第10話夏菜子ちゃん
翌日から、全校生徒が私のことを『お姉さま』と呼ぶようになった。
「あらお姉さま、ごきげんよう」
教室に着くなりそう声をかけられた。
「ちょっ、千早さんっ!普通に呼んでください」
「あら、だって伊澄さんはエルダーになられたのですから」
「でも、千早さんにはいつも通りに呼んでほしいです。エリカもだよ?」
離れたところでにやにやしながら見ていたエリカに向かって言う。
「え〜、面白くないわねぇ」
そうエリカが笑いながら言った。
そしてお昼休み。
私は今日も祈ちゃんとお喋りの練習をするために中庭へ向かっていた。
今日はどんな練習をしようかな。
こないだは行きあたりばったりで失敗しちゃったから今度はもっとよく考えて練習しないと。
中庭へ向かう途中で、ちょうど祈ちゃんを見つけた。
(あ、祈ちゃん。これから中庭に向かうのかな?だったら一緒にーーー)
「それがですね、実物を見たらすごく可愛かったんです!」
祈ちゃんの隣を歩いていた女の子が祈ちゃんに話しかけている。
(えっ!?)
「本当ですか?それは良かったですね、夏菜子さん」
(あれ?祈ちゃんってお友達いなかったはずじゃ・・・)
「今度写真持ってきますね。本当に可愛いですから、祈さんもきっと気に入ると思いますよ」
「そうですか。楽しみにしています」
わわっ、こっちに来る!
隠れなきゃ!
「すみません夏菜子さん。私はこれから用事がありますのでここで・・・」
「そ、そうですか・・・まだご一緒したかったのですけど・・・じゃあ、また午後に」
私、どうして隠れたんだろう・・・。
今の子はどう見ても祈ちゃんのお友達だろう。
たぶん祈ちゃんが頑張って作ったんだ。
よかったじゃない。お友達ができて。
出ていって祝福してあげれば良かったのに・・・・。なのに・・・。
中庭に着くと、祈ちゃんがいつものように待っていた。
近くまで行ってみるものの、なかなか声をかけられず、それどころか木陰に隠れてしまった。
私、何やってるんだろう・・・。
祈ちゃんにお友達ができて、喜ばなきゃいけないのにこんなところに隠れて。
(寂しいのかな・・・)
祈ちゃんにお友達ができるのなんてずっと後のことだと思っていた。
だからまだしばらくこの祈ちゃんとの関係が続くと思っていたのに、それが今日で終わってしまう。
それが寂しいからこうやって隠れてしまったのかな。
祈ちゃんにお友達ができたら、お昼の練習が終わって私は祈ちゃんに必要なくなってしまう。
「・・・すみお姉さま」
えっ?
「伊澄お姉さま、今日もいい天気ですね・・・」
!?
一瞬、心臓が飛び出しそうになる。
隠れているのが見つかった!?
けど、それが勘違いだとすぐに分かった。
だって祈ちゃんは、下を向いたまま床に向かってお喋りの練習をしていたのだから。
「最初はお天気の話・・・次に授業の話・・・。これなら私でも上手く話せるかな・・・。でもこんなつまらない話題ばかりじゃお姉さまに嫌われてしまうかも」
祈ちゃん・・・。
もしかして一人でお喋りの練習してたの?
私を退屈させないように、私との練習の前にさらに練習をしていたなんて・・・。
(・・・バカだな、私)
祈ちゃんはこんなにも私を慕ってくれているのに、何を怯えていたのだろう。
そもそも私から、祈ちゃんにお友達ができるように申し出たのにその成果に嫉妬するなんて。
少し寂しいけど・・・私も喜ばなきゃ。
せっかく祈ちゃんに初めてできた同級生のお友達なんだから。
「ごめんなさい、少し遅れてしまったわ」
「あ、お姉さま!?あ、あの、今日はいいお天気で授業も晴れて・・・あっ!」
「ふふふ、そうね。今日は絶好のお弁当日和だわ。待たせてごめんなさい、お腹すいてるでしょう?とりあえずお昼にしましょう。私、もうお腹ペコペコ」
「はいっ!」
そして私達は向かい合って座ると、お弁当を広げあえてゆっくりとお昼を過ごした。
会話はなかったけど、一緒にいるだけでとても充実した時間だった。
最後にここで祈ちゃんと過ごす時間としては、最高のシチュエーションだ。
「あの、お姉さま。そろそろ練習を始めないと・・・」
「もういいのよ・・・隠さなくても。祈ちゃん、お友達ができたのでしょう?」
「え?」
「さっき廊下で見たの・・・。夏菜子ちゃんっていうんでしょう?素直そうでいい子じゃない。素敵なお友達ができて良かったわ。少し寂しいけれど、これでお喋りの練習もおしまいかな」
「え・・・えっ?」
「これからはもっとたくさんお友達ができるように、その子と一緒に頑張ってね。私も陰ながら応援してるから、大丈夫。祈ちゃんならきっとできるよ」
「あ、あの・・・」
何故か祈ちゃんは顔をしていた。
素直に祝福の言葉を贈ったつもりだったのに、何か変なこと言ったかな?
「あ、あの、お姉さま。夏菜子さんはお友達じゃありませんけど・・・」
「えっ・・・・?嘘っ!?だってさっきまで楽しそうにお喋りしてたじゃない!?」
「はい、確かにさっきまで夏菜子さんとお喋りしてましたけど、お友達ではありません」
「ど、どういうこと?」
私には楽しそうにお喋りしてるように見えたのにお友達じゃないなんて・・・。
なら夏菜子ちゃんは祈ちゃんにとってどういう関係?
「夏菜子さんはクラスの人気者で、誰にでも声をかけてくれる優しい方です。だから廊下でのことも、孤立している私に気を遣って声をかけてくれたんです。もちろん夏菜子さんがお友達だったら嬉しいんですけど、夏菜子さんとも会話があまり続きませんから・・・」
そ、そうなんだ。じゃあ私の勘違いだったのかなぁ?
でも、祈ちゃんとお喋りしてた時の夏菜子ちゃんの表情は作り物じゃないと思うんだけど。
「ですのでお姉さま!今日もいつものように特訓をお願いします!」
「う、うん」
私は一応頷いた・・・けどなんだろう。
会話が続かないからお友達じゃないっていうのは違う気がする。
会話が続かないからお友達じゃない・・・か。夏菜子ちゃんの方はどう思ってるんだろう?
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