第10話 狂言って芝居とヤバいじゃ、意味が違うね



※ ハイフン"-"の間は読者様用の翻訳です。錦たちには聞こえません。


 あの店を出てから、ソウサはずっと俺の肩を掴んでる。

肩を組むじゃなくて文字通りしっかと掴んでる。

たぶん逃げるなら俺からだと思われてるな。


 曲がってきた大通りを更に越えて、人気ひとけの多い一角いっかくに入った。

こっちは活気があって商店のような小売りが目立つ。

そのうち一つの店前でソウサは何か言いだした。


「おまえらなのめにふぞな? 人やうとかなひぞ?-

-おまえら普通に食べるんだよな? ヒューマン用とかないぞ?-


 ザッとミシンさんはソウサの腕を掴んで、俺の肩から引き離した。


「いま、をこにするむ? これにもぬしなる」

-そろそろ、馬鹿にするの止めてくれる? これでもあるじなの-


 なんかいつにも増して怒ってないか?

俺にも分かるように、字幕出ませんか?

腕輪にその機能付けてくれると、売り上げ爆上がりだよ?


※ 読者様用の字幕があります。錦たちには見えません。


「すまず、悪気あつきは無かりけれど、これ従者ずさなのに恐れてに

 ぬしまぼる気や無き、少し腹立はらだてり

 なむじが従者なりきとは、主をこにしてすまざりき」

-すまん、悪気わるぎは無かったんだが、こいつ従者じゅうしゃのくせに逃げ腰で

 あるじまもる気が無いのかと少し腹が立ってた

 君の方が従者だったとは、主を馬鹿にしてすまなかった-


「それはどちらにしても、同じ事じゃない」


 ソウサは俺の方を向いて胸に右手を当て、深く会釈えしゃくをした。


「このやり方やあれるな、びむとすれど」

-このやり方は合っているかな、詫びたつもりなんだが-


「さてあやまちたらぬ、あれにも心得こころえらる」

-それで間違っていない、彼でも理解できる-


「それにすとも、主にもきびしきかな」

-それにしても、主にも厳しいんだな-


「これが普通なの」


 このかんのやり取りはなんだ?態度たいどがガラッと変わった。

ミシンさんが話した内容が気になるが、普通の事なのかモヤっとする。

それ以上は怒ってる気がして聞くのはそうと思った。


 ここは食堂みたいだ、久々の食べ物の匂いに腹が鳴る。

テーブル席は五席あるが空きは一席、そこに座るのかと思ったが、

店にいた数名の客が、ジロっとこちらを見て、

何とも言えない表情でそそと食事を続ける。

俺だけ耳が尖がって無いからね、、


「すまぬ邪魔まがすぞ、おくのへうたてしつれゆけ!」

-すまん邪魔するぞ、奥のに案内してくれ!-


 店の全員に聞こえるかのような大声で何か言い放った。

すると厨房ちゅうぼうの方から女性の店員が現れ、

こちらへと言う感じで店の奥に案内をしてくれた。

あまり珍しい生き物は、人目に付かない方が良いよね?

さらわれちゃったり、見世物みせものにされたりするし。

でも俺をオークションに掛けたら大損するよ?


「ふぅ、やうやうしのびてかれし、ここのたなは美味けれど

 いかにもすだくが陰気いんきくさき、しくな思ひそ」

-ふぅ、やっと人目から離れた、ここの店は美味いんだが

 どうも集まる奴らが陰気いんきくさい、悪く思わないでくれ-


「気にせで」

-気にしないで-


「日ごろには、かたきかと思へど、やをら聞け」

-いまは、難しいかと思うが、とりあえず聞いてくれ-


「難しいけど、聞いてくれって」


 ミシンさんが訳してくれるのか、

きゃあ! ミシン・ベーカー先生ステキ!


