第3話 暗いボケには、明るく突っ込めないですよ?

 紳士は窓の方を向き、遠い目をしながら続ける。


「この国で六条天皇ろくじょうてんのうの頃から、語り継つがれており。

 またかの国ではローマ帝国の頃から800年に及ぶ年月、

 ご降臨こうりんをお待ち申しておりました」


 あの場所の説明はしてくれないんだ、

宝くじ売り場って思ってるよ? 俺。


「誰の事でしょう?」


 真顔も引きつる


「我々代々受け継がれてきた、うたが御座います」


 すぅっと息を吐くと語り部かた べのような口調で歌い出す。


「いななく鉄馬てつままたがり、流々放蕩るるほうとうで根を持たず、星々映すその瞳

 その者青き衣をまといて、よわい二十歳を向かえてもなお清らかな身で在られる

 一切の疑わしき影もなく、幾年月も一人身ひとりみを世にささげるもの

 この者 "彼の世かのよ" を救うものなり」


 あーディスってんなコレ。

遠い過去から難しい言葉でディスられている。

俺バカだけどこういうの分かっちゃうんだよね。

鉄馬、バイクね? 昔の人はバイク知らないよね、きっと

根を持たずって実家あるし、まだ実家だし!

星がなんたらは良く分からないが。

コレあれだよね超有名な奴、金色こんじきの野に降り立っちゃうやつ

確かにいま着てるの青だけど、ワー〇マンだけど! バイク寒いんだよ!

ホント失礼だな! すんでまでは行ったんだよ、ギリすんで。

前振りはいいよ問題はここだ! なに幾年月も一人って、

未来予想図が完ソロ決定みたいな、、疑わしき女の影も無いの?

凹むわ~ マジ過去の人並べて説教したいわ~


 この間たぶん俺は白目いてた、


「でも、コレだけじゃ俺って特定出来ないでしょ!?

 もっと似つかわしい、その "降臨" が似合う人とかいるでしょ!」


 少し表情を崩しながら紳士は続ける。


「降臨者にはもう一つの証があり、貴方様のお持ちの

 聖なる紙が共にある事が重要です」


「聖なる紙? それは無いな持って無いですよ、ほんと的外れですよ~」


 紳士は涙ぐみながら声を絞り出した、、


「彼女達は幾年月も待っていた

 宝くじにした、聖なる紙と共に現れる者を!」


「いやぃやいゃいぁぃぁー嫌ぁあああぁ!!! 外れ引いたぁっっ!!!」


 宝くじは当たってから叫びたかったです。

だって外れて叫んでる人なんて見たことないし。


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 叫んだらちょっと冷静になった。

目の前にあった応接テーブルを、

ひっくり返そうと思ったが重くて持ち上がらない。


「俺は一体どういう事に、なるんですか? 普通に能力とかないし、

 それにタダじゃ帰れない様子ですし」


 紳士は、おぉ! といった感じで明るい眼差しを向ける


「それでは順を追って、ご説明致します」


 一つ咳払せきばらいの後。


「世界を救って下さい」


 ははーん時間ないのかな? 

順を追い掛けすぎて説明が逃げたかな?


「意味わからん!」


 俺は立ち上がって続ける。


「だって世の中、平和じゃないですか? まぁ多少の犯罪や、

 国同士の争いはあるんでしょうし、

 それは警察やら国の偉い人がなんとかするだろうし、

 救う世界はどこにあるって言うんですか?」


「この世界では、、」


 スッと肩が落ちる


「私は28代目当主、長く受け継がれて来たものの、

 私には救うことも叶わない、私の先祖は "彼の世かのよ" から来たのです」


「いいや、、落ち延びたと言うのが正しいのかも知れない」


 "彼の世かのよ"と紳士は呼んだ。

こっちの世界じゃ見たこともない化け物が現れ、国がいくつも滅ぼされた。

鉄の剣や魔術の類も抵抗には至らなかった。

最後に残された城で多くの民衆が集まり、最後の時を迎えようとしていた。

紳士の祖先もそのうちの一人であったらしい。

その城に集まった民衆に一人、呪法を心得る者がいた。


「我が娘に "斯の地このち" より、神託しんたくが下った

 これより数百年の後 "斯の地" より聖なる若者が現れ

 我々を救いに来たる、それまで我が呪法で眠りの時を過ごさん

 聖なる若者には導き手が必要である "斯の地" にて降臨を導いて欲しい」


「おそらく "斯の地" では、力を持たなく生まれ出るであろう

 普遍的ないで立ちであり、無能に見えるかもしれん

 "彼の世"に渡ることが出来れば、 "彼の世" の、、、光になるやも知れん

 聖者でなくては化け物は沈まぬ、 "斯の地" にも災いが降りかかるであろう

 "神託しんたく心象しんしょう" は導きの者たちに魔術としてたくす」


 はいまたディスられた、凡顔フツメンだけども。

これでも風呂の鏡じゃ、ちょっとイケメンに見えるんだよ!

ドライヤーで乾かすと元に戻るけど。

"神託の心象" ってのは俺のイメージって事だよな?

なら数年前から当たり付けとけば、俺もそれなりの準備出来たのに。


 紳士の祖先と数名の人柱ひとばしらが斯の地に渡り

"導具どうぐ" と呼ばれる "彼の世" へ聖者を導くための道具を託された。

忘るるなかれと聞かされた詩が最期の言葉だった。


「いななく鉄馬に跨り、流々放蕩で根を持たず~♪


 もうそれいいから、メンタルマットに仕上がるから。


 宝くじに仕込まれた魔術が "神託の心象" に反応する仕組みらしい。

本当に迷惑でご苦労な事だ。

若者って普通10代なんじゃないか?

