第5話 たまに間違って、真面目な人に突っ込んじゃう事あるよね


 たぶん一時間は経ってないかな、ミシンさんが戻ってきた。

俺が横たわっている場所は、大きなキノコのかさの下って表現がぴったりだ。

あれが玉ねぎだったら、貯金箱こわしてチケット送らなくちゃいけないところだ。

日陰のおかげで、俺の命の陰りはおだやかになっていた。

ミシンさんは少し大きなオレンジのような物を持って近づいてくる。

砂漠で果実なんて贅沢ぜいたくだな。


「はい、これ」


 それはなんですか?完全にド〇クエのスライムですよね?

色オレンジだから、ベスかな?

ミシンさんはサコッシュから、舌きり雀に出てくるみたいなハサミを取り出すと、

ベスの先っちょ? のった部分を切り落とした。


「吸って」


 いやいやいやいや、それ体液ですよね? スラじるですよね!

砂漠じゃサボテンが緊急の水分補給になるとは聞いたことあるけど。

それ生き物ですよ? 見紛みまごう事なきモンスターだもん。

毒とかアレルギーとかあるっぽくない? 目っぽいのもあるし、瞳孔開いてるし。

首を横にフルフルる俺を見ながら、なんか言ってる。


「アッチデ ナッテタ実ダカラ 実ダト思エ! 私モ吸ッタ大丈夫」


 なんでカタコトなの? 吸った事でベスに精神乗っ取られたの?

説明が雑だし、思えってなに? 大丈夫って聞きたいのは俺のほうだよ!

、、、でも、、、でもこんな所で干からびて死ぬのは嫌だ。

生きて成し遂げなくちゃならない事あるだろ!

そう!モテるんだ! ベスに乗っ取られても! ベス コミュ力高そうだし!

決心着けて俺はベスに吸い付いた、、、

うぅ、、、? 甘い! なんだこの生き物は、スライムってじつは甘いんだ!


「それ "カヨウの" って言うの、あっちのキノコみたいな木の近くに

 群生する果物? みたいな植物、知識は有ったけど本物は初めて見た」


"カヨウの実" は砂漠を移動する人は必須らしく、飲み方もこれが正しいらしい。

それを先に言って欲しかった、もう1ベス欲しかった。


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 "カヨウの実" は食べられたものじゃない。

千切れない風呂のスポンジみたいな触感だ。

表面はつるっとしているのに、中は固い繊維質の集まり。

それでも水分補給には十分で、マンゴーと苺を合わせた様な味だった。

いちおう今後の事も考えて、ミシンさんが採ってきた残りの実は、

持って歩くことにした。


 大きさが野球のグローブぐらいあるから、地味に邪魔だ。

片手に二個持ったらやっとで、見た目に違わずそれなりに重い。

水筒みたいな使い方をしたいが、蓋になりそうな物もない。

とりあえずは次の日陰の、休息地まではもって欲しい。


 カヨウの実で水分を採りつつ、2時間ほど歩いただろうか。

途中ミシンさんに話しかけるも、身が安全になるまで、

無駄な体力は使わない方が良いと諭される。

確かに話すと口から水分が蒸発するのが分かる。


 時計があった事を思い出し見てみると、19時20分を指している。

ソーラーだから電池切れの心配はないが、

今の時間が分からない。電波時計はこっちの世界じゃ合わないよな。

日が傾いてきた、あっちの感覚で言うと夏の夕方5時ぐらいかな、、

また蜃気楼のような影が見える。

今回は意識がはっきりしてるから、倒れる予兆じゃないな。


ミシンさんがスッとその方向を指差し


「あの下で休む、夜を越す」


 やっと休める、寝ても平気なのだろうか?

夜の砂漠ってサソリとか蛇とか出そうだよね?

二足歩行のロボは出ないだろうけど。


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 顔がヒリヒリ目がチリチリする。

日焼けだな、帽子もサングラスも無いし。

日焼け対策なんて、生まれてこの方したことが無い。

倒れながらも一日歩いてクタクタだ。

生死を彷徨った事も今となっては、どうでも良くなっている。


 そんな俺を遠巻きに見ながら、ミシンさんが口を開く。


「日が落ちる前に、持ってきた導具について説明する」


 もったいぶったのか、必要に応じて説明するつもりだったのか?

淡々と滑らかに話し続ける。


「黒い真円しんえんの板は "離受盤りじゅばん" と言う、

 日が落ちた後にしか使えないし、使うのにも対価が必要」


んー何が出来るのかさっぱりだ。対価ってやっぱり俺の生命力いのちとか?


