第9話 関東の人がボケて、関西の人がツッコむ漫才知りませんか?



※ ハイフン"-"の間は読者様用の翻訳です。錦たちには聞こえません。


 化け物の死骸しがいを左に見ながら、村の入り口の

岩で出来た柱の方へむかう、50代ぐらいの男が長い金属の棒を持って

化け物の残骸ざんがい、と言ってもほぼ炭になったソレを片付けている。


「こうぜん、少しき休まばいかがなり?」

-疲れたろ?、少し休んだらどうだ?-


安穏あんのんなり、やるがあり」

-大丈夫だ、やることがある-


「ほどほどしせよ」

-ほどほどにしろよ-


 何を言ってるんだ?休むとほどほどは分かるが。

後ろを見ながら、案内の男が話しかけてきた。


われ"ソウサ"とまうす、汝等なむぢらなんぞかたき言の葉に話すなり

 なのめに話すべからむ、言の葉や分からぬ?」

-俺の名前はソウサ、お前らなんか小難こむずしい言葉で話すな?

 普通に話して良いぞ、それとも言葉が分からないか?-


うん古い!言い回しというか古語の勉強をしているみたいだ

文系じゃないから、そういうの苦手なんだよな。

一つを置いてミシンさんが答えた。


「我にも"ソウサ"の言の葉が、かたくきこゆ」

-私にも"ソウサ"さんの言葉が、難しく聞こえます-


ソウサと名乗った男は、前を向きなおし。


「そうなりや?そはゆゆし!」

-そうなのか?そりゃ大変だ!-


ハハハハッと豪快な笑い方を返してきたが、笑い所が掴めない。


「こなたにもろともにはせまほしき奴あり」

-こっちに来てくれ、合わせたいヤツがいる-


 村の入り口を通過すると、正面に広い道路、左右に細い路地があり、

石で作られたそれほど高くないへいと、同じような石で出来た家屋かおく

村の入り口から真っすぐ通る道は、大通りといった感じだろうか。

夜になればベリーダンスのショーとかもありそうな景観けいかんだ。

大通りから小道が、いくつも張りめぐっているが人影はまばら。

さっきの化け物のせいか、男達だけがあわただしい。


 ソウサと名乗った男は、おそらく通りを真っすぐに行った、

ひときわ大きな家?屋敷?に案内するつもりだろう。

村長とか領主りょうしゅとかが出てきて、何かイベントやらされそうだが。

と思っていたら、町の中心の大きな十字路で左に折れた。

数メートル進んだところで、何か店の様な前で止まった。

看板らしきものはあるが、字が全く読めない。

イラストもあるが、"くくく"の下に"しーノ"みたいな絵文字で、

まるで銭湯のマークみたいだった、水は貴重だし風呂って事はないか?

ソウサは自分と俺たちを指差し、店に入るよう進めている。

大丈夫か~コレ?警察ドキュメントとかである、

ぼったくりの店だよな、逃げるか?まだ間に合うか?


「いかがせり、らずやかしこしや?

 安穏あんのんなり、取りて食ひはせず」

-どうした、入らないのか怖いのか?

 心配すんなって、取って食ったりしないから-


 ソウサは困ったような表情で、右の口角こうかくを上げてあごで行くぞと、

店に入るようにうながしている。

ヤバくなったら最悪ミシンさんだけ逃がして、俺が引き受けるか?

俺はミシンさんより前に出て、ソウサの後に続き店に入った。

店の中は壺や小瓶、幾重いくえにも重なった布、見たこともない草等

これが売り物なのか?といったラインナップだった。

あまり光を取り込んでいないからか薄暗い、壁にはあのイラストも。

それから香辛料とケミカルな匂いが混ざった、みぞおちに来る臭いがする。

ここは何の店なのか?だが中に店員はいない。


「コンリーありや?あらばいでこなん!」

-コンリーいるか?居たら出てきてくれ!-


 店の奥のカーテンで仕切られた部屋から、足音がする。


「なに?ソウサなる?かほいだすとてありがたからずや」

-なに?ソウサなの?顔出すなんて珍しいじゃない-


 気怠けだるそうに頭をきながら、ユラっとカーテンをくぐってきた。

上から下まで真っ白なローブ?ガウンの様な服を着た女性だ。

アレだシ〇マだいやしの魔法とか使いそう。


「そなたはどなた?しためしな、、あれ!人もあれど?!」

-そちらはどなた?見たことない、、ちょっと!ヒューマンがいるけど?!-


「な?ゆゆしからん?人が生きたりしぞ!」

-な?すごいだろ?ヒューマン生きてたんだよ!-


 ソウサは少し興奮している、人が生きてるってのは由々ゆゆしいのか?

