第4話 他人が勝手にオチを付けるのは、よくない事ですよ


「この時計正確か分からないんだけどさ、もう二時間くらい落ちてない?」


 一時間前には見えてた落ちた穴の白い点も今は見えない。

ミシンさんはポカンと片眉かたまゆを下げながら。


 …えっ? なんですか?… の口をしてる。


 落下の風切り音で声が聞こえない。

穴に落ちた時から魔の手は消えてなくなったけど。

落ちた先が地面だったら、あっちに着いた瞬間スライムじゃない?

ミシンさんは胸元から取り出したメモ帳に何か書いてる。

けっこう冷静だな、なになに?


 ― モってるウデワ 1つわたして ―


 字が汚いのはこの状況だから仕方ない。

あのオシャレなやつ腕輪なんだ? 手から手へ渡し終えると。

ミシンさんは右手に腕輪を着けたそく次のメモを俺に見せる。


 ― キンも ミギテにつける ―


 これはペアブレスレット!おそろい! ヘラヘラしてしまう

ミシンさんは油虫か三角コーナーの裏でも見るかのような目である。

泣ける国民的アニメの劇場版でも泣かなかったのに、ド〇泣きしそう。

いやコレは風だ巻き上がる風が、目に当たって涙が止まらないんだ。


 俺が腕輪を着け終えるとクルりと体を下側へ向け。

俺の靴の裏に自分の靴の裏を合わせ、勢いよく下へ向かって跳ねた!

あっという間に見えなくなった、、、え? ミシンさん? なにしてんの?


 いくらか俺の自由落下もゆるやかになったような? 気のせいか。

少しでも落下の衝撃を和らげるつもりなのか?

落ちてる事には変わりないけど、もしかして地面が見えたとか?

彼女の行動は俺の範疇はんちゅうえ混乱しかなかった。

風のせいだろうか腕輪の揺れが一段と激しくなる。

甲高かんだかいキーーンという耳鳴みみなりの様な音がした。


 ポスン? 地面に座ってる? ホワイトアウトに目がくらむ。

ミシンさんが下に跳ねて? 揺れてる腕輪を見てたよな?

なんで? 落ちてたよね? なんで地面にいる?


 空の方からバタバタと布が空気で暴れる音がする。

その音の先、太陽の光の中にうっすら人の影がみえる。


 細めていた目がそれをとらえるまで数秒と掛からな、、ビクッ!とした、

あれヤバいだろ!? ミシンさんが落ちてくる!

"親方! 空から女の子が、、" ってそんな速度じゃない。

ヤバい受け止めなきゃ! でも支えられるのか?

俺潰れるかも! でもなんとかしないと!

落下点はこっちか? 砂がまとわり付いて走り辛い。


「フィー〇ド全開ッツ!!」


 ちょっと無理です、だって14歳じゃないし、

俺のシンクロ率一桁ひとけた切ってるだろうし。

ミシンさんが鬼の形相ぎょうそうで叫ぶ!


「じゃまぁぁぁああああぁぁぁ!!!!」


 咄嗟とっさに飛び退いた、


 ―ドオォォォン゛ンン!!! ッッツッッ、、、サーーーー―


 一面砂煙すなけむりが舞う砂埃すなぼこり臭い、目に砂が入りそうで目を細める。

横座りのような体勢たいせいの俺は、ミシンさんが落ちたであろう場所に目を向ける。


 ミシンさんは爆心地の中心に立ち平然へいぜんとしている。


「あなたは死にたいの?」


 いつもの顔で冷静に言う。


 ミシンさんの耳はがっていた。


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 ミシンさんが言うには。

自分が先に地面に着いてから体を入れ替えたとの事。

なにを言ってるのか、まだ理解が追い付かない。

"彼の世" にれ元の種族を取り戻したのだとも言っている。


 そうか彼女は … 俺とは違うのか人じゃないのか …


 先ほど身に着けた腕輪は "輪転りんてんの腕輪" と言う導具で、

腕輪を身に着けた者同士の位置を、瞬時に入れ替えるらしい。

離れていても話が出来たりと便利ツールなんだと、秘密道具アレなヤツだな。


「キンは弱い、何かがあって襲われたとき

 瞬時に位置を入れ替えれば助かるかも、、、助けないかも」


 最後の一言が不穏ふおんだ。


「とりあえずスライムに為らずに済んだ、ありがとう助かったよ!

