第2章 不思議な旅 第4話 龍雲

帰りのフェリーの中でもまだ、一同は余韻に浸り、お互いが離れがたく

寄り集まっていた。


「呑込みにくいのじゃ」


霊夢をみる人が、通訳するようにつぶやいた。


この旅には見えない同行者が多い、霊憑りは続いてるらしい。


船は、日本列島の口とも言える鹿児島湾に入らんとしていた。


昇り龍と下り龍。


この国は龍体をしている、しかも阿吽の呼吸で上下二体だ。


その言葉を聞いた時、ふとそのことが思い出されたが、

ただの人にはよく分からない。


その場に居合わせた者の中にも、そのメッセージの受け取り主はいなかった。

誰に届ければよいのか分からぬまま、穏やかな湾内に浮かぶ桜島に帰宅を告げた。


桜島の龍は元気だろうか。


霊憑った旅の最後に、またあの噴煙に身を隠した巨大な龍雲を見られるのではないかと秘かに期待しながら、ただの人は甲板から身を乗り出す。


見えるのは、どっしりと身構え、ゴツゴツとした山肌を赤く染め始めた守り神と、

真っ青な海に織りなす白波、それが照り返す朝日だけだった。


龍の存在をはっきりと認識しだしたのは、人から神社詣りを頼まれたその頃から

だっただろうか。


 薩摩一之宮は開聞岳(かいもんだけ)の麓にあり、枚聞(ひらきき)神社と言うが、昔は和多都美神社の名で、外洋に面した立地から航海神として崇められた。


その地の近くで眺めの良い、花園のある小高い丘を訪れた時、初めて龍雲を見た。


確信を持って言えるのは、雲一つない晴れ渡る空の中に、一塊の黒雲がポツンと

浮かんだのを見ると、突如、縦に一筋龍形を現し、土砂降りの雨をもたらしたのだ。


それ以前、ホツマ言葉研究者だという同性の方から、伯父がもらっていた手紙を

読ませてもらったことがあった。

先祖を辿るその道中に豊玉姫がおられるから是非お参りしてくれという内容だ。


その神社本殿裏には、清所と呼ばれる豊玉姫の御陵がある。

その地で家族と共に体験した雨は、龍神の嬉し涙としか受け止められなかった。

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