女性は珍しい生き物でも見るかのように、目を輝かせている。


「されどこうぜしことに、古人こじんのごとく、さほど言の葉こそつふじね、、」

-でも困ったよ、古代人みたいで、あんまり言葉が通じないんだよ、、-


「さて、ここにきたしためしか、、あからさまにほどかかれどし?」

-それで、ウチに来たって事ね、、ちょっと時間かかるけど良い?-


きもしも、われはいかがすべからねばな」

-良いも悪いも、俺にはどうすることも出来ないからな-


 ローブの女性はコクンとうなづき、店の中の草やら壺やらを集めはじめた。

店の真ん中にそれらを集め終えたところで、俺とミシンさんに近づいてくる。


「いくらかに手いだして、爪もらふなり?そや髪いともらへばぞ?」

-ちょっと手を出して、爪切るわよ?あと髪も数本貰うわね?-


 女性は俺の方へ、手の甲を見せてきた。

シャルウィダンス?俺踊れないんです、リードして下さいね ///

下からその手をすくおうとしたら、手のひらをビシっと叩かれた。

、、ミシンさん、なにすんだ!

合法的に女性と手を繋げるんだぞ!邪魔するな!

家でサッカーの試合を見た時にした、母ちゃんとしたハイタッチが最後だぞ!

それも三年前のベスト16の試合から、異性の手さわってないんだぞ!


「なんぞ?」


ミシンさんは冷ややかに言った。


 俺はこの時とんでもないミスをおかしている事に気付かなかった、

三年ぶりに"お手"で異性とふれれあった事に、

そしてその行為に気付かないアホおれに向けられている視線を、、、キッ!


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 なんか凄い道具でてきた!小さいギロチンみたいな。

紙をまとめて切断するみたいな、嘘でしょ?それ大丈夫?

下ろす棒が、なんかゴツくない?そんなに力いるの?

え?爪切りなの?ミシンさんが教えてくれた。

爪一枚切るにしたって大袈裟おおげさじゃない?

せっかく女性に手を引かれたのに、みずから引っ込めた。


俺は彼の世人かのよびとに初めて口を開いた。


「爪だけ、爪だけ!指なしダメ、指だいじ!痛いナシ、痛いナシよ!」


 カタコトにも程があるだろ、思い出しても恥ずかしい。

梨の妖精でもいたかな?俺は何汁ナニジルブシャーするんだ?たぶん血液だろう。

二十歳はたちえた男が言う事じゃなかった、周りも引いてる。

アホ丸出しというか正にアホおれである。


「しか恐れずとも安穏あんのんぞ、やがてはれば」

‐そんなに怖がらなくても大丈夫よ、すぐ終わるから-


「アンノンてなに!ポ〇モン?名前一緒なのに形が違うの!?

 やがて終わればってどゆこと?終わっちゃうの俺!?」


 ソウサに腕とひじを押さえつけられて、十三階段を一気にけ上がった。

方眉かたまゆ上げてあきめろと言った表情だ。拷問器具ごうもんきぐ被験者ひけんしゃあつかいだと思った。


「しか動くと怪我けがすよ?」

-そんなに動くと怪我するわよ?‐


「それどゆ意味ぃい!けがされるの?ヤダ!怖い!痛いナシよ!!!」


 女性はグイと"握り手グリップ"を下げた、、手を置いた台座側がピカッと光ると

またたく間に右手の爪が綺麗に切りそろわれた。


「、、、えいはり、すくよかかし?爪切るうひめてなる?

 人ほど、さほど爪伸びぬかしら?-

-、、、はい終わり、元気ね?爪切るの初めてなの?

 ヒューマンって、あんまり爪伸びないのかしら?-


 みんなめて見ないで、だって初めてはなんでも怖いじゃん。

初めてには優しくするって言うでしょ?えっ言わない?

その後左手の爪も揃えて貰った、もう怖くないもん。

それから髪の毛を数本抜かれた、こっちの方が余程よほど痛かった。

なんかDNAサンプルを取られた気分だ。


「なればつくりにれば、とばかり何処いづこかへきたれ」

-じゃ調整に入るから、しばらくどこか行っててよ-


「むかれり、これらひいきいひにもひにき」

-ん分かった、こいつら貧相ひんそうだし飯でも食いに行くわ-


 ちょっとミシンさんがムッとしてる、意味が通じてるのか?


「ミシンさん?あの男なんて言ってるの?」


「痛いナシー痛いナシよー」


はは~ん、さてはこの事、一生ネタにする気だな。


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