 でもミシンさんは俺なんかに付いてきて良かったの?」


 目をらし不満そうに言葉を返すミシンさん


「スライムの方が可愛かわいげあるかも

 私の祖先は元々こっちの住人だし

 このだいは私が行くことになってたし」


 それ "悪いスライムじゃないよ" の方だよね

俺が言ってるのは古式こしきゆかしい、ウィザー〇リィの方ね。

この代って事は世襲せしゅうがあるのか? なんか申し訳ない。


 ミシンさんは眼鏡を外しながら


「もういらないな」


 腰に下げたサコッシュに眼鏡をしまう。


「見えるの?」


 目の良い俺は、ちょっと格好付けた。


「私の種族は目が良いらしい、それにこの耳じゃ掛ける場所が合わない

 、、、お爺ちゃんから聞いてはいたけど、本当に変わるんだ、、」


 耳以外の見た目の変化は無い様だ。

若干まつ毛が長くなっているような。

久しぶりに正面の顔を見せて口を開く。


「キンは変わらない、なにそれ?」フンス


 酷い辛辣しんらつすぎる俺に選択権が無いのに、

ミシンさんから拒否権が発動している。


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 それにしても暑い、俺は着ていたジャケットを腰に下げ。

中に着ていたフランネルのシャツを、砂漠のたみの様に頭に巻いた。

上は長袖のカットソー1枚、下は冬物のカーゴパンツだが、

これ以上はさすがに脱げない。

ミシンさんは腰に巻いていた薄く透けるスカーフを、

器用に頭に巻きはじめ目と耳以外は上手に隠した。

異国の服はこの陽光ようこうでも涼しそうに見える。

肌は赤くもなっていない色白はやっぱり暑くないのか?

レフばんみたいに反射するのか?


 ミシンさんはピクッと耳を動かし何かを感じたようだ。


「とりあえず一所ひとところとどまるのは良くない、移動しながらココの事を話す」


 遠い目をしながらミシンさんは歩き始めた。


 俺たちがいるこの場所は西の果て、化け物からは遠く離れた島にいるらしい。

いきなり化け物の前に飛ばされても、ガッツリ即死すおちる自信あるしな。

普通RPGじゃ最初の町の周辺には強いモンスターとか出ないしな。

ただこの辺りは町とかなさそう。

足元は砂地、りなす砂の山、砂山の背に上っても見えるのは砂。

砂山の上に登るために足を進めるが砂が流れて踏ん張りもかない。

日に当たるブーツは、そこにだけ異常に熱が伝わる。


 ミシンさんは時折ときおり、先行して高めの砂山の上から周囲を見渡している。

プレーリードッグがの周りを警戒するように。

俺目線だと可愛いが本人には言えない。

今日からミシンスタグラム始めて、俺の記憶でフォローしようかと思う。


 歩けど歩けど水場どころか日陰すら見当たらない。

何時間歩いただろうか、砂の稜線りょうせんから抜けて、

砂地ではあるが平坦な場所に出た。

食料いや今はがないと化け物どころの話ではない。

日の光でからびて死んでしまう。


 そしてまだ太陽は真上にある。


「ちなみにミシンさん何処どこに向かってるんスか?

 体力的にヤバいっス肌がジリジリしてげそうっス」


「肉はくさりかけが美味おいしいって言うのに、

 げたら不味まずいわね」


 、、、まだ死なん!


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 あれは蜃気楼しんきろうだろうか、本物を見たことないから分からない。

砂の一部に黒い影のような部分が見える。

あそこはきっと涼しいかも、、ミシンさんもきっと、

そこを目指しているに違いない、遅れないようにしないと。


 水飲んだの何時いつだっけ? キャンプの朝に飲んだコーヒーは覚えてる。

コーヒー美味うまいよね? 味しなくても美味い。

頭から浴びるように飲みたい出来れば冷たいやつ。

砂漠で砂掘ると水出るって、なんかで書いてあったな。

 

 なんで読んだっけ忘れたな、、なんか暗いな、、見えてるのに、

、視界が狭いのか、、、コレは、

、、、アレ? 上下が分からん、、笑え、う  わ、、、


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「、、ン! キン、、キン! 起きろ! 焦げるな!

 こ、じゃぁ星見れないから! 起きて、ょ、、!!!」


 痛っいなぁ、たたかれてる、グーでなぐられてる?


「目あけて! あけてょぉお、、ぁけてってぇ!!!」


 顔にポタポタ雨が降ってきた、、、

胸にポコポコこぶしも降ってるみたいだ。

恵みの雨かな? 天から慈悲じひが降りそそいでるのか?

神の鉄槌てっついとか言うし慈悲ってけっこう痛いんだな。


 でかい斑点模様はんてんもようのキノコみたいのが見える。

近いのか? 日をさえぎってくれてるけど、あそこの距離感が全くつかめない。

ベージュのキノコのかさなんか質感が "きな粉" みたいだ。

残った水分全部、られそう、太ももがひどく痙攣けいれんしてる、

ここはなんかかげっていて心地ここちがいい、、、あ゛ぁ頭痛がひどぃ。


 少し顔を下げると、ミシンさんが泣いている。

眉間みけんに大きな縦線たてせんが二本、くち四国しこくみたいな形して、ボロボロ泣いてた。


「、キン、、あんた弱いよ、なによ、、、 "彼の世" 救うんでしょ?

 勝手に焦げないでよ、いき止めないでよ、、

 んでるんじゃないかって、、心配させないでよ、そういうのホント困る!」


 そう言い放つと、そっぽを向いてしまった。


 ゴメンの声も出ない。


 ・・・・・・・・・・だってしょうがない・・・・・じゃないか ・・・・・・ただの人間だし


 声が出なくて良かった。

これは彼女を傷つけてしまうヤツだ。

俺ってホント嫌なヤツだ。


「とりあえず、ここにいて水探してくる」


 そう一言げると、手首で腕輪をクルっと一かいまわしてから立ち上がり、

やっぱりプレーリードッグみたいに辺りを見渡した後、脱兎ダッ!と疾走はしりだした。


 目を真っ赤にらし尖がった耳ともあいまって、


 砂をねるウサギみたいに見えた。


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