「"離受盤" の対価には、こっちの説明しないといけないから、

 この通帳も説明するね」


「ねって、」ボソッ、、


「真面目に聞く気がないなら止めるけど」


「ごめんなさい、つい、、」


 可愛かったとは言えない


「メモ帳みたいな冊子は "世錦通帳よきんつうちょう" って言う、

 簡単に言うとキンが斯の地で、収入消費した事柄つまり、

 購入した品とその金額が記載されてる

 銀行残高や所持金、どう稼いだかもわかる」


 やだぁもぉ~/// 俺のプライバシー丸裸。

世界が変われば物価も違うんだから、なんか意味はない気もするけど。

しかし預金通帳ってそのままだな。


「ここからが重要、 "離受盤" は日に一度だけ、

 "斯の地" でキンが買った物を、 "彼の世" に運ぶ事が出来る

 その際に対価として "世錦通帳" の残高が、向こうの定価分だけ減る」


「なにそれ!? 凄い!」


 口がっとなった。


「"斯の地" で買っているのに "彼の世" に持ち込んでないからで、

 あっちとこっちで重複して所持できるわけじゃない、

 斯の地に存在していた、キンの持ち物が彼の世に転移してくる。

 ただし食事や娯楽、教育として使用した金額は載ってない

 その金額を "世錦通帳" に上乗せすると、

 キンを成長させてきた構成物質が消える、

 イコール キン自身の存在が消えてしまぇい。

 ただでさえ頼りない頭が、一層お粗末になるし困ってるし

 まあ肉体の成長や知識? として携わっているから、戻せないと言うのが本音」


 そんな風に思ってたの? 消えてしまえって、、本音が漏れてますよ、

涙って出ないもんだな! 砂漠じゃ水分貴重だもんな!

ってことは外食やコンビニで買った、食べ物の支出は載ってないのか。

ゲーセンや学校での、チケット代とか授業料も載らないと。

遊興費は計上されてないって事か、会社の経費みたいだな。


「参考書や雑誌は支出として、載ってるから後で勝手に見て

 "世錦通帳" の1ページ目に載っている金額は、今の時点までに購入した

 形のある物の金額、プラス銀行残高と財布にあった現金

 つまりはこれから "離受盤" で使える金額

 2ページ目からは、生涯で買い物をした商品とその定価金額が載ってる。

 定価なのは送料込み、みたいな事だから諦めて

 それから食べ物、、食料品・生き物は運べないけど消費物、

 ん~例えば使い切った消しゴムとか、ティッシュペーパーは、

 "離受盤" を使えば発売当時の新品が届く」


 凄いな! だとしても、そんな物は注文しないけどな!

新品ってどんな仕組みなんだ? それ使えば一儲けできそうだな。

こんな場所だし、きっと謎技術ハイテクなんだろうけど。


「それから "離受盤" で運ぶ物には、大きさの制限があるから

 "離受盤" の円より大きなものは通らない、長さは人の背丈ぐらいなら、

 だけど世錦額よきんがくが増えると "離受盤" が大きく成長する」


 ん? 俺は輪が閉じてハッとひらめき、

ミシンさんを手のひらで抑える素振りで、話しを遮る。


「ちょちょっ待って待って、話し整理しながら聞いてるけど

 それ今後は預金額が増えないよね? 斯の地での支出だと、

 今からは運ぶたびに、残高減っていく一方だよね?」


「、チッ」 


 えッ? 舌打ち?


「、、そうね仕方ないんじゃない?」


 こっちへの寄せ方が適当!


 ミシンさんにどうにかして貰おうとは、思ってはないけど、

舌打ちって! 歯に衣着ないでクローゼット通りすぎちゃったよ。

手詰まり感がチェックアウトしかかってる。

まぁでも、、、導具の事いっぱい勉強したんだろうな。

でも実際に使う事は考えていなかったんだな。

勉強ってそんなもんだよね公式とかって机上じゃ理解できても、

実生活で当てめると途端にハマらなくなるし。

サルに知恵の実を与えたみたいな反応してるよぉ。


「どうせキンは ほ~ほ~言いながら、途中で寝ると思ってたから、

 コレ覚えるのに三日も掛かって、週一で復習ふくしゅーしてるんだから、

 お爺ちゃんに二ヶ月前に言われて、一生懸命いっしょおけんめー覚えたんだから!」


 ミシンさん、また口が四国になってますよ。山陰地方に雨の予報も。

おおよそ練習八回か、、、すくなっ! 言いかた子供か!


「んで、どうするの?」


 俺たぶん悪い顔してると思う。

ミシンさんはそっぽ向きながら言った


「、、、知らなぃ、、」


肩を上下に揺らして、鼻をすすり始めた。


 ヤバい! なんだ? めちゃくちゃ可愛い。

預金増えなくて状況悪いのが、すっ飛んだ

行き詰ったのに進みたくないこの感じ

ミシンさんごめんな~ でもこの状況がめっちゃ好き!!

なんて切り出すかちょっと待ってみよう、、、


 それから、、固まったまま30分ぐらい経った。


 どこかに金の針って売ってないかな?

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