第2話 自分が普通に思えるのは、周りに突っ込みがいないせいですか


 移動はよっぽどの事がない限り下道したみちを走る(節約節約)

そういえば家を出る前に母親から、

"どうせ当たってないだろうし、換金かんきんしに行くのも面倒だから"って

宝くじを3枚もらっていた。


「どうしたの宝くじとか買うっけ?」


「お父さんよ、なんか接待せったいで行った店で貰ったんだって」


「ふ~ん」


「一等当たってたら、ちゃんと言いなさいよ~」


「3枚で当たるわけないよ、なんか欲しいもんでもあんの?」


「オールドシュ〇イフがオークションに出てて、

 お父さんの出世まで我慢がまんしてるんだから」


 えぇうちの母親は少女趣味です。

出世待ちの買い物って、もういえ買う感覚だろ。

クマって高いのか? クマでうちかたむくのか?


 俺はガソリン代ぐらいになればいいなぁなんて。

もしくは高額!? ってあわ~い期待も持ちつつ家も間近まぢかだが、

帰路途中きろとちゅうで宝くじ売り場へ寄った。


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―ピンコン! ピンコン!―


 40代くらいの女性店員はぐりっと目線だけでこちらを一瞥いちべつ

ホワイトノイズの混じったスピーカーから話しかける。


「お客様、、申し訳ありませんが、こちらでは換金出来かねますので

この近くの比翼銀行ひよくぎんこうまでお越しください、、、」


 そっと宝くじをトレイに返した手は、かすかに震えていた。

俺は突き返された宝くじを上着のポケットに突っ込み、

近くに停めたバイクにまたがる。

スマホのナビに一番近い比翼銀行をセットする。


 信号機の赤を見て何気なく思った。

そういや宝くじ売り場の表示板に当選金額出てなかったな。

普通300円~とか1000円~とか出なかったっけ?

ん、アレ? 変じゃないか? コレやばいのか!

宝くじ偽造か? 盗難か? 捕まるとかないよね?

銀行着いたら警官に囲まれるとか? いややましいことはない!

ウチの父さんにかぎってそんなことあるわけない!


 でも "宝くじ高額当選" と "外れくじ犯罪逮捕" だったら、

確率的に "外れくじ" の方が身近じゃないか?

道で隕石に当たったら有名人だけど、

トイレを開けたら女性がいて痴漢に間違われて犯罪者!

そっちの方が身近だよ、トイレは "外れくじ" だよ!

サービスエリアの男子トイレは、おばちゃん普通に入ってくるけどね。

あ~行きたくないな~捕まるなら、トイレのドアノックしてから捕まりたいな~

でも無実の証明をしないと、おちおちキャンプも出来ないしな。

ビクビクしながら生活したくないし、そもそもモテてもないし。

トイレに誰もいないと良いな。


 考えすぎて、信号変わってた。


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―ドッドッブォン、、カチッッッツ、、―


 銀行の駐輪場にバイクを停めつつ、ヘルメットを脱ぎ、

青地に白の鳥の様な生物が二羽重なったロゴを見上げる。

比翼銀行って来たことないや、うちの近所なんだな。

平日の昼間って案外あんがいいてるんだな。


 腕時計は午後2時50分に差し掛かったところ。

普通の銀行の窓口は3時で終わってしまうし。

あせりと若干じゃっかんの恐怖心(犯罪はしてないけど)で

足早く窓口に向かった。


 受け付けはどこなのかとキョロキョロしていると、

若いスーツ姿の細身の女性が、声を掛けてきた。


「なにかお困りですか?」


胸元には "ご案内係 宮崎" のネームプレート、


「宝くじの件で…」と返す。


 銀行員の女性はニコっとし、俺の頭から足元まで目をくばらせる。

若干、不審者ふしんしゃ扱いか? と思ったがこの人綺麗なんで許す。


「それでは別室にご案内いたしますので、こちらへどうぞ」


 手のひらで向かう先を指してくれたが、その手が下がり切る前に、


「あの~俺の宝くじって、確認しないんですか?」


 表情はおだやかなまま。


「えぇ結構です」と答えた。


 後ろを歩く俺を二度三度、確認しながら案内をしてくれる。

しかし、ほっそいな~、アレで俺と同じ内臓ないぞうが入ってるのか?

なんて考えながら宮崎さんの後ろ付いていった。

少し入り組んだ通路を通ると応接室おうせつしつと書かれた部屋が見えた。


 宮崎さんが重々しい木製の扉を開けると、

うん、、、なんてことの無い応接室。

白を基調きちょうとした、12畳くらいの洋間だ。

三人掛けソファーに通さ、れ、、ん? この部屋なんか変だ。

三人掛けソファーしか無い、これ誰かとなりに座るの? 横並びで説明?


「こちらで少々お待ち下さい」


と深くお辞儀じぎをする。

俺は座るタイミングを失って立ち尽くしたまま、

扉の方へ首だけでペコっと会釈えしゃくする。

宮崎さんは退室した。


 貧乏人びんぼうにんさがなのか部屋を見渡してしまう。

高そうな応接セット、木目の天板が反射している応接テーブル、

壁には比翼銀行の社章しゃしょうの入った盾やポスターなど。

先代の取締役なのか老紳士ろうしんし淑女しゅくじょの写真がズラっと、、、、

いや多くないか?

アメリカドラマの暖炉だんろの上でも、

こんなに写真多くないよな、気になって数えてみる。

22枚まで数えた所で。


 俺が入ってきた扉とは別の扉が開く。


―ン゛ツッツーーーーッッ―


 ドアノブ付いてるのに引き戸って! 自動ドアって!

突っ込み不在で叫びたくなった。


 車椅子に乗った老齢ろうれい細面ほそおもて紳士しんしが現れた。

茶髪と白髪の混じったキチンとした髪型、

首元にはベルベットのスカーフを巻き、厚手の紺色のガウンを羽織はおっており

少し病弱に思えてしまうのは、やはり車椅子のせいだろうか。


「驚かせてしまって申し訳ない、ついでに車椅子での面会もご容赦ようしゃ願いたい」


 どうやら俺の顔は驚いていたらしい。良くないなこのくせ

電動なのだろう押し手の人は付いていない。

そうか車椅子の人ってドアノブ使うの大変だもんな。

面会者の対面にソファーがあると車椅子入らないし、

この部屋は、この人のための作りになっているのか。

部屋の違和感は無くなったけど何者なんだこの人。


 こういった場所には普通、スーツ姿の中年が出て来て

やれ手続きがどうとか、ちまたの話題で茶をにごすのだが。

どうだろう、この紳士は? しかし銀行員とは遠く離れたよそおい。

今にも「セバスチャン」を呼びそうではないか?


 俺が来るのを分かっていたかの様な振る舞いはなんだ?


「貴方は感がえるようなので、先に説明からさせていただくよ」

 紳士はうつむき加減で話し出す。」


「十数分前こちらに電話がありまして、一言"現れました"と

 彼女達には長く付き合わせてしまった、、

 この国だけではない、世界中の彼女達は良く働いてくれた、、」


 この国? 彼女達? なに言ってんだ?


「貴方を待っておりました。この日の為にあの場所で」


「あの場所、、、宝くじ売り場だよ」


 多分俺は真顔だった。

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