滅させるなら魔法だな。

 まあ、やらないが。


「ブルーレイジスラッシュ」


 おお、オークの集団も粉みじんだ。


「疑問に思ったんだけど。必殺技を言わなきゃだめなのか」

「クランの決まりです。連携をとるために必要だとか」

「ふーん」


 森の奥からどんどんオークが追加されてくる。


「強酸砲」


 スライムの酸に溶かされるオーク。

 ジュエルスター、こいつ思ったより強いな。

 オーク一体でCランク相当。

 集団ではAランク相当だ。


 まだ余裕がありそうだ。


「応援に来たぞ」


 黒い鎧を着た戦士が駆け付けた。


王打おうだ先輩、村の防衛は任せました」

「おう、分かったぜ。そっちは新顔だな。俺は王打おうだのレイデン」

「借金くずのアカジだ」


 王打おうだは武器を持ってないが、どうやって戦うのだろう。


「俺の拳をくらいやがれ。【流動】キングインパクト」


 拳を振りかぶりオークに対してパンチを突き出した。

 物凄い勢いでオーク達が吹き飛んでいく。

 流動スキルは水の流れなどを操るスキルだ。

 空気の流れを操っているのかな。

 それだけじゃないような気もするが、なんにせよこの男も強い。


 その時、オークの雄たけびが森奥から響いてきた。

 大物がいるのかな。


 突風が吹き荒れ一瞬のうちにジュエルスターが吹き飛んだ。

 ジュエルスターの上半身と下半身がちぎれている。

 見るとオークの三倍もある巨大オークが斧を片手にせせら笑っていた。


「【流動】キングインパクト」


 必殺パンチは斧の腹で防がれた。

 巨大オークは前蹴りを繰り出しレイデンを吹き飛ばす。

 おーおー、どいつもやらちまって。


「おで強い。ざいぎょう」


 オークがそう言った。

 いっちょ前に言葉を喋りやがる。


 しゃあないな。


「【ローン】パンチ【ローン】炎よ矢となりて飛べ、ファイヤアロー」


 俺は巨大オークに向かって拳を突き出した。

 斧ごと体に風穴を開けられあっけにとられる巨大オークと雑魚オーク達。

 巨大オークは一言も言わずに仰向けに倒れた。


 二度目のスキルで魔力を1000人分と念じた。

 十倍の早口で詠唱が終わり、一万本ものファイヤアローが残った雑魚オークを掃討していく。

 片付いたな。


 王打おうだのほうから先に見たほうが良さそうだ。

 俺は収納バッグから最上級ポーションを取り出すと王打おうだの口に突っ込んだ。


「すまんな。手間をかけた。オーク達は」

「あんたとジュエルスターが最後のちからで全滅させたよ」


「そんなはずはないと思うが。そうだな、そういう事か」

「ジュエルスターにスライム回復液を掛けてやってくれ」

「怪我人の扱いが酷いな」

「動ける奴を怪我人とは呼ばない」


 収納バッグから出した樽ほどのポーションがジュエルスターに掛けられる。

 上半身と下半身はもぞもぞと動き一つになった。


「この巨体はオークエンペラーだな。推定Sランク以上だ」

「やったのは王打おうだ先輩ですか」

「そうそう、キングインパクトで相打ちになった。雑魚はジュエルスターが無意識で倒した」


「納得はいかんが、そういう事らしい」

灼筋しゃっきん先輩ありがとうございます」

「なんで俺にお礼を言うの」

「スライムが礼を言えと言ってます」


 意識がない間もスライムは認識しているってか。

 油断できないなこいつ。


「俺からも礼を言っておく。ありがとよ」


 そう言って王打おうだはウィンクした。

 気持ち悪い奴だな。

 関わらないでおこう。


灼筋しゃっきん先輩、打ち上げしますよ」

「そのう、あのな。金がないんだ」

「おごりますよ」

「俺もおごるぞ」

「なら、ぱーっといきますか」


 二人に酒と料理をおごってもらい、それを見ていた他の人間に、ポーションを飲ませただけなのにSランクの二人におごってもらっていると悪評がたった。

 なんでだ。

 スキルの秘密がばれるよりましだが。

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