チョキンとミシン ~パラドックスは足元が見えない~

トチ

第1話 普通の普通は旅が好き


 パチッとぜる焚火たきび、空には満点の星々ほしぼし


 夜空ってよく見ると深い青なんだな、、両手を伸ばし深く息を吸う。


「ん~っっぅ空気が美味うまい!」


 きらめく星を見ながら思う。


「違うな、、、俺がしたかったのは、コレじゃない」


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 俺の名前は千代田ちよだ にしき、地方都市に住む 25歳 

高校卒業して、そこそこの大学には入ったが、バイトでこき使われ、

バイト先のオーナーに "それっぽく給料出すからウチ来ない?" と、

甘々あまあまな勧誘に負け途中退学の後、今の仕事にいたる。


 仕事先はと言うと古着をあつかう小さな店舗の、やとわれ店長。

オーナーが海外に行ったさいに、趣味で見つけた服や雑貨を

片っ端から空輸くうゆするって暴力的な買い付けしてるんだけど、

届いた物がとにかく汚い。

土気色つちけいろ赤銅色せきどうしょくの古びた小物、ほとんどがびていたり、

もろくさっている物もある。

中にはやっと原型をとどめているような衣類や装飾品もある。

 

 俺の仕事の大半はクリーニングがメイン。

売れる風に仕上げなくては店が潰れる。

これだけの労力ろうりょくを使っているが、売り上げはひど有様ありさまだ。

給料が出ているのが不思議なくらい。

他に仕事は商品管理・品出し・接客と単価設定なんでもしている。

単価設定は "適当はテキトー" というオーナーからの指示で、

店がかたむかない程度にはしているが、

開店当初の価格設定から間違えてると思う。


 前任はオープンから店長で、俺が下っ端したっぱだった頃に、

店の売り上げと釣銭を持って逃げたらしい。

しばらくしてオーナーがどっかの空港で見つけて、シバいて、渡したと言ってた。

オーナーは怖い、渡すってもちろん引導いんどうじゃないっスよね?

それ以上は聞けなかった。

当初の価格設定は前任の店長が、自分のふところを温める金額になっていたようだ。


 店長と言っても雇われているのは俺と、

店員のミシンさん(確か22歳)今年都内の大学を卒業したらしい。

なぜこの店を選んだのかは不明、雇用面接こようめんせつはオーナーが担当だし。

従業員は俺たち2人しかいない。


 ミシンさんにはおもに接客と品出しをしてもらっている。

それほど大きな店ではないし、営業時間も11時~19時と短く、

2人でなんなく回せる。

休みも週一あるし、店も混んだ事ないし、お客さん来ても売れもしないし。

たまーにミシンさん目当ての常連が来るぐらいか、まっそいつも買わないけど。

ミシンさん眼鏡美人で、いつもポニーテールにしてて可愛いんだけども、

常に真顔で接客、お客さんにギリギリのタメグチで俺も近寄りがたい。

俺の事は "店長" と呼んでくれない。大体 "キン" と呼び捨てにされている。

実際俺のが年上だし、いちおう上司なんだよね。

まっそんなことで、いちいちマウント取るつもりもないけど。


 それから俺の名前 "キン" じゃなくて "にしき" ね。

キノコの胞子ほうしみたいに聞こえるからね、いつかやめてね。

名前がミシンだけど、ミシンを使っているところは見たことも無い。

ウチは裾上すそあげとかリメイクとか、やらないしな。

冗談じょうだんでも "ミシンさん、ミシン使えるんスか?" なんて言えない。

翌日 "キン" から "ゴミ" にリネームされそう。


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 普段の俺はと言うと、日々を暮らすのには困らない程度のお金と、

まあ趣味もボチボチ楽しくやっている。


 彼女は、、、さっしてくれませんか?


 休日にバイクで一人遠出をして、テントって、飯食って、寝るのが、

今はひと時のいやしだ。

まあ彼女欲しいけど、、まあ彼女に癒されたいけど、、、

それから道の駅スタンプラリーもしている。かなり埋まったし、これは誇れる!


 昨今さっこんのキャンプブームでモテそう! なんて始めたら、道具の沼にハマった。

ひと時毎週のように、通販の段ボールが届いて給料の半分ぐらい道具に使った。

母親から "うちにも同じぐらい課金してね" と言われたが聞こえないフリをした。

その日の晩飯はキウイフルーツ1個が、お茶碗で出てきた。

翌日はニラ1たばが、コップに入って出てきた。からさで泣いた。


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 キャンプ場の近所の商店で買った、

パリッとするソーセージを頬張ほおばりながら、

ランタンを見て目をらす。


 その明かりの中に、昨日の電話を思い出す。

 

 …こっちから300㎏送るから シ・ク・ヨ・ロ…

 

…今月そんな売れてないから倉庫パンパンっスよ!…


 …いつもの事でしょ? 上手くやってよ~売り上げ気にしなくていいからさ…

 

 …分かった! それじゃあコンテナもう一台買う?…

 

…オーナー無茶っス、在庫管理が倍になります…


 …やっぱ千代田君は、可愛いな! ニカ! ガチャ…


 ―ツー ツー ッー―


 シクヨロってなんだ! 流行はやってるのか? 

ニカ!とか今日日きょうびマンガでも言わないし、

話し終えず切るし奔放ほんぽうすぎる。


 思い出したら焚火で顔が熱い、、、まぁ悪くないっス。


「あー来週入庫があるんだな、バックヤードごっちゃなんだよな、」


 ボソッと言ってしまった。

こういうのが嫌だ、バイクみたいにオンオフきっかり走りたい。

ラジオでもかけて気分変更、、深々しんしんと夜はけていく。


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 寝袋の中でごそごそ、顔出し看板の顔の部分だけ冷たい感じ、

"朝寒いな、ここチェックアウト11時だったっけ"

腕時計を見ると8時39分

仕事で起きる時間とさほど変わらない、こう考えるのも嫌。


 基本朝食は食べないが、キャンプの時は気分で食べる。今日はその気分。

バーナーで湯をかしコーヒーれる。

ホットサンドメーカーに、バターを塗ってパンとソーセージそれから卵、塩コショウで味付け。

プレスしてバーナーで数分両面をあぶる。パンの焼けた匂いがしてくれば出来上がり。

いわゆる普通のホットサンド、粒マスタードを買い忘れたのは痛いがこれはこれで美味い。


 目も覚め腹も落ち着いた所で撤収開始てっしゅうかいし

キャンプ場に少し名残惜なごりおしさも感じつつ、

―来た時よりも美しく― なんて誰かの言葉に感化かんかされて、

小一時間で撤収完了てっしゅうかんりょう


 ここに俺がいた雰囲気ふんいきはないな、ぐるり足元を見回す。

"バイクに道具むなんて容易たやすいですょ兄貴ぃ"と

甲高かんだかい声が。


ソロキャンプなので独り言ひとりごとです。


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