 その後ソウサが頼んだ料理を口に運びながら、

俺たちが誰なのか、何故あの苛烈かれつな砂漠から現れたのか。

人属ひとぞくはまだ存在してるのかとか、着ている服の事だとか、

髪が真っ黒なのは何故だ?などなど色々と聞かれた。

ソウサは仕切りに俺の左腕を見ようとしていて、

腕時計が珍しいんだろうな~というのは分かった。

ソウサは興味と人属の知っている知識で質問をしてきた。


 向こう側斯の地の事は、ぼやかしつつ出来る範囲で答えた。

こちらも質問を仕掛けてみたが、ミシンさんも悩むほど、

腕輪の翻訳はうまくいってないようだ。

爪切り女性の店には、食事が終わり次第しだい戻ると言っている。

"楽しみにせよ"という分かりやすいめで、ご相伴しょうばんにあずかった。


「さるほどにいとど、なんぢらの事がなかりそ」

-さていよいよ、おまえらの事が分かるな-


 ソウサが張り切ってるのがわかる、テーブルで会計を済ますと

立ち上がり給仕きゅうじの女性に"ひと言"ふた言"何か伝えている。


「かたじけなくさうらふ、またしたまへ」

-ありがとうございます、またお越しくださいませ-


 給仕の女性はお辞儀じぎをしながら、ニコッとお見送りしてくれた。

ミシンさんに靴のかかとを蹴られたのは、たぶん気のせい。

食堂の個室からホールに出たが店に客は誰一人いなかった。

なんか俺のせいで悪い事してしまった様で気が滅入めいった。


 来るときはソウサに肩を掴まれてたせいも有ってか

街並みをよく見れなかったが食堂の周りは、

食材を売る店、食器や雑貨のような品を扱う店が多い。

ただ店先から俺たちを見る視線は、

あの化け物を見るものと、そう変わらなく感じた。

まあここは"おのぼりさん"をえんじよう、それが自然だよな。

ソウサはと言うと、、ものすごくご機嫌な様子で足取りが軽い。

ミシンさんは、、、まぁミシンさんだな。


爪きり屋の前まで来ると店の入り口から黒煙が上がってる。


「、っっとアレまずくない? 店燃えてるじゃん!」


 慌てたがソウサが腕を出し俺を制止せいしする。


「ものならぬ、ためしの事、例の事」

-問題ない、いつもの事、いつもの事-


 黒煙立ちけむる店の中へズカズカ入っていく。

店全体から煙臭いというか、薬の臭いが立ち込めている。

燻製くんせいは白い煙だけど、黒いからディーゼルの排煙はいえんみたいだ。

煙の中からソウサが顔を出し、手招てまねきしている。


「いかがせり? ?」

-どうした? 入って来いよ?-


 なにを嬉々うれうれと煙越しに言ってるの?

火事から助かった人か、焼き鳥屋の暖簾越のれんごしみたいだぞ。

一飯いっぱん恩義おんぎもあるし、恩をけむに巻くってのはダメか。

もう~仕方ない行くか! 意を決して店に入るが

中はちっとも煙くない臭いは相変わらずだが。

爪切り女が店の中央でドカッと座っている。


「おそし! こなたはすでにえたりといふに!」

-おそい! こっちはとっくに出来てるって言うのに!-


飯屋いひやさかがりたりて、これにもとみにしぞ」

-悪い飯屋で盛り上がってて、これでも急いで来たんだぞ-


「嘘かな~、かのたなうまやすしけれどれよ、

 かくかかるわけなし! おほかた日ごろきみは、、、」

-嘘でしょ~、あの店は美味いよ早いよ安いよが売りでしょ、

 こんなにかかるわけない! 大体いつもあなたは、、、-


 言葉が分からないのに、すごく内容が分かる。

アレだ週末の夜に駅のホームで見たことある。

イチャコラを見せられてるみたいで非常に不愉快ふゆかいなのだ。

叫んでる爪切り女の顔はほんのりあかく、まんざらでもない感じだし、

ソウサはソウサで半笑いだし困り顔でヘラヘラしてるし、

爪女の腰とも尻とも言えない微妙なラインをバンバン叩いてるし。

ここはもしや、、、未知の男女がうたげもよお相席屋あいせきやか?

へー初めて来たーこういう店なんだーふーんホントにあるんだねー、、、よいしょっと。


「んじゃ俺見たいテレビあるんで帰ります」

「わたしあーゆーノリ嫌いなの帰る」


 俺たち二人はクルっと回れ右して心の野戦病院やせんびょういんへと敗走はいそうした。

煙に巻かれて粉塵爆発ふんじんばくはつしろ! リア充共め!!!


 心なしか煙がピンクに見えたのは、涙でプリズムしたからだろうか。


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 俺たちは店の外で8分待った、待つしか無いよね。

爪女が艶々つやつやで出てきたら、ここはネイルサロンになるのか。

煙の収まった店からソウサがキョロキョロしながら出てきた。


「などかなんぢらいづこか行く!」

-なんでお前らどっか行っちゃうんだよ!-


「我ら邪魔かなとて、、」

-私たち邪魔かなって、、-


 まぁ確かにお邪魔だったよね、コレどう言い訳する?

  たわごとなど、ききたくない

  わ!

俺は別に兄弟子あにでしではないが、こう言ってやりたい! わ!


「すまぬすまぬ、これ作りてもらへるなり」

-すまんすまん、これを作って貰ってたんだ-


 そう言うとソウサは、親指ぐらいの太さのシルバーの輪っかを見せてきた、

身振り手振りで耳に着けろと言ってる。イヤリングか、、、

、ハァアァア!?またお前のリア充アピールですか?

これ着けて今度は俺らもパーリーピーポーですか?

俺がこんなの着けたらサイレンピーポー鳴りますわ!

御用ごようもないのにおなわにされるわ! 彼の世こっち怖えわ~俺をためすわ~

金属アレルギ―無いけど、なんか別のアレルギー発症はっしょうしそうですわ!


イヤリングを手に取るのに5分も掛ったのは、


俺のせいではない。

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チョキンとミシン ~パラドックスは足元が見えない~ トチ @tochi_tyokin

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