詩の内容と宝くじでダブルチェックって事か仕事の基本だな。


 紳士の祖先が最期の狭間はざまで見たものは。

呪法で鉄塊てっかいと化す民衆の姿と、

化け物の腹から鉄塊に流れ落ちる溶岩の姿だった。


「、、うんなんか聞けて良かったよ、流行りの小説書けそう

 まぁ話のネタにはなったかな、でもさ俺に何が出来るの?

 平凡だし力もないし特別な人間じゃないよ」


 紳士を困らせているのは分かっている。

でも正直怖い、魔術とか化け物とか現実なのか?

知らない世界に行くとか、ちょっとドキドキする。

でも命掛かってる失敗したらどうする? どうなる?

知り合いや家族に何て言おう、そもそも言えるのか?

でも行ったっきりなのか? ちょいちょい帰って来れるのか?

不明な点が多すぎじゃないか?


 ふいに出た。


「時間は? 彼の世に行くまでのタイムリミットは?」


 紳士はまた悲しそうな表情をする。


「貴方様が聖なる紙に触れた時点で、向こう側にも知れ渡っております

 微塵の猶予もありません、何故なら」


 俺の足元を指さす。


 影が!? 本来床にあるはずの俺の影が、くるぶし近くまで上ってきている。


「それは、化け物の術

 影の末端まったんが胸の辺りまで到達すると、心臓を持っていかれます」


 ―ズッズズッ、、、ズッ、―


「彼の世から斯の地へと干渉かんしょうしてきておる」


 なるほど影の形が指の様に見得る、意外と冷静に見てしまう。


「悲しい現実を話すと、貴方様が彼の世に渡らないと斯の地が汚される

 近しい目線で話すと、お知り合いや御家族の命も近く奪われるでしょう

 貴方様のしかばね起点きてんに、世界は終末を迎えるでしょう」


 勝手に人類を人質に取られた感じか、それも今日一日で。


「あーもう分かんないけど、分かった、、行くよ

 俺があっちに行けば少なくとも

 こっちの世界は平和のままなんだよね?」

 

 このままココにいたら俺は世界の鼻つまみ者じゃないか?

それは嫌だモテない、あっちでもモテる気はしないが。


「おっしゃる通りで、、、すまぬ」


 紳士は瞬きもせず答えた。


「俺デメリットしか無いよ、実際うまく行く気もしないよ

 一人で世界を救うってのに、この」

 

 悪態をついてはみたが、紳士は言葉を重ねてきた。


「彼の世に向かうのは、御一人ではございません」


紳士は車椅子のひじ掛けにあるスイッチを二度押す、、、何も起こらない。

イラっとしたのか連打! じいちゃん結構早く動けるじゃん!

紳士の入ってきた扉が、ゆっくりと開いて声が。


「そんな押さなくても、最初の一回で立ち上がってます

 そっちに行こうとしてます」


 眼鏡、ポニーテール、、、ミシンさん?


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 ミシンさんだ! なんか泣きそうになった。

久しぶりに知ってる人に会った、助かった?

なんで? 店は? 休みか! 俺もだ! 頭の中がグルグルになる。

彼女は何時もの格好とは違って、なんか異国っぽい服を着ていた。

どこの異国と聞かれると分からないが、とにかく異国っぽい、その服可愛い。


「なんで、キンなのか説明してくれますか?」


 ミシンさんは腕を組み、一つ息を吐き冷静になろうとしている。


「魔術が選んだ者を、我々は否定できないであろう?

 時間がございません、詳しい話は彼の世でミシンから聞いて下され」


 ふぅとミシンさんが息を漏らす。


「それと "導具どうぐ" をご用意します、ミシン壁の盾を押してくれ」


 ミシンさんはヤレヤレといった様子で、スタスタと壁際に向かい、

比翼銀行のマークの入っている盾をおもむろに叩く。


―ゴンッン゛ッ!―


音が重い、それ腕の力のみで叩いたの?

ズズッと盾が凹む、ミシンさん力あるな?


 盾が壁にピッタリと収まった。


 それに呼応こおうして応接テーブルの中心が半分に割れ、何かがせり上がってくる。

ん? なんだこれ黒くて丸いマウスパッド、預金通帳? と輪っか、、?

導具ってコレの事か? なんか今っぽいな向こうにも銀行あるのか?

あとなんかオシャレな輪っか2個。


「お急ぎください! 魔の手が腰の辺りまで来ております、

 "彼の世" の事はミシンが熟知じゅくちしております!

 その導具を持って、ミシンと共に急ぎソファーへおかけ下さい!」


「急いでるのに、何でソファーに座らせるんだよ!」


「聖なる若者に、祝福を!」


 両手を広げ天をあおぐ紳士。


「ボッッシューーートッ!!!」

 

 ―カチッ バーーーン!!―


「あっ! ジジィ! 言いやがったな!!!」


 某細かすぎるの様に真ん中から割れるソファー、下は真っ暗闇

自由落下ってどこまでが自由なんだろう、落ちるしかなくて不自由なのに。

目に入る上方の四角い穴から見下ろす紳士。


「最後に! あんたの名前は!!!」


 落ちながら目一杯叫んだ!


「わたくし! セバスチャンと申します!」


「あんたの見た目は! 使う側だろぉーーーーーーー、、、、

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